○有責配偶者の離婚が認容される要件は、
@長期の別居期間、A未成熟子の不存在、B苛酷状況の不存在とされています。離婚実務の拠り所とされている平成7年12月初版裁判実務体系5「人事争訟法」、平成10年9月初版現代裁判法体系10「親族」のいずれにも「有責配偶者の離婚請求」を執筆されている元判事村重慶一氏の分析では、@の別居期間は、「
従来の判決例を概観すれば、概ね10年が一応の基準であり、別居期間8年が今のところボーダーラインであり、近い将来においては5年位になろう」とされています。
○従って、@別居期間が2年4ヶ月、B未成熟子7歳が存在する事案での有責配偶者からの離婚請求を認容した成15年11月12日広島高裁判決は、驚異的とも言える画期的判決でした。
事案は、夫Xは妻Yに対し、当初きれい好きと好感を持っていたものが、Yの要望により,
@帰宅後玄関で靴下を脱いで室内用靴下に履き替え,更に室内用の服に着替えをし,かばんは敷いた新聞紙の上に置くこと、
AXが子供と公園の砂場等で遊んで帰ってきたときには,居間等に入る前に必ず風呂場でシャワーを浴びること,
B居間等で寝転ぶときは,頭の下に広告の紙を敷くこと
等を強要され、Yに対する気持ちが離れ、他の女性と交際を始めて離婚を要求すると
CXがトイレを使用したり,蛇口をひねって手を洗ったりすると,すぐにトイレや蛇口の掃除をしたり,Xが夜遅く帰宅すると,起床してXが歩いたり触れたりした箇所を掃除したりするようになった
と言うものです。
○私はこれを読み思わず笑ってしまいました。昔、よく見たドリフターズのコントを思い出したからです。さしずめ「清潔すぎる妻」と言う表題でしょうか。加藤茶扮する妻が、志村けん扮する夫の帰宅後、志村の後をつけて、その歩いたり触れたりした箇所を布巾でオーバーな演技で拭きまくり、これをみて志村けんが泣きそうな顔をするシーンは想像するだけで面白いコントになります。
○私もきれい好きで、例えば床に髪の毛1本落ちていても気になって取り上げごみ箱に捨て、また整理整頓好きで,例えば読み終えた新聞紙等は所定の場所にキッチリ四隅を揃えて保管しており訪ねてきた同業者に驚かれたことがありますが、さすがの私のこのYさんには到底及びません。
○Yさんの問題はこの異常な清潔好きを夫Xに押しつけたことです。鶴亀通信
「明るく楽しい老後のために−5.夫婦は二心二体と自覚」に記載したとおり、「
夫婦は二心二体が原則」であり、「
特に自己の個性・性癖を相手に押し付け、自分好みの女・男に改造することなど所詮不可能」であることを自覚すべきでした。
○こんな妻Yに嫌気がさすのは当然で他に心の安まる女性を見つけることも無理もないなと大阪高裁の裁判官達は思ったのでしょう。「
被告は,かなり極端な清潔好きの傾向があり,これを原告に強要するなどした生活態度には問題があったといわざるを得ず,被告にも婚姻関係の破綻について一端の責任があり」と断じ、離婚を認めなかった一審判決を取り消し,原告の離婚請求を認容してくれました。
○私は,夫が他に女性を作ったと言うこれだけ厳しい3要件を課して事実上離婚を閉め出す現在の考え方には賛成できません。夫が他に女性を作った原因について妻も責任がある場合は、要件を緩和すべきと思っており、この大阪高裁判決に賛成ですが,最高裁で覆されたのは残念なところです。