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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

不倫問題

メールデータを違法収集証拠とせず請求を一部認容した裁判例紹介

○「メールデータを違法収集証拠として請求を棄却した裁判例紹介2」の続きで、パスワードを教えたり,閲覧を許したりしていないのに原告が閲覧したもので,重大な犯罪という著しく反社会的な手段を用いて収集したものであるから,証拠能力を否定されるべきとの主張が排斥された平成28年8月4日東京地裁判決(TKC)全文を紹介します。

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主   文
1 被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成27年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,原告の配偶者であるC(以下「C」という。)と被告が不貞関係を持ったという不法行為により,精神的損害を被ったとして,不法行為に基づき,550万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達日である平成27年3月3日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。

1 争いのない事実等(証拠によって認定した事実については末尾に証拠を掲記する。その余は争いのない事実である。)
(1)被告は,平成10年4月に結成されたバンド「a」のリーダーを務めている。
(2)被告とCは,平成25年12月頃,佐賀県で再会した。その後,Cは,aのバンド活動をサポートするようになった。
(3)Cは,5回ほど,被告の自宅に宿泊したことがある。
(4)aは,平成26年9月7日,京都でバンド活動を行った。Cと被告は,平成26年9月6日及び同月7日,京都市α所在のビジネスホテル(ホテルマイステイズ京都四条)の同じ部屋に宿泊した。
(5)原告とCは,平成27年1月20日より別居し,現在,離婚調停中である(甲5)。

2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1)不貞行為があったか否か(争点1)
(原告の主張)
 被告は,Cに配偶者がいることを知りながら,遅くとも平成26年5月頃から10月頃にかけて船橋市内の被告自宅において,また,同年9月6日から同月8日にかけて京都市内のホテルマイステイズ京都四条において,不貞行為を行った。

(被告の主張)
 否認する。
 被告宅にCが宿泊したのは,映像編集等のバンド活動の打合せを行うことが主たる目的であるとともに,原告がいる自宅に戻ることを不安に感じ動揺するCを精神的に安定させるために,避難的に被告宅に泊まることを許したものである。
 被告とCは,平成26年9月6日,同月7日,京都のホテルで同じ部屋に宿泊していたが,被告のバンドメンバーのDもいたので,性交渉はしていない。
 被告とCとのメールやLINE,Cのフェイスブックなどの証拠は,Cがパスワードを教えたり,閲覧を許したりしていないのに原告が閲覧したものであり,重大な犯罪という著しく反社会的な手段を用いて収集したものであるから,証拠能力を否定されるべきである。

(2)婚姻関係が破綻していたか否か(争点2)
(被告の主張)
 仮に,被告とCの不貞行為が認められるとしても,原告とCの婚姻関係は既に破綻していた。
 原告とCの結婚生活は,原告がCを軽んじることが多かった。平成25年10月頃,Cが車を運転中の原告に対し,子どもがほしいと言ったところ,原告が車内のコンソール部分を殴りつけることがあった。Cは,子どもをもうけられないことにひどく落胆するとともに,原告の前で子どもの話はできないと考えた。このとき,Cは35歳くらいであったが,早期に離婚を決意しなければ,他のパートナーを見つけ子どもをもうけることができなくなってしまうことを危惧し,原告との離婚を考えるようになった。遅くとも平成26年5月頃には,出産に関する夫婦の問題の解決は見込まれず,原告とCの婚姻生活に修復可能性はなかった。なお,原告とCは,平成27年1月から別居しているが,その直前,原告はCに対して傷害行為を行っている。

(原告の主張)
 被告の主張する事実は否認する。
 原告はCの希望することには応えていた。また、原告もCに対して子どもをつくろうと提案していた。原告とCは一緒に旅行するなどしていたし,平成26年夏頃まで性交渉もあり,平成26年5月頃には婚姻関係は円満であった。 

