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離婚要件

14歳未成熟子有責配偶者離婚認容平成27年7月8日仙台家裁判決全文紹介2

○「14歳未成熟子有責配偶者離婚認容平成27年7月8日仙台家裁判決全文紹介1」の続きで裁判所の判断部分です。
 私は、最終準備書面でまとめとして以下のように記述して、離婚認容をほぼ確信していましたが、裁判所の認定での理由表現は、オーソドックスなものでした。

10 原告主張まとめ
(1)離婚請求原因事実「婚姻破綻」は明白
(2)抗弁事実信義則に反する事実は消滅

有責配偶者として信義則違反否定要件
①長期間の別居成立は明白
②未成熟子の存在については、新たな父子関係創設のためむしろ離婚が必要
 形骸化して単に戸籍上の夫婦で、お互いに激しく憎しみ合っているだけの両親の間に居る子にとって、両親の激しい争いに早期に決着をつけた方が、子の真の福祉に適する。
③離婚による精神的・経済的苛酷状況の発生無し
 原告は、離婚しても現在の月額婚姻費用と同額の養育料を支払い続けることを明言している。離婚によって原告の毎月の負担金額名称が婚姻費用から養育料に変わるだけで他に何も変わることはない。原告は被告との離婚が成立すれば現在被告が居住する土地建物所有権を完全に被告側に譲渡することも繰り返し明言している。従って離婚しても被告が実質的に被る不利益は何一つ存在しない。離婚による新たに発生する客観的不利益は何一つ存在せず、現時点以上に新たに苛酷状況発生の余地は皆無である。
 残るは被告の配偶者の地位を失うことによる被告自身のみの主観的精神的苦痛だけである。しかし、これは正に狭い認識での主観的苦痛に過ぎず、目を大きく見開いてみれば、本件での離婚は被告にとっても新たな人生構築の可能性を広げることは明白である。
 よって本件についても、前記那覇地裁沖縄支部判決事案と同様「信義則に照らしてなお容認され得ない特段の事情は存在せず、したがって、原告の本件請求は認容することが許されるというべきである。 」として離婚認容判決をすべきである。

11 原告の長女Aに対する心構え等
(省略)


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3 当裁判所の判断
1 婚姻関係の破綻について

 前提事実(1)及び(3)のとおり,原告と被告の別居期間は14年以上に及んでおり,別居までの婚姻期間5年余りと比して長期である。また,被告は婚姻関係の回復を希望する旨述べるものの,具体的に夫婦の同居再開に向けた措置が取られたともうかがわれない上,証拠(原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告と長女が別居後に直接面会したのは,1度にすぎないと認められる。

 これらの事情に照らすと,当事者間の婚姻関係は,現時点において,修復の見込みがなく破綻しているというべきである。したがって,本件では,民法770条1項5号所定の事由があると認められる。

2 原告からの離婚請求が信義則に反しないといえるか
(1)証拠(甲7,乙4の1及び2,乙8,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が平成13年1月頃,甲野花子(以下「花子」という。)と不貞関係を結び,同年4月頃,被告と住んでいた家から出て花子と同棲するに至ったこと,その時点において,原告と被告との婚姻関係は破綻していなかったことが認められる。そうすると,上記1のとおり原被告間の婚姻関係が破綻に至ったのは,原告が花子と不貞関係を持ったことが最大の要因であると認められるから,原告は,婚姻関係の破綻について責任のある,いわゆる有責配偶者に該当する。

 そして,有責配偶者からの離婚請求が信義則に反するか否かを判断するに当たっては,有責配偶者の責任の態様・程度,相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情,離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・経済的状態,夫婦間の子,殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係等が考慮されなければならず,更には,時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないものというべきである(最高裁判所大法廷昭和62年9月2日判決・民集41巻6号1423頁参照)

(2)判断
ア 婚姻関係破綻の原因
 上記(1)のとおり,原告と被告との婚姻関係が破綻した原因は,原告の不貞行為にあるから,婚姻関係破綻に対する原告の責任は重いといえる。

イ 原告の婚姻費用等負担の状況
(ア)前提事実(5)及(6)に,証拠(甲8の1ないし9,甲25の1及び2,乙9,乙14,乙15のの1,乙16,乙17,乙18,乙19の1及び2,乙20の1及び2,乙33,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告が負担した婚姻費用等に関して,以下の事実が認められる。
a 被告は,原告と別居した後,本件ビデオ店の売上げから被告や長女の生活費を得ていた(乙9)。
b 被告は,平成15年12月1日,本件ビデオ店の営業一切を譲り受け,同日から平成23年6月(同合意から7年6か月後)までの間の婚姻費用分担請求をしないこととされた(前提事実(5))。
c 被告は,平成22年12月頃,自己破産した(乙14,乙17)。
d 前提事実(6)のとおり,原告と被告とは,平成23年8月25日,原告が被告に月額15万円の婚姻費用を支払うなどの調停を成立させた。
 被告は,その手続において,平成21年2月にさかのぼって1か月当たり22万円の婚姻費用を支払うよう求め,原告は,本件不動産の住居費を全額負担していることなどを理由として,月額5万円程度の婚姻費用を分担するとの意向を示していた。(前提事実(6),乙14,乙15の1,乙16)

