元上司の紹介女性と交際の責任
<事例>
公務員のAさん(35歳)は、職場の元上司の紹介で、同じ職場の別な部署の臨時職員Bさん(30歳)と会いました。出会いは正式な見合い形式ではなく当初から2人きりでのレストランでの食事でした。
最初の出会いですっかり意気投合した2人は食事後バーに行ってお酒を飲み、そのままBさんはAさんのアパートに宿泊して、会ったその日の内に肉体関係を結びました。
その後AさんとBさんは週末毎にBさんがAさんのアパートに宿泊してデートを重ねましたがAさんとしては正式な結婚申込はしていませんでした。
3回目のデート時から些細なことで口げんかが多くなり、激しやすいBさんの性格を知り、Aさんの気持ちは引けてきたところ、4回目のデートの時、Bさんが情緒不安定で精神安定剤を常用していることを聞かされて完全にBさんと交際を続ける気持ちが無くなったAさんは、5回目に会ったとき別れを告げました。
激高したBさんは、Aさんに対し、500万円の損害賠償請求をしてきました。
Aさんは交際の過程でBさんに結婚の申込みはしていないので婚約したわけでもなく損害賠償義務はないと考えています。
<回答例>
これも当事務所での実際相談例をアレンジしたものです。
これは相当回答例が別れる事案です。実際、当事務所事務員や法科大学院学生等に質問してみると意見は分かれました。裁判になった場合もその結論は、担当した裁判官の人生経験や世界観・人生観によって相当別れると思われます。
公務員のAさんは、弁護士に損害賠償義務はないとのお墨付きを貰うつもりで相談に来ました。
何ら結婚の約束もしていないこと、又、情緒不安定で精神安定剤を常用していることを全く告げないで付き合いを開始したのは詐欺みたいなものではないかと言うことを盛んに強調して、金銭支払義務は無いのではないかと訴えました。
しかし、私の答えはノーでした。
勿論、このケースでは500万円という多額の慰謝料を支払う必要はありません。しかしある程度のお金を支払うべきと言うのが私の考えです。
その理由で重要なポイントは、正式な見合いでないとしても上司の紹介であったことです。上司は35歳になったAさんにそろそろ身を固めてはとBさんを紹介したもので明確に結婚相手として紹介したものです。
次のポイントはBさんの身分と年齢です。Bさんは30歳になって大いに結婚を期待し、更に言えば結婚に焦っていた可能性が大いにあります。と言うのはBさん自身の身分は臨時職員という不安定なものであり、Aさんは安定した公務員だったからです。
BさんとしてはAさんの元上司から結婚相手としてAさんを紹介されたものであり、当然Aさんも結婚を前提に真剣に交際してくれると確信して最初の出会いで意気投合したことから忽ち肉体関係に至りました。
とすればBさんのAさんとの結婚の期待は相当大きかったことは明白で、交際破棄による精神的苦痛も相当大きいことは明白です。
確かにAさんとBさんの交際は到底婚約成立は認められません。裁判官によってはAさんに責任無しと認定する方も居るでしょう。
しかし、実際に500万円請求の訴えを出された場合、弁護士に依頼するのに着手金が20〜30万円はかかり、更に完全勝訴すれば50万円以上の報酬金がかかります。この費用の外に弁護士との打ち合わせ、裁判所での被告本人質問等の労力がかかります。
裁判になった場合の費用・労力を考慮すれば最低50万円から最大限100万円程度支払っても裁判になる前に和解した方がAさんにとってベターですとの回答です。
Aさんは、情緒不安定で精神安定剤を常用していることを全く告げないで交際したのは卑怯だと盛んに訴えました。
私は、そのような女性であることを見抜かないで安易に肉体関係を持つからこんな事になるので、これからは特に結婚を期待する女性との肉体関係は慎重に見極めて持つべきですと冷たく回答しました。
僅か4回の関係で500万円もの法外なお金を請求してくる女性と安易に肉体関係を結んだことがAさんの最大の落ち度です。
この回答に対し、女性の側から、こんな尻軽で安易な女にお金を支払う必要はなく徹底して争うべきだとの強い意見もありましたが。