○「
再婚相手と子の養子縁組のみでの請求異議棄却判例全文紹介1」の続きで、裁判所の判断です。
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第3 判断
以下、前記前提事実を基に判断する。
1 原告の主張(1)について
請求異議訴訟は、債務者が債務名義に表示された給付請求権について、実体法上の事由に基づき、その債務名義の有する執行力を排除し、もって実体法上不当な強制執行の阻止を求める訴えであるから、本件においても、実体法上の事由が存する必要がある。
この点、原告は、本件債務名義成立後、本件養子縁組がされた以上、原被告間の子に対し、第一次的に扶養義務を負うのは養親であり、このことは一義的かつ明瞭であるから、実体法上、本件養子縁組の日に被告の養育料請求権は消滅し、これが請求異議事由となる旨主張する。
しかしながら、原告の主張する理由は、親子関係が消滅したというような一義的な事由ではなく、母及び養父の資力いかんにより消滅ないし変更する裁量の余地があるもので、本件調停において定められた原告の原被告間の子らについての扶養義務は、家庭裁判所が変更又は取消をする必要がある(民法880条)から、未だ実体法上消滅しているとはいえないものと考えられる。
原告が引用する文献の一つ(甲5)は、「変更・取消申立をなしうる事情の変更とは、先に扶養関係を定めるについてその基礎となった当事者の身分・地位・資力・健康その他の事情であって、しかも、その事情の変更を勘案して扶養関係を変更・取り消す上で裁量の余地あるものに限られる。」、「(裁量の余地のある)事情変更であっても、それによって扶養関係の実体は当然に消滅または変更すると考えるとすれば、この場合にも請求異議の訴えによって債務名義の執行力の排除を訴求することができようが、それでも扶養関係の実体それ自体の確定は本条による変更・取消の審判にまたなければならないであろう。」と記している。
しかしながら、それは、何ゆえ当然に消滅または変更すると考え、かつ当然に消滅または変更した後に審判を必要とするのかその根拠が不明であるし、請求異議訴訟が実体法上の事由に基づく訴訟であることを軽視し、請求異議訴訟を執行力をとりあえず止める手続かのように位置づけているきらいがあり、しかも、家庭裁判所への申立てが手続的に確保されていない状態で、請求異議訴訟により、消滅ないし変更を求める側の家庭裁判所への申立てに向けた行為動機が消滅してしまうにもかかわらずその申立てを必要としている点で賛成できない。現に、原告は、当裁判所が再三にわたって、家庭裁判所への申立てを促したにもかかわらず、これに応ぜず、最終的に、養育費の減免について家庭裁判所に審判等を申し立てる考えはない旨表明した(当裁判所に顕著)ものである。
原告が引用する他の文献(甲6)は、「事情の変更が顕著な場合には、強制執行に対して請求異議の訴えで対抗することができます。」と記しているが、民法880条の存在にもかかわらず、「顕著な場合」という一義的とはいえない基準を用いて、家庭裁判所の関与を排斥することには賛成できない。
2 原告の主張(2)について
本件は、家庭裁判所への申立てをどちらに期待するのが適切かという制度設計に対する考察及び運用をふまえ、原告の掲げる事由が請求異議事由足り得るか否かという法律問題であるから、被告の主張が信義則に反する旨の原告の主張は採用できない。
3 原告の主張(3)について
原告は、被告の申し立てた強制執行が原告の家計を逼迫する等主張するが、それは、差押禁止債権の範囲の変更の申立て(民事執行法153条)において考慮されるべき事項であるし、かつ、被告の原告に対する債務名義としては、離婚に伴う慰謝料に係る本件調停調書正本第4項があり、当庁平成16年(ル)第4016号は、その一部を請求債権として申し立てられており、本件訴訟によって給料債権の差押えから免れられるわけではないから、理由にならない。
4 以上のとおり、現時点においては、本件債務名義に表示された給付請求権が消滅ないし変更したということができない以上、被告が差し押さえた、本件養子縁組成立以降分に係る原告の給与及び賞与につき、被告に法律上の原因がないということはできない。
5 以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 原道子)