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離婚訴訟中の面接交渉を認めた平成元年8月14日千葉家裁審判全文紹介

○離婚には同意したものの経済的条件が抗合わず不調となり、離婚及び親権者の定めにつき、裁判が進行している事例で、離婚訴訟が終了するに至るまで、毎月第1及び第3土曜日並びに第2及び第4日曜日のうち予め申立人が指定する日に、申立人の指定する場所において、各3時間以上の時問、申立人を申立人と相手方との間の長男に面接させなければならないとした平成元年8月14日千葉家裁審判(家月42巻8号68頁<参考収録>)全文を紹介します。

○残念ながら、平成2年2月19日東京高裁決定(家月42巻8号57頁)では、夫婦が少なくとも事実上の離婚状態にある場合には民法766条を類推適用すべきであるとした上、原審判が認めた面接交渉は子の福祉を損なうおそれが強いので、現時点ではこれを許さないことを相当とする余地があり、また、仮に許すとしても家裁調査官等を関与させる等の配慮が必要であるとして取消・差し戻しとなりました。

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主  文
 相手方は、平成元年9月以降申立人と相手方との間の離婚訴訟が終了するに至るまで、毎月第1及び第3土曜日並びに第2及び第4日曜日のうち予め申立人が指定する日に、申立人の指定する場所において、各3時間以上の時問、申立人を申立人と相手方との間の長男Aに面接させなければならない。 

理  由
1 申立人は、「相手方は、申立人が当事者の間の長男Aと毎月土曜、日曜、祝祭日及び体暇中にその子と面接することを認める」との旨の審判を求め、別紙記載のとおり申立ての実情を述べた。

2 一件記録によれば、次の各事実が認められる。
(1) 申立人と相手方は、昭和59年11月24日に婚姻した夫婦であり、同人らの間には、長男A(昭和61年4月9日生)がある。

(2) しかし、申立人と相手方の間には、性格の不一致等から争いが絶えず、申立人は、昭和62年9月13日、本件相手方を相手方として当裁判所に夫婦関係調整の調停を申立て(当裁判所昭和62年(家イ)第726号)、同事件調停期日において当事者間に離婚の合意は成立したものの、経済的条件等については合意成立に至らなかつたため、同63年1月28日、同調停事件は調停不成立により終了した。そこで、申立人は、相手方との離婚及びAの親権者を申立人と定めることを求めて千葉地方裁判所に訴えを提起し、同訴訟は、同裁判所昭和63年(タ)第40号として係属中である。

(3)Aは、現在、相手方と共に申立人所有名義のマンションに居住し、時折、相手方の実弟がAの面倒を見ているため、相手方の実弟が父であると錯覚し、そのように信じて生活を送つているという極めて異常な状況にある。
 申立人は、会社員であり、月収約20万円の所得があり、本件相手方の申立てにかかる東京家庭裁判所昭和63年(家)6633号婚姻費用の分担申立事件審判により、昭和63年11月以降毎月金5万円の婚姻費用分担金を相手方に支払うよう命じられたため同金員を相手方に支払つてきた。これに対し、相手方は、中学校教諭の職にあり、年額合計約金450万円の所得があるほか、その実家から月金7万円程度の経済的援助を受けている。

(4)相手方は、Aの福祉を害するということを理由に申立人がAと面接することを拒絶している。相手方がAの福祉を害すると考える根拠の要旨は、要するに、Aが産れて間もなく夫婦別居となりAが申立人の顔さえ知らず、前記のとおり相手方の実弟を父と信じるような生活に安定しているので、Aと申立人との面接を許せば、Aの精神状態が不安定になり、相手方の生活も混乱に陥るということにある。

(5)申立人は、最低限でも第1及び第3土曜日並びに第2及び第4日曜日にAと面接することを望んでいる。
 以上のとおり認められる。

3 そこで判断すると、申立人と相手方とが夫婦関係にある以上、申立人に父としてAと面接する法律上の権利が一般的に帰属していることは当然のことである。
 しかし、申立人と相手方との夫婦関係が実質的に破綻していると見られることは前記のとおりであるから、申立人がAと面接することによりAの福祉にとつて明らかに重大な支障がもたらされる危険性がある場合には、上記申立人の面接権も一定程度の制限を受けることがあると解されるところ、本件全記録を精査しても、そのような危険があるとは認められない。

 なるほど、相手方は、申立人がAと面接することによりAの精神状態に不安定を招くと主張する。しかしながら、この主張は、相手方の感情的・一方的な見解に基づくものであるし、相手方の実弟がAの父とは絶対になり得ないことやAの年齢等に照すと、むしろ可及的速やかにAと申立人とを面接させ、Aをしてその真実の父が申立人であることを知らしめることこそがAの福祉に合致すると考えられる。

 また、そもそも、申立人と相手方夫婦の別居開始が、相手方において前記マンシヨンのドアにチエーンをかけ、申立人がその中に入れないようにしたという相手方の一方的な排除行為に始まつたことが本件記録によつて認められるのであるから、Aが真の父である申立人の顔さえろくに知らないような状態になつてしまつたことの原因のほぼ全部が相手方にあるということができ、してみると、相手方において前記のように申立人とAとの面接を拒絶すること自体が信義則に反するものであるといわざるを得ない。

 更に、本件に関する当庁家庭裁判所調査官の調査結果及び相手方本人審問の結果によると、申立人とAとを面接させた場合、相手方の精神状態の安定が損われる虞が多分にあることが認められるが、仮にそうであるとすると、ますますもつてAを相手方の養育・監護にのみゆだねることは適当でないといわなければならず、可及的速やかに申立人においてもAに対する実質的な監護・養育が可能となるような状況を準備しなければならないのである。

 結局のところ、相手方の前記主張は採るに値せず、このほか、本件全記録によつても、申立人がAと面接することがAの福祉を著しく害することになると認めるに足る根拠を見出すことはできない。

4 よつて、申立人が実質的に面接を希望する範囲内で、申立人の本件面接交渉の申立ては理由があるので、本件記録に現われた全事情を考慮のうえ、主文のとおり審判する。 

(別紙)
申立の実情

1 申立人と相手方は、昭和59年5月3日結婚(入籍日同年11月24日)し、昭和61年4月9日長男Aが生れた。

2 申立人と相手方は、いわば性格の不一致で結婚当初から頻繁に争いを繰り返し、千葉家庭裁判所と相談のうえ、昭和62年9月13日、申立人が住所地の母親宅に別居し、同月15日千葉家庭裁判所に夫婦関係調整調停(昭和62年〔家イ〕第726号)を申立てた。

3 この調停は、両当事者とも婚姻生活破綻の事実は認め、離婚には同意したものの経済的条件が抗合わず不調となり、現在、千葉地方裁判所昭和63年(タ)第40号にて、離婚及び親権者の定めにつき、裁判が進行している。
 なお、この裁判においては、相手方も離婚を求める反訴を既に提起しており、離婚自体には、双方間に争いはなく、争点は、主として経済問題、子供の親権者の点だけである。

4 相手方は、この裁判においても、婚姻生活破綻の事実は認めているものの、財産分与等を求めて強く争っている。

5 申立人は、前記別居後も、再三にわたり長男Aとの面接を要求したが、面接調停の場でなけれは話し合いに応じないとの姿勢であるので、申立趣旨のとおり調停を求める。