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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

財産分与・慰謝料

将来の退職金請求権は財産分与の対象になるか3

○「将来の退職金請求権は財産分与の対象になるか2」の続きです。ここでは、「公務員などで将来退職金を受領できる可能性が限りなく100%に近い場合(判例では蓋然性が高いと表現します)は、婚姻期間中に相当する部分の退職金額の原則2分の1を現在の金額に換算して直ちに支払を命じられる場合もあります。」として、関連の2つの判例を紹介していました。

○ある離婚調停事件で準公務員の夫が妻から15年先の退職金について財産分与請求されている事案があります。私は、夫の代理人として、将来の退職金については、実務では、数年後に退職し、その時点の退職金の額が判明している場合に限り財産分の対象になり、10年後、20年後の退職金については、財産分与の対象としない取扱が多いとして、本件では財産分与請求はできないと主張しています。

○しかし、妻は、現在、自己都合退職で退職した場合の退職金額を調査して、婚姻期間中の退職金額の原則として半分を、離婚時点で支払わない限り、調停離婚には応じられないと言って聞きません。訴訟離婚になったのでは、時間がかかり、何らかの対案を出さなければなりません。そこで、「将来の退職金請求権は財産分与の対象になるか2」で紹介した退職金支払を命じた2判例の夫の判決時年齢を調べたら、横浜地裁平成9年1月22日判決(判時1618号109頁) は87歳、東京地裁平成11年9月3日判決(判時1700号79頁、判タ1014号239頁)は夫の年齢は不明でしたが、退職は6年後でした。

○その後退職金請求権の財産分与を認めた判例を探している内に「○○(※勤務先)から退職手当を支給されたときは,金950万円及びこれに対する同支給日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と命じた平成18年11月12日広島家裁判決(家庭裁判月報59巻11号175頁)が見つかりました。退職金の財産分与請求に当たってはその考え方が参考になりますので、以下に紹介します。

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(2)退職手当について
ア 被告Bが将来定年により受給する退職手当額は,被告Bが定年まで勤続することを前提として初めて受給できるものである上,支給制限事由(乙4)に該当すれば退職手当を受給できず,また,退職の事由の如何によって受給できる退職手当の額には大きな差異がある(乙4)から,現時点において,その存否及び内容が確定しているとは言い難く,被告Bの定年時における退職手当受給額を現存する積極財産として財産分与の対象とすることはできないものというべきである。

 他方,被告Bは,現時点において自己都合により退職した場合でも退職手当を受給できるところ,その額を平成16年12月当時の給料月額をもとにして試算してみると,勤続年数32年(昭和49年4月から口頭弁論終結日まで。1年未満の端数は切捨てる。)の自己都合による退職の場合の支給率は43.75であるから,その額は1956万3600円(計算式:447,168円×43.75)となる。

 そして,被告Bが原告と婚姻した昭和49年×月×日から別居した平成14年8月×日までの約28年間,被告Bが○○○として勤務したことについては,原告の妻としての協力があったことを否定することはできないから,被告Bが自己都合により退職した場合でも上記金額の退職手当を受給できる地位にあることは,それを実際に受給できるのが将来の退職時ではあるものの,これを現存する積極財産として財産分与の対象とするのが相当であり,上記金額のうち婚姻期間に対応する額である1711万8150円(計算式:19,563,600円÷32年×28年)の範囲で財産分与の対象になるものというべきである。

イ ところで,退職手当の支給率は,自己都合退職の場合よりも定年退職の場合の方が高くなっており,勤続年数35年の場合の整理退職等の支持率は59.28とされている(乙4)から,被告Bが定年まで勤務したときに受給できる退職金額は,現時点において自己都合により退職したときに受給できる退職手当額と比べて相当増額となることが見込まれる。よって,被告Bが退職手当に関して原告に支払うべき財産分与の額を定めるに当たっては,民法768条3項所定の「その他一切の事情」として,これを考慮するのが相当である。

 そして,前記(1)で述べたとおり,本件において,原告の妻としての寄与が2分の1を下回るべき特段の事情は認められないところ,被告Bが,定年まで勤務した場合には,相当増額された退職手当額を受給することができる地位を有すること等,本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば,被告Bが原告に対して支払うべき財産分与額は950万円とするのが相当である。

ウ なお,被告Bに対する退職手当は,退職時に支給されるものであるから,将来退職したときに受給する退職手当を離婚時に現実に清算させることとしたときには,被告Bにその支払いのための資金調達の不利益を強いることにもなりかねないことも勘案すると,原告に対する上記退職手当に由来する財産分与金の支払いは,被告Bが将来退職手当を受給したときとするのが相当である。

エ よって,被告Bは,原告に対し,離婚に伴う財産分与として,950万円を退職手当受給時に支払うべきである。