 原告は,上記調停成立後,被告に対し,その合意に従って月額15万円を支払った。ただし,原告は,平成23年11月分(支払期限は同月30日)の支払を同年12月5日に行ったり,平成25年3月分(支払期限は同月31日)の支払を同年4月15日まで行ったりしたほか,期限に遅れて支払うことが数回あった。また,原告は,平成24年2月分の婚姻費用について,被告が使用していた原告名義の車両の自動車税に相当する5万1000円を控除した9万9000円のみを支払った。(乙18,乙19の1及び2,乙20の1及び2,乙33)

e 原告は,被告と別居して以降,本件不動産に係る住宅ローン月額合計約20万円を支払っている(甲8の1ないし9,甲25の1及び2,原告本人)。

(イ)原告は,平成15年12月以降,被告に対し,上記(ア)b及びdのとおり婚姻費用を負担してきた。

 証拠(甲9ないし12,甲20,乙15の1,乙42, 原告本人)によれば,被告は,代理人弁護士に委任して前提事実(5)及び(6)の合意を成立させたこと,原告の平成22年の所得(有限会社B商事からの給与及び不動産所得の合計)が約1390万円,平成25年の所得が約990万円であったことが認められる。また,原告が本件不動産に係る住宅ローンの支払をしたことで(前記(ア)e),被告は住居関係費を負担していないことも考慮すると,上記の原告の負担は,収入と比較しても,金額面においては十分な水準に達していると評価できる。

 なお,被告の主張には,原告の住宅ローン負担は婚姻費用と別個に考えるべきであるとする部分があるが,婚姻費用は住居関係費を当然含むものであるから,婚姻費用額の相当性を検討するに当たっては,原告が負担している住宅ローン(すなわち,被告が住居関係費の支出をしていないこと)を考慮しないでよいとは考えられない。

 たしかに,原告の婚姻費用負担のあり方には,被告が本件ビデオ店を閉店させて自己破産したことにより,平成15年12月から平成23年6月までの間の婚姻費用支払を前提事実(5)の本件ビデオ店譲渡合意で代えるとの合意の前提は一部失われたといえるところ,原告が調停で合意したのは平成23年5月分以降の婚姻費用の支払であること(前提事実(6)),原告が婚姻費用を遅れて支払ったことが数回あったこと,原告が被告の使用する車両の自動車税を控除して婚姻費用を支払ったこと(婚姻費用の性質からして,無断で控除することは許されないというべきである。)といった,批判を加えざるを得ない点もみられる。

 しかし,原告は,10年を超える別居期間の大半にわたって,被告との合意にも基づく十分な水準の金額を負担してきたのであり,証拠(甲24,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,長女の学習塾の費用を負担したことも認められる。そうすると,原告による婚姻費用や住宅ローンの負担は,十分なものであったと評価できる。

ウ 離婚を認めた場合における被告の負担
 証拠(被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件訴訟において,長女の気持ち等を理由に,なお離婚に強く反対していることが認められる。

 また,証拠(乙22,乙36の1ないし乙39,乙43の1及び2,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成9年に交通事故に遭い,事故当時は頚椎第3・第4亜脱臼骨折,右股関節脱臼骨折,右足関節外果骨折と診断されたこと,被告は,平成26年6月時点において,第3・第4頚椎間に動きがないこと,右股関節の可動域制限があること,被告は,平成21年2月までの間は,本件ビデオ店の経営者として,休憩等の時間の都合をつけながら稼働することはできていたものの,本件ビデオ店を閉店した後においては,上記の負傷の影響により,稼働が困難であると認められる。

 以上の事情に照らせば,仮に離婚を認めた場合における被告の精神的負担や経済的負担は軽くないと考えられる。

エ 当事者間の未成熟子である長女の状況
 前提事実(1)ないし(3)に証拠(原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,長女は,現在14歳(中学3年生)であり,なお親からの援助が必要な年齢であること,1歳に満たない時期から被告に育てられ,原告と直接面会したのは1度のみであること,長女の養育費用の主たる原資は,被告が原告から受け取る婚姻費用であること,原告は,離婚した場合であっても本件不動産に係る住宅ローンを負担し,長女の養育費として,少なくとも現在の婚姻費用と同額である月額15万円を支払う意向を示していることが認められる。

 そうすると,原告と長女との父子関係は,現時点では金銭的なつながりが主である一方,精神的なつながりは残念ながら構築できていないのであって,仮に原告と被告が離婚したとしても,原告が養育費等を適切に負担することができるのであれば,長女の福祉に与える影響も大きいとはいえないと考えられる(なお,仮に原告による十分な金銭的負担がされないのであれば,長女の福祉に与える影響が重大なものになることはいうまでもない。)。

オ 総合評価
 たしかに,婚姻関係破綻の原因は原告にあり,その有責性の程度も大きく,離婚を認めた場合における被告の精神的,経済的負担は軽くないと考えられる。しかしながら,原告と被告の別居期間は14年以上に及び,別居までの婚姻期間5年余りと比べてもかなりの長期に及んでいる上,その間の原告から被告への経済的給付も十分なものと評価できる。また,被告の精神的,経済的負担に関する補償は慰謝の措置や扶養的財産分与等により別途解決されるべきものであって,これが直ちに離婚請求の妨げとなるものではないと考えられる。

 また,当事者間には未成熟子である現在14歳の長女がいるものの,長女は1歳に満たない時期から約13年間にわたって被告に育てられてきたことに加え,原告が,被告や長女が居住する本件不動産の住宅ローンを今後も負担する意向や現在支払っている婚姻費用と同額を長女の養育費として負担する意向を示しており,そのような経済的給付が期待できるといえることをも考慮すると,長女の福祉に与える影響も大きいとはいえないところであって,この点も原告の離婚請求の妨げとなるものではないと考えられる。

 以上の事情に鑑みると,原告の有責性の程度が大きいことを前提としても,別居から長期間が経過した本件において,原告の離婚請求が信義則に反するものではないというべきである。


  また,これまでの養育状況等を考えると長女の親権者は被告と指定するのが相当である。

3 よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
 仙台家庭裁判所  裁判官 大倉靖広