○
「夫がかまってくれない寂しさでの不倫のつけ」についての続きです。妻Aさんは、夫Bさんの「
涙を流しながら、たとえ不倫があっても決して責めず、全て許すので、どうか本当のことを言って欲しい」との言葉を信じて10年以上前のCさんとの不倫経過を全て告白しました。
○ところがBさんは、Aさんからの告白を聞くや、その翌日には「全て許す」との言葉を反故にして次のような状況になりました。
・これに対し夫は、当初は呆然とした状態となって黙っていたが、翌日から態度がガラリと変わって冷たくなり、離婚を要求し始めた。慰謝料を請求したいところだが、何も請求しないので、兎に角、早く離婚届に署名して出て行って欲しいの一点張りになった。財産としては夫名義の居宅と多少の預貯金がある。
○このBさんの慰謝料は請求しないので、兎に角、出て行けの主張は、慰謝料請求権と財産分与請求を相殺して財産分与はしないとの主張ですから、慰謝料を請求しないとの主張とは評価できません。不倫した妻が慰謝料支払義務があることは当然ですが、だからといって財産分与請求が出来ないとは到底言えません。
○財産分与請求権は婚姻中に夫婦の協力で取得した実質的夫婦共有財産についての離婚に伴う清算であり、貞操義務違反による慰謝料請求とは別個のものですから、貞操義務違反による慰謝料支払義務が生じたからと言って財産分与請求が出来なくなるというものではありません。
○本件でのAさんの不貞行為は10年も前のことであること、夫Bさんが「
単身赴任を長く続け、顔を合わせる機会が少ない上に、たまに帰ってきても2人の子供の子育ての厳しさ・苦労などについて優しくいたわってくれることがない」との事情により生じたこと、更にBさんの欺罔行為で告白してしまったことなどを考慮すればその金額は大した金額にはならないと思われます。
○これに対し夫婦共有財産として例えばAさんの協力の下に住宅ローンも支払い終えて3000万円相当の価値ある夫Bさん名義の居宅があるとすれば、AさんはBさんに対し原則としてその2分の1の1500万円をを財産分与として請求できますのでBさんの主張する何もやらずに身一つで出て行けとの主張は到底許されません。
○私の利用している判例データベースで、このような例についての裁判例は見つけられませんでしたが、仙台高裁昭和31年10月8日判決で「
妻の不貞行為が原因となつて協議離婚が成立した場合において夫が妻に対して行った財産分与がこの不貞行為の相手方である情夫の不法行為による通常の損害には属しない」しているものが唯一関連判例として見いだせました。これは不貞行為での慰謝料請求と財産分与は別個のものであることを当然の前提としたものです。
※その後「別居期間9年8ヶ月での有責配偶者離婚請求認容例」記載の通り、「有責配偶者であつても清算的財産分与を請求し得る」との平成3年7月16日東京高裁判決(判時1399号43頁)とこれを追認する平成5年11月2日最高裁判決(家月46巻9号40頁)を発見しました。