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面会交流・監護等

面会を拒否した母に対する慰謝料請求を認めた横浜地裁判決全文紹介2

○「面会を拒否した母に対する慰謝料請求を認めた横浜地裁判決全文紹介1」の続きで、母に対し70万円の支払義務を認めた平成21年7月8日横浜地裁判決(家月63巻3号95頁)判決裁判所の判断部分前半です。

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第3 争点に対する判断
1 面接交渉等の経過について

 前記前提となる事実並びに以下に記載する各証拠及び弁論の全趣旨によれば,面接交渉等の経過として,以下の事実を認めることができる。
(1) 原告は,被告が平成14年×月×日長女を連れて家を出た後,長女と会っていなかったが,同年×月×日朝に長女の学校の校門前で長女の登校を待ち,長女と会った。原告は,その際,長女にテレホンカードを渡し,原告に電話をするように話し,また,原告と会ったことについて口止めした。しかし,長女は帰宅後,被告に対して,原告と会った経過について話した。(被告本人)

 原告は,弁護士の代理人(本件訴訟における原告の訴訟代理人。以下「原告代理人」という。)に委任して,平成14年×月×日に長女との面接交渉を求める審判の申立てをし,同事件に係る調停において,平成15年×月×日試行面接が行われた後,同年×月×日に本件合意が成立した。その後,平成17年×月までは,ほぼ1か月に1回,原告は面接交渉を行っていた。面接交渉における原告の長女に対する態度には格別の問題はなく,長女も次回に行きたい場所を述べるなど面接交渉に積極的態度で応じており,その間,長女が原告に誕生祝いの手紙を送るなど,原告と長女の関係は普通の親子関係であった。(甲12,甲17,甲18,甲19の1,2,甲24の1,2,乙3,原告本人,被告本人)
 各面接交渉には,被告も長女に付き添っていた。平成15年×月ころから,原告は被告に対して,長女と2人のみで会う態様の面接交渉を行うこと,また,面接交渉の頻度を増やすことを承諾するよう申し入れるようになったが,被告はこれを拒否し続けた(甲31の4,5,7,乙3,原告本人)。

(2) 被告は,被告が申し入れている離婚の交渉について,原告に応じる態度がみられないこと及び原告の面接交渉の方法に関する要求が拡大してきたことから,平成16年×月に離婚交渉のために弁護士(本件訴訟における被告の訴訟代理人。以下「被告代理人」という。)を選任し,原告との交渉を以後,同弁護士に委任した(乙3,被告本人)。

 被告は,離婚の協議に原告が応じず,被告の申し立てた離婚の調停も不調となった一方で,原告から面接交渉の頻度の増加等の要求が繰り返されるという状況の下で,平成16年夏ころから,面接交渉に応じることに負担に感じるようになった(被告本人)。そして,同年×月には,被告代理人を介して,原告代理人に対し,離婚問題及び面接交渉の方法の変更を含めた夫婦関係全般についての協議を申し入れた。同申入れにおいては,被告代理人の意見として,被告が,面接交渉の実行のみならず面接交渉の日程調整についても原告との関わりを持つことについて強い嫌悪感を抱いており,このままでは面接交渉の実行は不可能となるおそれがあることを警告し,被告がこのような感情を抱く原因は,被告が再三離婚の申入れを行っているのに対して,離婚協議に応じない原告の言動にあると考えられること,また,本件合意の内容が被告に過度の負担を強いる内容となっていることが背景となっていると考えられることが指摘されていた。(甲15,被告本人)
 平成16年×月にも,被告代理人から,原告代理人に対して,離婚について協議を求める申入れがあり,当該申入れの中で,被告代理人は,本件合意は被告に不利益な内容となっているので破棄すベきと考えており,面接交渉の実施方法についてもその方向で協議をする旨の意向を示していた(甲16)。

(3) 原告は,被告からの離婚のための協議の申入れには応じなかった。一方で,既に本件合意成立後,一定の期間を経過したことから,学校行事にも参加したいと考え,被告代理人に平成16年×月以降,学校行事への参加について調整を求める書面を繰り返し送付した(甲31の5,7)。被告は,これに対して拒否の意向を示し,協議に応じようとしなかった。

