○「
強制認知・養育費支払義務に関する父子関係まとめ」に私の独断と偏見によるこの問題のまとめを記載していましたが、その後、行方不明者に対して強制認知の訴えによって父子関係を作ることが出来ますかとの質問を受けました。行方不明者相手の訴えは、公示送達と言う方法で、訴え提起自体は出来ます。行方不明者ですから、法廷に出てくるはずはありませんが、公示送達での訴えの場合は、原則として証拠調べをして請求原因を立証しなければなりません。行方不明者相手にどうやって父子関係を立証するか、この立証問題で答えに詰まりました。
○強制認知の訴えの条文を復習します。
第787条(認知の訴え)
子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない。
父死後は、
人事訴訟法第42条(認知の訴えの当事者等)「認知の訴えにおいては、父又は母を被告とし、その者が死亡した後は、検察官を被告とする。」との規定によります。
この父が死んだ後は、3年以内に限り、検察官を相手に強制認知の訴えを提起出来、これを死後認知の訴えと言いますが、この場合も父が既に死んでこの世にいないわけですから、行方不明者と同じ状況で、立証が問題になります。
○たまたま死者或いは行方不明者の毛髪等DNAを抽出できる身体の一部が残っていれば良いのですが、その身体の一部が死者或いは行方不明者のものであることをどうやって立証するかとの問題も残り、現実は、立証は大変です。そこでネットで色々検索をかけてみると「
法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表」のブログに
【死後認知におけるDNA型鑑定】と言うページが見つかりました。流石、理科系弁護士、DNA鑑定についてもシッカリ勉強されています。この部分について、引用させて頂きます。
【死後認知におけるDNA型鑑定】
死後認知の調停や審判では,どのようにして親子関係を立証するのですか。
既に父は亡くなっているのに親子の判定ができるのでしょうか。
→一般的な方法は,本人(子)と「兄弟」「おじ」「おば」のいずれかとの間でDNAの型を比較する方法が取られます。
生物学的な親子関係は,当の「親」と「子」が検体となり,それぞれのDNAを比較する方法がノーマルです(STR型;後掲)。
これによって99%を超える確度で親子関係が認められます。
当然,家庭裁判所の判断としても「親子関係認定」(認知を認める)となります。
親子関係を求めるべき「親」(父)が亡くなっていてもDNA型鑑定は可能です。
この場合,「父」の遺伝子を引き継いでいる別の者,を検体とすることになります。
父・母ともに同一の兄弟,であれば,STR型による判定が可能です(99%以上の確度)。
しかし異母兄弟の場合,STR型鑑定では90%程度の確度が上限です。
そうなると,家庭裁判所としては「認定」しにくいことになります。
この場合,「兄弟」の「もう一方の親」(母)も検体となり,mtDNA型鑑定やY−STR型鑑定(後掲)を併用することにより確度99%以上に到達します。
さらに,レアではありますが,亡くなった「父」の毛髪,骨,などを検体とすることも不可能ではありません。
しかし,この場合,そもそも検体が本当に「父」のものなのか,というところの確実性に疑問が生じることが多いです。
<DNA型鑑定の種類>
・単鎖DNA型(STR型)
DNAのうち,特定領域における塩基配列の反復繰り返し回数の違い,をキーとして比較する方法。
・ミトコンドリアDNA型(mtDNA型)
細胞の核の外側にあるミトコンドリアDNAの塩基配列の違い,をキーとして比較する方法。
・Y染色体単鎖DNAハプロタイプ型(Y−STR型)
細胞の核にあるY染色体(男性のみ有する性染色体)の中の特定領域の塩基配列の反復繰り返し回数の違い,をキーとして比較する方法。
○目指す父が居なければ、その父の遺伝子を引き継ぐ兄弟姉妹であれば99%の確度で鑑定できるとのことですが、通常、母は異なる即ち異母兄弟姉妹になるはずで、この場合、確度は90%以下になるそうです。一番の問題は、父本人と違って異母兄弟姉妹に鑑定協力強制ができない点と思われます。結局、死者・行方不明者相手の強制認知は立証の点で相当困難と覚えておいた方が良さそうです。