○有名な昭和62年9月2日大法廷判決での有責配偶者離婚認容要件は、@長期の別居期間、A未成熟子の不存在、B苛酷状況の不存在の3つでしたが、A未成熟子の不存在について、「
前訴確定後8ヶ月後提起二回目有責配偶者離婚請求認容例感想等2」で紹介した未成熟子(高校生)がいる場合においても長期間の別居等を理由として有責配偶者からの離婚請求が認容された
平成6年2月8日最高裁判決(判タ858号123頁)全文を以下に紹介します。
この判例についての私なりの分析・感想は、別コンテンツで紹介します。
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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人岡崎守延の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 上告人(昭和13年9月10日生)と被上告人(昭和11年9月15日生)は、昭和39年2月28日婚姻の届出をし、同40年8月14日に長女Aを、同42年8月10日に長男Bを、同45年7月13日に二男Cを、同50年12月16日に三男Dをもうけた。
(2) 被上告人は、会社の経営に行き詰まり、昭和54年2月8日に家出して行方をくらました。上告人は、4人の子を育て、被上告人の帰りを待っていたが、子らが幼いため仕事も思うようすることができず、自宅も競売に付され、ついに生活保護を受けるに至った。一方、被上告人は、昭和56年ころ二児を抱える乙野月子と知り合い、同58年に同女と同せいを始め、現在勤務している会社には同女を妻として届け出ている。
(3) 上告人は、昭和60年6月ころ、被上告人が乙野及び同女の子らと同居している事実を知り、被上告人に対して再三にわたり手紙や電話で積年の恨みの気持ちをぶつけ、自分のもとに戻ってくるよう強く求めたが、被上告人は、かえって上告人への嫌悪感を募らせ、離婚して乙野と正式な婚姻生活に入りたいとする意思を一層固めるようになった。
(4) 昭和63年9月に被上告人に対し婚姻費用として毎月17万円(ただし、毎年7月は53万円、12月は65万円)の支払を命ずる家庭裁判所の審判がされた。その後、被上告人は、上告人に対し、毎月15万円(毎年7月と12月は各40万円)を送金している。
(5) 被上告人は、いまや上告人との同居生活を回復する意思を全く持っておらず、強く離婚を望み、離婚に伴う給付として700万円を支払うとの提案をしている。上告人は、三男Dを養育していく上では父親の存在が欠かせないとの理由で離婚に反対している。長女Aは平成元年3月19日に婚姻し、長男B及び二男Cも既に成人して独立している。
ところで、民法770条1項5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、右請求が信義誠実の原則に照らしてもなお容認されるかどうかを判断するには、有責配偶者の責任の態様・程度、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないものというべきである(最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁参照)。
したがって、有責配偶者からされた離婚請求で、その間に未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではなく、前記の事情を総合的に考慮して右請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、右請求を認容することができると解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、前記事実関係の下においては、上告人と被上告人との婚姻関係は既に全く破綻しており民法770条1項5号所定の事由があるといわざるを得ず、かつ、また被上告人が有責配偶者であることは明らかであるが、上告人が被上告人と別居してから原審の口頭弁論終結時(平成5年1月20日)までには既に13年11月余が経過し、双方の年齢や同居期間を考慮すると相当の長期間に及んでおり、被上告人の新たな生活関係の形成及び上告人の現在の行動等からは、もはや婚姻関係の回復を期待することは困難であるといわざるを得ず、それらのことからすると、婚姻関係を破綻せしめるに至った被上告人の責任及びこれによって上告人が被った前記婚姻後の諸事情を考慮しても、なお、今日においては、もはや、上告人の婚姻継続の意思及び離婚による上告人の精神的・社会的状態を殊更に重視して、被上告人の離婚請求を排斥するのは相当でない。
上告人が今日までに受けた精神的苦痛、子らの養育に尽くした労力と負担、今後離婚により被る精神的苦痛及び経済的不利益の大きいことは想像に難くないが、これらの補償は別途解決されるべきものであって、それがゆえに、本件離婚請求を容認し得ないものということはできない。
そして、現在では、上告人と被上告人間の4人の子のうち3人は成人して独立しており、残る三男Dは親の扶養を受ける高校2年生であって未成熟の子というべきであるが、同人は3歳の幼少時から一貫して上告人の監護の下で育てられてまもなく高校を卒業する年齢に達しており、被上告人は上告人に毎月15万円の送金をしてきた実績に照らしてDの養育にも無関心であったものではなく、被上告人の上告人に対する離婚に伴う経済的給付もその実現を期待できるものとみられることからすると、未成熟子であるDの存在が本件請求の妨げになるということもできない。
以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、右と異なる見解に立って原判決の違法をいうものであって、採用することができない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫)