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離婚要件

14歳未成熟子の存在を考慮し有責配偶者離婚認容を覆した控訴審判例紹介

○有責配偶者の責任の態様・程度、別居後も不貞を継続した相手との関係を解消した後の行動、相手方配偶者の意思、14歳の未成熟子の存在を考慮して、控訴審が、有責配偶者からの離婚請求を認容した原判決を取り消した上、当該離婚請求を棄却した平成26年12月5日大阪高等裁判所判決(LLI/DB 判例秘書)全文を紹介します。


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主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

事実および理由
第1 控訴の趣旨

 主文同旨

第2 事案の概要
1 事案の骨子および訴訟の経緯

 本件は,夫である被控訴人が,妻である控訴人に対し,当事者間の婚姻関係は,控訴人が被控訴人と著しく異なる価値観を有し,穏やかな意思疎通も成立しないことから,被控訴人は婚姻継続意思を失い,別居が長期間に及んでいることにより破綻したとして,民法770条1項5号に基づき離婚を請求するとともに,当事者間の長女A(平成12年○月○○日生)の親権者の指定を求める事案である。
 原審が被控訴人の離婚請求を認容し,長女の親権者を控訴人と指定したので,控訴人が本件控訴をして,離婚請求の棄却を求めた。

2 前提事実および当事者の主張は,後記3のとおり原判決を補正し,同4のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決1頁末尾から2行目から5頁18行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。

3 原判決の補正
(1) 原判決2頁20行目の「の要旨」を削る。

(2) 原判決3頁4行目の末尾の次に改行の上,以下のとおり加える。
「 控訴人のいうUが仮に被控訴人に心当たりのある人物であるとすれば,被控訴人はUと交際などしておらず,もとより肉体関係もない。控訴人のいうKが仮にB(以下「B」という。)であるとすれば,被控訴人がBと交際を開始したのは被控訴人が別居を開始した前後頃であり,平成19年8月頃に交際を解消した。」

(3) 原判決3頁13行目の「C-mail」の次に「(短文送受信専用の電子メール)」を加える。

4 当審における当事者の補充主張
(控訴人の主張)
 有責配偶者からの離婚請求の事案において,別居の長期化により有責性が希薄化したといえるかは,有責行為の内容および有責性の程度や,別居後の有責配偶者の態度を考慮して判断すべきである。
 被控訴人は,控訴人との同居中から不貞行為を繰り返し,Kとの不貞関係を続けるために幼い長女を抱えた控訴人を残して一方的に家出をしたのであるから,これらの不貞行為および悪意の遺棄は有責性が大きい。

 また,被控訴人は,前件訴訟で別居の原因が当事者間の価値観の相違や性格の不一致にあると主張したが採用されず,有責性を明確に認定されて離婚請求を棄却されたのに,本件でも相変わらず自らの有責性を認めない主張を維持し,自らの責任を認めて控訴人に誠実に謝罪することも,自らが破綻させた婚姻関係の調整ないし整理に向けた真摯な努力もせず,かえって,被控訴人の両親に控訴人および長女と会わないよう指示して控訴人および長女が被控訴人の両親と交流するのを妨げ,前件高裁判決が認定した婚姻破綻時期から5年が経過した途端に,成立するはずもない調停を申し立て,案の定間もなく不成立に終わると,長女の中学校受験が終わった途端に本件訴えを提起しているから,別居後の被控訴人の態度も不誠実極まりない。

 また,当事者間には思春期を迎えたばかりで繊細な長女もいる。長女は,両親が離婚してほしくないと強く願っており,両親の不和や紛争を相当程度理解しているといっても,未成熟子は未成熟子であって,理解度や感じ方は大人のそれとは全く程度が異なるのであるから,その願いに反して被控訴人の離婚請求が認められると,長女が精神的な悪影響を大きく被るおそれがある。原判決が,当事者間の婚姻関係を維持することが長女の心情安定につながるものとは認め難いと判断したのは不当である。

 なお,原判決は,控訴人が被控訴人と長女間の交流を妨げていると認定しているが,事実誤認であり,長女が被控訴人から下品な漫画本を贈られたことに不快感を覚えて連絡を絶ったにすぎない。