(3)損害及びその額(争点3)
(原告の主張)
 原告は,被告の不貞行為により,円満な家庭生活が崩壊させられ,不安・抑うつ状態を発症した。
 被告は,積極的に原告とCとの婚姻関係を破綻させ離婚させようとしており,不貞行為の態様は悪質であって,原告の精神的損害を増大させている。被告は,不貞行為が発覚した後も,不貞行為を否認し,不誠実な対応を繰り返すことにより,さらに原告に精神的損害を与えた。
 以上により,被告の不貞行為によって原告が被った精神的損害は,500万円を下らない。
 また,原告は,本訴訟提起をやむなくされ,本件と因果関係のある損害として,上記損害額の1割である50万円を弁護士費用として請求する。

(被告の主張)
 仮に原告とCの婚姻関係が破綻していたとまでは認められないとしても,原告とCは,原告の主張のような円満な生活を築いていたとは言えない。
 また,原告とCの婚姻は平成23年9月であり,未だ短期間であり,子もいない。したがって,被告の行為が原告とCの婚姻生活に与えた影響は軽微であり,原告の主張する損害額は過大である。
 また,原告は以前から,デパスという不安・抑うつ状態の者向けの薬を服用するなど,精神的に不安定な症状があった。被告の行為と原告の精神的疾患の因果関係はない。

第3 争点に対する判断
1 争点1(不貞行為があったか否か)について

(1)被告は,原告がCからパスワードを教えられていないのに,これを特定して,Cの携帯電話に入力して甲2,3を入手したとして,甲2,3の証拠能力が否定されるべきと主張するが,被告主張の事実を前提としても,甲2,3が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものとは認められず,証拠能力を欠くものとは認められない。

(2)当事者間に争いのない事実,証拠(甲2,3,19,23,乙15,16,C証人,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告とCは,平成10年頃に知り合ったが,平成25年12月頃,佐賀で行われたライブ会場で再会した(乙15,16,C証人,被告本人)。
イ 被告とCは,平成26年1月頃から,フェイスブック,メール,LINE等で連絡を取り合うようになった(甲2,乙15,16)。被告とCのやりとりには,「私の愛受け止めてほしい 大好きすぎて身もだえる」「俺も骨抜きで演奏できない(笑)」「そのうち外泊禁止になったらどうしよう そしたら本気で奪いに行く!!」「Cの子供なら欲しい。」などがある。
ウ 被告とCは,平成26年1月14日以降,会うようになり,平成26年5月9日頃からは,外泊が多くなり,この頃から,遅くとも同年10月中旬頃までの間,船橋市内の被告宅において,不貞行為を行った(甲2,19,23,原告本人。甲2のやりとりからは,不貞行為が行われたことが推認される。)。
エ 被告とCは,平成26年9月6日から同月8日にかけて,ホテルマイステイズ京都四条において,不貞行為を行った(甲2,3)。

(3)被告の主張について
ア LINE等でのやりとりは言葉遊びであるとの点
 被告は,CとのLINE等でのやりとりはCの「言葉遊び」や「物語」に付き合っていただけであり,音楽業界では「愛してる」などと親愛の意味をこめて言うことはよくあるから,不貞行為は存在しないと主張し,Cも同旨の証言をする。
 もっとも,被告とCのやりとりは,「俺はずっとCにだけ優しい男で居たい」「子供欲しいね」などというものであり,バンド関係者同士の親愛の情の表現を超えているし,「解放してもらわないと子供ができてもEになるんだよ!嫌だよ」というのは,原告と離婚しなければ被告とCの子供が原告の戸籍に入ってしまうがそれは嫌だという趣旨であり,原告との結婚生活に悩んでいたというCの証言内容と合致し,「言葉遊び」や「物語」ではなく真意が表れたものと認められる。
 これらの点に鑑みれば,LINEやメール等でのやりとりが言葉遊びであるとは認められない。

イ 被告宅では編集作業のみを行っていたとの点
 被告は,Cが被告宅に5回ほど泊まったことはあるものの,映像の編集作業や夫婦関係の相談をしていたに過ぎないと主張し,Cも同旨の証言をする。
 もっとも,甲2には,Cが被告宅に泊まったとみられる平成26年5月9日から10日にかけて,「昨日は最高の時間をありがとう^_^離れるのさみし過ぎる」「うん私も一緒にいると幸せ~またどうにか理由作って泊まりいっちゃおう!」とのやりとりがあり,被告が編集作業の礼を述べるに留まっていないこと,上記のとおり,LINEやメール等でのやりとりが言葉遊びであるとは認められないことなどからすると,被告とCは被告宅において不貞行為をしていたものと推認でき,この点についてのCの証言や被告の供述は信用できない。

ウ 京都のホテルにD証人も宿泊していたとの点
 この点,被告は,京都のホテルにはD証人も宿泊しており,Cはソファで寝たから不貞行為はなかったと主張し,かかる主張に沿う証拠としては,乙15ないし17,D証人,C証人の証言及び被告の供述がある。
 もっとも,甲3によれば,被告が予約したのは定員2名,18平米,ダブルベッドの部屋であり,人数は2名,男女1名ずつ,朝食付きとなっている。D証人は被告と一緒にチェックインした旨証言するが,男性2名では予約との齟齬が生じている。
 また,甲2によれば,被告とCは,京都のホテルを探す際に,「東海が安いかも でもツインなのよね」「ツインで大丈夫なの?」「ダブル探す」などと相談しており,ツインではなくダブルの部屋を探していることが認められるが,被告,D,Cが一緒に宿泊する予定なのであれば,ツインで支障があるはずがない。

 さらに,D証人はホテルで朝食を食べなかったと証言する。被告やD証人によれば,ツアーの費用を抑えるためにホテルに人数を偽って3名で宿泊しているほどであるのに,朝食を取らないのであれば,あえて朝食付きのプランにしている意味がない。
 D証人,C証人の証言及び被告の供述は,京都のホテルに3名で宿泊したという点については,上記のように不合理であり,信用できない。

(4)上記(2)のとおり,被告とCが平成26年5月9日から同年10月中旬頃までの間,船橋市内の被告宅において,不貞行為を行い,また,同年9月6日から同月8日にかけて,ホテルマイステイズ京都四条において,不貞行為を行ったことが認められる。

2 争点2(婚姻関係が破綻していたか否か)について
(1)当事者間に争いのない事実,証拠(甲23,乙16,C証人,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告とCは,平成23年3月頃から,埼玉県入間市の原告宅で,原告の母と同居を始め,同年9月18日に婚姻した。
イ Cは,原告との間の子どもをもうけることを希望していたが,原告との性交渉について苦痛もあり,悩んでいた(乙16,C証人)。
ウ Cは,原告がCの外出先へ来てしまうことなどにつき,監視されているようで不満に思っていた(C証人)。
エ 原告とCは,平成25年10月,伊勢へ旅行した(甲9の1,9の2)。
オ 原告は,平成25年○○月○○日のCの誕生日に,バッグをプレゼントした。Cは,このことをフェイスブックに投稿した(甲10)。
カ 原告は,平成25年12月25日,佐賀の実家から飛行機で帰ってきたCを,都営浅草線大門駅まで迎えに行った(甲11)。
キ 原告とCは,平成26年1月1日,一緒に初詣に行った(甲12)。
ク Cは,平成26年○月○○日,原告の誕生日プレゼントにスニーカーをプレゼントした(甲13)。
ケ 原告とCは,平成26年2月1日,ペットの犬をつれて伊豆へ旅行に行った(甲14の1,14の2)。
コ 原告は,平成26年2月8日,バスで出勤するCを駅の近くまで送っていった(甲15)。
サ Cは,平成26年4月頃,原告をフェイスブックからブロック(Cのフェイスブックページを閲覧できなくすること)した(C証人,原告本人)。
シ 原告とCは,平成26年7月6日,富岡製糸場へ行った(甲16の1,16の2)。
ス 原告とCは,この頃から,冷暖房を使うかどうかの理由により寝室を別にするようになったが,日によっては同じ寝室にいることもあった(C証人)。
セ Cは,平成26年8月半ば頃,原告に対し,家を出たい,別居したいと言った(甲23,原告本人)。
ソ 原告とCは,平成26年8月31日,富士山へ旅行に行った(甲17の1,17の2,原告本人)。
タ Cは,平成26年9月中旬頃,京都旅行から帰ってきた後,原告に対し,離婚したいと言った(甲23,原告本人)。
チ 原告は,平成26年10月末頃,Cが使っていた古い携帯電話のメールやLINEを見て,Cが不貞していることを知った(甲23,原告本人)。
ツ 原告は,弁護士に相談し,被告宛に平成26年11月28日付け「通知書」を送付した(甲4の1,原告本人)。
テ 原告は,Cに対し,平成26年11月28日頃,着物を誕生日プレゼントした(甲18,原告本人)。
ト 原告とCは,平成25年12月頃までは一緒に風呂に入っていた(原告本人)。
ナ Cは,平成26年1月半ば,原告宅を出た。