 原告は,平成16年×月×日,本件合意について,履行勧告(学校行事への参加及び面接交渉の態様(原告と長女2人だけの面接交渉を行いたい。)及び回数(月複数回面会したい。)について。)の申立てをしたが被告はこれに応じなかった。被告代理人は,当該手続中で,家庭裁判所調査官に対し,被告が不安定になっているので今後の面接交渉は拒否する方向である旨回答していた(乙4)。

 その後,原告は,長女の学校の校長に面会して学校行事に参加することの承諾を得て,平成17年×月×日の学校行事(学園祭)に参加した(乙3,原告本人)。
 被告は,被告の承諾なく原告が学校行事に参加したことによって,原告に対する不信感を高め,原告に対して面接交渉を拒絶することとし,長女に対して,原告が約束を破ったので,平成17年×月×日に原告との間で約束済みであった面接交渉には出かけないこと,今後,しばらくは原告と会えないがずっと会えないわけではないことなどを説明し,長女の了解を得た上で,面接日程を約束済みであった平成17年×月×日の面接交渉を拒絶した(被告本人)。

 被告は,その後,面接交渉には一切応じていない。被告は,本件合意の内容が不公平であるなどとして,その変更を求める調停の申立てをしたが,平成17年×月×日に不調となった(甲10)。また,被告は,同年×月×日に,被告代理人を介して,原告の学校行事への参加は話合いができていないので認められない旨,また,被告との話合いもないまま学校行事に参加したことについて,原告が誤りを認めない限り,面接交渉を認めるつもりがない旨述べた通知書を原告に送付した。

 原告は,平成17年×月ころ,本件合意のうち面接交渉に係る合意について履行勧告の申立てをしたが,被告は,同年×月×日ころや平成18年×月×日ころに原告が被告の実家を無断で訪れたことに対して態度を硬化させ,家庭裁判所の調整に応じなかった(乙3,乙5,原告本人。なお,原告は,被告が担当家庭裁判所調査官に対して,「離婚に応じれば子供に会わせる。」等の条件付きの回答をしていた旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)。
 原告は,その後も長女の学校から承諾を得て,運動会,参観などの公開された行事に参加した。原告の参加に関して,被告は心理的に相当の負担を感じていたが,学校行事において格別の混乱はなく,学校側も特に迷惑を被ったという認識を有してはいなかった。(甲26,甲28,原告本人)

(4) 平成17年×月以降の原告と長女との交流は,原告が,赴任中の○○市から帰宅が可能なときに,被告の実家を訪れ,長女がいた場合に玄関先で15分ないし20分立ち話をしたり(1か月に1回未満),主に原告から,1か月に2,3回長女に電話をして会話をするなどの形態で平成19年×月×日まで継続していた。平成18年2月には長女が原告にバレンタインデーのチョコを贈り,同年12月には原告がクリスマスのプレゼントを被告の実家にいる長女を訪れて手渡したことがあった。長女は,その間の原告の言動について,長女が友達と一緒にいるときに声をかけたり,友達もいる学習塾に尋ねてきたりすることなどについて,嫌な思いをし,このような長女の感情に原告の理解がないと感じていた。

 また,原告からの電話について,小学校5年のころ,塾に出かける前に電話があると塾に行く準備ができなくなると被告に相談し,被告の助言により,原告にその旨話したことがあった。しかし,少なくとも平成19年×月に原告と被告との離婚が確定するまでの間においては,長女は,原告と面会すること自体に拒否的な感情を抱いていたことはなく,原告との面会に自然に応じていた(ただし,原告から買い物に行くことを誘われ,被告と一緒でなければ嫌だと言って拒んだことがあった。)。(甲4,甲18,甲34の5,6,乙4,乙5,原告本人)

 なお,長女は,平成21年に実施された家庭裁判所調査官面接において,原告との関係を楽しいものではなかった旨回想を述べている(乙5)が,後述のとおり,同時点において,長女は原告に対して消極的な感情を抱くに至っていたこと,同面接において,楽しいはずの思い出について記憶がないと供述していること,及び原告提出の写真における長女の和やかな表情等(甲34の5,6)からすれば,長女の上記回想に係る供述は,同時点における長女の原告に対する感情と面接交渉をめぐり原告被告間に存在している紛議及び自らの立場に対する配慮に影響されているものと考えられ,信用性を認めることはできない。

(5) 被告は,原告に対して平成17年×月×日に離婚訴訟を提起し,平成18年×月×日に第1審判決が,平成19年×月×日に控訴審判決が言い渡され,いずれも被告が勝訴した。原告は上告したが,上告不受理となり,平成19年×月×日をもって,離婚請求について被告の勝訴が確定し,被告が長女の親権者となった。(被告本人)

 被告は,上記判決の確定をまって,長女に対し,判決の内容を説明した。また,離婚が確定して被告が単独で親権者となったことにより,本件合意の効力が当然に失われ,親権者である被告が面接交渉に応じるかどうかを決定することができることとなったとする被告代理人の見解に基づき,長女に離婚訴訟の結果を説明し,長女から,今後の原告との面接のあり方について意向を聴取した(長女は,被告代理人による意向聴取に際して,原告に対する否定的な感情(「うざい」など。)を述べた。)上で,今後は,原告との面接交渉には応じられないとする判断に至り,被告代理人を介して,その旨を原告に通知した。同時に原告の学校行事への参加も容認できない旨通知した。(甲8,弁論の全趣旨)

 また,被告は,同年×月ころ,長女の学校に対して,原告が親権者でなくなったので学校便りの送付を取りやめるよう申し入れ,学校は,被告の意向に従い,原告に対する学校便りの送付を取りやめた(甲28)。

(6) 平成20年×月に被告は長女を連れて転居した。転居に際して,被告は,原告に転居先の住所や電話番号を知らせず,長女も原告に対してこれらを知らせていない。
 原告は,転居先の住所は調査して知ったが,電話番号まではわからず,その結果,転居後は,原告から長女に電話をすることができない状態が継続している。なお,長女は,原告の電話番号を知っているので,転居後も,自ら希望すれば原告に電話することが可能である。
 転居後の平成20年×月終わりころ,原告は,転居先の被告宅を訪れたが,被告や長女に面会を求めないまま,宅配ボックスに長女あてのプレゼント(長女から入学祝いとして頼まれていたDVD)を宅配便を装って置いて帰った。被告及び長女は,原告が置いていったものと容易に認知した。その後,長女は,原告に電話をして,なぜ転居先がわかったのか問い質し,原告との会話中に泣き出す事態が生じた。原告は,被告が長女に指示して電話をさせ,長女が原告と被告との板挟みとなって泣き出したものと考え,電話を長女に代わった被告に対して,追及する発言をした。

 平成20年×月末から×月にかけて,長女への誕生日プレゼントを巡って原告と長女との間に手紙のやりとりがあったが,長女は「誕生日プレゼントはいらない」とか「○○で会っても話しかけるのはやめてほしい」等,原告に対して消極的な姿勢を示していた。また,被告代理人と面談した際に,原告との交流について,電話を含め,拒絶する意思を示し,今の生活を乱さないでほしいとの希望を述べていた。(乙2)
 上記宅配ボックスの件以外に,長女から原告に対する電話はなく,原告は,手紙を出す以外の方法で長女との交流をはかることができない状態にある。


(7) 家庭裁判所調査官による長女の意向聴取等
 被告は,平成20年×月×日,横浜家庭裁判所に,本件合意の変更を求めて,子の監護に関する処分(面接交渉)の審判を申し立て,同審判の手続において,平成21年×月ないし×月に2回にわたり家庭裁判所調査官による長女に対する面接調査が行われた(以下「調査官面接」という。)。同面接において,長女は,原告と会いたくない,会っても楽しくないとの気持ちを述べ,原告との面接交渉の実施や原告による学校行事への参加に対し,拒絶的な意見を述べた。(乙4)

 家庭裁判所は,平成21年×月×日,調査官面接において示された長女の意向等に基づき,本件合意を,「1 相手方(原告)は,事件本人(長女)から面会の目的で相手方に連絡した場合にのみ,事件本人の希望する日時,場所,方法で事件本人と面会交流することができる。」,「2 相手方は,事件本人に連絡してはならない。」,「3 当事者双方は事件本人の自主性を尊重しなければならない。」,「4 申立人(被告)は事件本人の希望を尊重しなければならない。」と変更する旨の審判を行った(乙5)。