○「
婚約しても婚姻中と同様の守操義務はないとした判例全文紹介1」と「
婚約により将来の婚姻成立後夫婦の地位侵害を認めた判例全文紹介1」で紹介した事案とこれについての地裁・高裁判断に関するまとめと感想です。
○先ず事案概要です。
・原告Xは昭和47年1月妻と死別し二児を育てていたが、昭和48年7月21日にA女(昭和17年生まれ、31歳)と見合いし、結婚前提に交際し、昭和49年4月に婚約し、同年7月5日婚姻した
・Aは、昭和43年7月(26歳時)離婚と同じ月に、Yが責任者の会社にYの妻の紹介で就職し、同年8月Yと男女関係となり、関係が継続しながらXと見合いして交際を続け、上記の経緯で32歳時に婚姻した
・Aは、昭和49年2月Yに対し、Xと結婚することになったので関係清算を求めるもYは未練絶ち難く「死んでやる」、「結婚をつぶす」と言って反対した
・Yは昭和49年4月8日XとAが婚約の事実を知った後も同月12日、20日、27日の3回にわたり神戸市内のホテル等でAと性関係を結んだ
・Xは、同年5月5日、AとYの関係を疑い、Aの母親を通じてAとXを追及するといずれも強く否定するので邪推と反省し、同月15日、Xが喫茶店でYに謝罪すると、実際はAとの関係があつたのに、これを偽り、「Xがあらぬ疑いをかけたから告訴する。」と言つてXを脅迫した
・その後もXは、AのYとの関係を疑い続け、昭和50年3月頃、AはXに対しYとの関係を告白し、Xは強い精神的打撃を受け、夫婦間は不和となり、離婚も考える状況となったが、二人の子供を含めた家庭の事情などからこれを決めかね、また、Aは自責の念から全てXの意に従うと覚悟している
○平成26年時からは、40年も前の昭和49年頃の事案ですが、XのYに対する怒りの500万円の請求に対し、一審神戸地裁尼崎支部判決は僅かに5万円、二審大阪高裁でも50万円しか認めていません。色々な見方がありますが、この事案で最も責任があるのはA女と思われます。昭和43年7月、26歳での離婚直後、従姉妹に当たるYの妻の紹介でYが責任者の会社に入社し、1ヶ月後にはYの愛人となり、5年間に渡り、1ヶ月1回程度の情交関係を継続していたところ、昭和48年7月にXと見合いし、翌昭和49年4月に婚約し、同年7月結婚しました。
○問題は、昭和49年4月AとXの婚約成立後、同月12日、20日、27日の3回に渡り、Aが愛人Yと情交関係を持ったことで、これが不法行為に該当するのかどうかが争いになりました。Yは、それまでの5年間情交関係を継続してきたAに対する未練絶ち難く、Xと結婚することになったことで却ってAに対する恋慕の情が高まり、「結婚をつぶす」等と形振り構わず、Aに迫り、Aとしては、折角、Xと婚約が成立したのにYとの関係を暴露され破談になるのを怖れてやむなくYとの関係に応じたと思われます。Xは訴状で「
原告への発覚を怖れるAの弱身に乗じて、引続き情交関係を迫ることを止めなかつた。」と主張しています。
○YはAの従姉妹を妻としており、Aと結婚出来る立場になく、その上で、結婚が決まったAに対し、Xに暴露されることを怖れることを良いことに情交関係継続を迫るとは、とんでもなく悪い奴との評価も出来ます。Aが、逞しくしたたかな女性であれば、Yに対し、貴方の妻にこれまでの関係を暴露して貴方の家庭を滅茶苦茶にしてやると逆にYに脅しをかけるくらいするのでしょう。しかし、Aは中途半端に真面目で責任感の強い女性でYとの関係を結局Xに告白してしまいました。これが却って事を大きくして、関係者に余計な艱難を生じさせました。かような状況で、いかなる対処法が賢明なものかを検討するには、参考になる事案であり、別コンテンツで私なりの対処法を検討します。