(2)被告は,原告とCの婚姻関係は,遅くとも平成26年5月頃には破綻していたと主張し,Cは,平成25年10月頃,産婦人科に行って検査をしようと原告に話をした際,原告がコンソールを叩いて,なんで病院なんか行かなきゃいけないんだと言ったので,離婚を考えるようになったと証言する。生活ができなくなるので,悩んでいたと証言する。平成25年10月に原告がコンソールを叩いたことについては,これを裏付ける客観的証拠がないが,仮にかかる事実があったとしても,Cは離婚を考えるようになったものの生活ができなくなるので悩んでいたに過ぎない(C証言)。

 その後も原告とCは旅行に行ったり,プレゼントを贈り合ったり,一緒に入浴したりしていた事実も認められる。Cが原告に対して不満を持ち,離婚を考えていたという事実があったとしても,不貞行為があったと認められる平成26年5月から同年10月中旬の時点で,原告とCの婚姻関係が破綻していたとは認められない。よって,被告は,原告に対し,原告の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害したものとして,不法行為責任を負う。

3 争点3(損害及びその額)について
(1)後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,頭痛とめまいを訴えることはもともとあったものの(C証人),平成26年10月末頃,Cと被告の不貞行為の事実を知った後,ショックを受け,眠れなくなり,食事ができなくなり,平成27年1月には9キログラムほど体重が減ったこと(甲23,原告本人),被告との交渉を開始した後,被告は平成26年12月から平成27年1月にかけ,不貞行為を否認し,本訴提起後も同様であったこと(甲4の1,4の2,弁論の全趣旨),原告は,平成27年2月には不安,抑うつ状態の診断を受けていること(甲6),平成27年8月には右顔面神経麻痺の診断を受けたが,強いストレスが原因と考えられること(甲21,原告本人)などが認められる。

(2)原告にはもともと頭痛やめまい等があったものの,不貞行為の事実を知った後の症状は従前のものとは同じとはいえず,原告は,被告の不貞行為により家庭生活が崩壊させられたこと等によって,強い精神的損害を受けたことが認められる。

(3)被告とCの不貞行為の期間,原告とCの婚姻生活の期間・状況,破綻に至る経緯など本件における一切の事情を考慮すると,被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる損害賠償額は,200万円をもって相当と認められる。また,弁護士費用については,20万円を被告の不法行為と相当因果関係のある損害額と認める。

4 以上のとおり,原告の請求は主文の限度で理由があるから,これを認容し,その余を棄却する。
東京地方裁判所民事第39部 裁判官 脇田奈央