(被控訴人の主張)
 原判決の認定判断に何ら誤りはない。
 被控訴人は,原審において,控訴人に対して暴力を振るったことやBと交際をしたこと,同居を再開することなく現在に至っていることなど,有責性に関する事実を認めているし,本件で前件訴訟において認定されなかった事実を主張することを非難されるいわれはない。
 被控訴人は,前件訴訟係属中から原審に至るまで,慰謝料の趣旨と明示して解決金500万円の支払を提示し続けているし,離婚に向けて調停を申し立てたり裁判外での話合いや訴訟上の和解を求めたりすることを繰り返しており,真摯に協議する姿勢を見せていたし,本件訴えの提起時期も控訴人代理人からの申入れに沿ったものである。控訴人は関係改善に向けた具体的な対策を講じていないし,被控訴人は自分の気持ちを真摯に整理した上でなお控訴人に対する嫌悪感を払拭できなかったのであるから,被控訴人が婚姻関係改善方向の努力をしなかったことを不誠実と評価すべきではない。

 被控訴人は,長女と被控訴人の両親間の交流を妨げていないし,原判決もいうとおり,離婚を認めて父子間の実質的な交流を妨げる要素を解消すべきである。控訴人が母子家庭であることの長女への影響をしきりに強調するのは,母子家庭に強い偏見を有しているからであり,そのような不安感をもって被控訴人の離婚請求を排斥することはできない。

 原審において控訴人が被控訴人の行為を許すことができる旨を供述しているとおり,控訴人の感情は明らかに和らぎつつあり,この点を十分に考慮して,本件離婚請求を認容すべきである。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 当裁判所の認定する事実は,次のとおり補正するほかは,原判決5頁20行目から8頁11行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決5頁21行目の「証拠(」の次に「甲6,」を,同行目の「乙5」の次に「,乙7」をそれぞれ加える。

(2) 原判決5頁末行の「平成13年」から6頁初行の「伴って」までを「,被控訴人が堺市内の病院に転勤したことに伴い,平成13年7月,」と,6頁4行目の「その両親」を「控訴人の両親」と,8行目の「宿泊させた」を「宿泊させるなどBとの交際を続けた」とそれぞれ改める。

(3) 原判決6頁24行目の「上記の間」の次に「(早くとも平成19年8月頃)」を加え,同行目の「転居し,」を「転居した。また,被控訴人は,家を出た後,平成15年7月までは,控訴人がその生活費に充てるために被控訴人の給与振込口座から毎月約25万円を引き出すことを認めており,同年8月以降は,当初はおおむね毎月送金をしていたが,その送金も2年ほどたつと途絶えがちになり,平成20年までの送金額は,多くとも合計約260万円にとどまった。被控訴人は,」と改め,原判決7頁初行の「送金している」の次に「(甲7)」を加え,8行目の「回答していたが,」を「回答していた(乙4の2)。その後,控訴人は,」と改める。

(4) 原判決8頁8行目の「これを長女に読ませ,」から10行目の「被告への嫌悪感が強いなどとして,」までを「これを長女に読ませた。また長女も,平成25年10月頃に被控訴人から性的表現を多く含む漫画本を贈られて気分を害したことを契機として,新たに使用し始めた携帯電話の電話番号を被控訴人に教示するよう控訴人から勧められても従わないなど,被控訴人との交流に拒否的な態度を取るようになっている。他方で,被控訴人も,控訴人に対する嫌悪感が非常に強いために,離婚するまでは長女との交流を深める意欲がわかないなどとして,」と改める。

2 当事者間の婚姻関係は破綻しているか
 前認定の事実によると,被控訴人は,平成14年9月に控訴人と別居してから当審口頭弁論終結時まで約12年1月の間,一度も控訴人と同居せず,3回の調停申立ておよび2回の訴訟提起を含め,一貫して離婚を求め続けているし,控訴人も,離婚を拒否し,今もなお婚姻関係の修復は可能であると供述する(原審控訴人本人)ものの,被控訴人との同居再開に向けた具体的措置を講じるまでは至っていないことに照らすと,少なくも当審口頭弁論終結時においては当事者間の婚姻関係は修復の見込みがなく破綻しているというべきであるから,民法770条1項5号所定の事由はある。

