○「
強制認知の訴え−調停前置主義で先ず調停申立から」から「
妻の不貞相手の子を我が子として20年近く養育した例4」まで11コンテンツに分けて、父子関係における強制認知と養育費支払義務について裁判例を中心に私なりの備忘録を記載してきましたが、ここで、この問題の総まとめ備忘録です。但し、私の独断と偏見であることを申し添えます。いつものことですが、鵜呑みにはしないで下さい(^^;)。
○まず強制認知の民法条文確認です。
第787条(認知の訴え)
子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない。
父死後は、
人事訴訟法第42条(認知の訴えの当事者等)「認知の訴えにおいては、父又は母を被告とし、その者が死亡した後は、検察官を被告とする。」との規定によります。
子が幼児の場合、母が法定代理人として訴え提起出来ますが、あくまで法定代理人としての母固有の認知請求ではなく、子の認知請求を代理人として行うとされています(判例・通説)。
従って認知請求はあくまで子の請求権であることから
・父が、子の母との間で、子の20歳までの養育料相当額を遙かに超える金額を支払い、母との間で認知請求権放棄の契約書を締結しても子の認知請求権を消滅させることは出来ない。
・多額の金員を受領しその引換に認知請求権放棄の意思表示をした母が子の法定代理人として認知請求した場合であっても、母の請求が権利濫用として棄却されることは先ずない。
と覚えておいた方がよいでしょう。
さらに、子の母にいくらお金を支払っても、後日、子から認知請求が出された場合
・血液検査・DNA検査で生物学的父子関係が認められる場合即ち父子関係がある場合、強制認知訴訟の場で、事実上、血液検査・DNA検査を拒むことは出来ず、結局、父子関係が認定される。
ことになり、結論として、
生物学的父子関係がある場合、認知請求から逃れる方法はない
と覚えておいた方がよいでしょう
○次に婚姻中に生まれた子との関係についての民法条文確認です。
第772条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
第774条(嫡出の否認)
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。
婚姻中に生まれた子が,実は、妻の不貞で夫の子ではなかったとしても、上記規定により、嫡出否認の判決を得て、子ではないとの認定を受けない限りは、法律的には父子関係となり、子に対する養育義務を負います。その結果、
・法律的親子関係存続中に支払った金員は、後日、生物学的親子関係がなかったと判明しても、母乃至子の不当利得にはならない。
と覚えておいた方がよいでしょう。
嫡出否認の訴えが出来なくなっても、類型によっては親子関係不存在確認審判申立によって、父子関係を否認出来ますが、これによって後日父ではなかったことが法的に証明されても、それまで支払った養育費は不当利得にはならず返還請求が出来ないということです。
父と母の間にどのようないざこざがあろうと、この世に出てくる子供には何ら責任はなく、子のために最大限有利な解釈をすべきでしょう。
なお、親子関係不存在確認審判申立については別コンテンツで説明します。