3 被控訴人の離婚請求が信義則に反しないといえるか
(1) 前認定のとおり,被控訴人は,浮気を疑う控訴人に暴力を振るうなどした上,Bと不貞関係を持ち,幼少の長女を抱えた控訴人に安定的な住居や安定的な経済的基盤を用意することもしないまま家出をしてBとの不貞関係を継続し,家出後,平成15年7月までは,給与振込口座からの出金を容認する方法で婚姻費用を分担していたものの,控訴人が仕事を開始する前の期間を含む平成15年8月から平成20年9月分までの婚姻費用の分担としては,約5年間にたかだか約260万円を送金しただけという不十分なものであり,その後も,控訴人から申し立てられた婚姻費用分担調停に基づく義務の履行といった自発性のやや乏しい負担をしているにすぎず,Bとの不貞関係を解消した後も,別居を継続して離婚を要求し続け,前件訴訟を提起して敗訴判決が確定しても,控訴人に対しては離婚を要求するため以外にはほとんど連絡をしようとせず(原審における控訴人の供述にはこの認定に必ずしも沿わない部分があるが,反対趣旨の被控訴人の供述もあるから採用しない。),本件でも,離婚できるまで何度でも訴えを提起するとまで供述している(原審被控訴人本人)。

 こうしてみると,当事者間の婚姻関係が破綻したことは,被控訴人の控訴人に対する暴力,不貞行為,不貞行為を継続するために控訴人に安定的な住居や経済的基盤の確保もせず,十分な婚姻費用の分担もないまま家を出て,実際にも相当長期間Bとの不貞関係を継続したことに起因するものであり,その責は,専ら被控訴人が負うべきものである。

 この点について,被控訴人は,被控訴人が控訴人に対する愛情を喪失したのは当事者間で価値観や性格が一致しなかったことが主な原因であると主張するが,本件全証拠によっても,被控訴人の上記主張を裏付けるような事実を認めることはできない。

 なお,控訴人は,自らも同居再開に向けた具体的措置を長期間講じてはいないが,被控訴人への非難も自制しており(乙5,原審控訴人本人),被控訴人の上記認定のような態度を考慮して関係修復の機会を気長に待つつもりでの対応と見ることができ,これをもって控訴人も実際には婚姻関係の修復を望んでいないなどはいえないし,上記認定の別居に至る経緯や,別居後の被控訴人の行動からすると,控訴人が同居再開に向けた具体的措置を講じていないことが,破綻について専ら被控訴人が有責との前記認定判断に影響するものではない。

(2) そして,上記のような被控訴人の責任の態様・程度,Bとの関係を解消した後も,自らの行動を省みることなく,控訴人の責任を主張して離婚を求め続けていること,控訴人は,被控訴人との関係の修復をなお気長に待っていると見ることもできること,控訴人と被控訴人の間の長女は,未だ14歳(中学2年生)の未成熟子であってなお当分の間,両親がともに親権者として監護に当たることが相当であることを考慮すると,控訴人と被控訴人が同居していた期間が約2年3月であるのに対し,別居期間(婚姻当初の期間を除く。)が約12年1月であること,控訴人が医師として働いていること,被控訴人が不十分であった期間はあるものの婚姻費用の分担を継続していること,被控訴人が控訴人に対し離婚給付として500万円を支払うことを申し出ていること等の事情を考慮しても,被控訴人の離婚請求は信義誠実の原則に反して許されないというべきである。

 被控訴人は,控訴人も関係改善努力をしていないとか,宥恕の意思を示しているなどと主張するが,前記(1)の説示に照らすと,採用できない。
 また,被控訴人は,当事者間で離婚をすることが被控訴人と長女間の交流深化に資するなどとも主張するが,前認定のとおり,被控訴人と長女間の交流は,主として,被控訴人の控訴人に対する嫌悪感や,自らの軽率ともいえる行為によって妨げられているのであって,これらは被控訴人が自らの努力によって除去すべき障害であるから,被控訴人の離婚請求が信義則に反しないという根拠にはならない。前認定のとおり,控訴人の長女に対する被控訴人との紛争に関する説明方針には,必ずしも適切ではないものも含まれているが,上記認定判断を左右するような事情ではない。

4 結論
 以上のとおり,被控訴人の離婚請求は理由がないから棄却すべきところ,これを認容した原判決は失当である。
 よって,原判決を取り消して被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
 大阪高等裁判所第6民事部  裁判長裁判官 水上 敏、裁判官 内山梨枝子、裁判官 平野剛史