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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

親子

別居中の夫婦間の子の引渡(奪い合い)紛争解決方法如何1

○「平成24年10月18日東京高裁決定−子の引渡保全処分必要性判断基準1」で、別居中の夫婦間での子の引渡(奪い合い)を解決する方法の一基準を示しました。離婚に至る前の別居中の夫婦間での、子の奪い合い紛争は相当数あります。ところが民法には、離婚前の別居中の夫婦間での子の奪い合いを解決する方法に関する規定がありません。以下、別居中夫婦間のこの奪い合い解決方法に関する備忘録です。

○民法での子の監護に関する民法の規定は以下の通りです。
第820条(監護及び教育の権利義務)
 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

第834条(親権喪失の審判)
 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

第818条(親権者)(親権者)(親権者)
 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

第819条(離婚又は認知の場合の親権者)
 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。

(後略)

○上記の通り、民法には、婚姻中の子の親権は夫婦が共同で行い、「ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。」と規定されているだけです。この「父母の一方が親権を行うことができないとき」とは、一方が法律上または事実上、親権行使ができない障害がある場合で、法律上の障害とは民法第834条で父母の一方が親権・管理権喪失宣告を受けたときが典型で、事実上の障害とは、行方不明、受刑中等があり、事実上の婚姻関係が破綻し、父母の一方が他の男または女と同棲し、子との別居が長期に及んでいる場合(昭和37年7月17日東京地裁、下民集13巻7号1434頁)などがあります。

○夫婦の別居に関しては、父母が別居し離婚訴訟で対立関係にあり、しかも当該訴訟の眼目が親権者指定にある場合には、民法第818条2項の「父母の一方が親権を行うことができないとき」に該当しないなんて訳の判らない判例もあり(昭和59年4月25日東京高裁、判時1116号68頁)、現在、調査中ですが、いずれにしても民法には、離婚前の父母別居状態の場合の子の監護者を決めるための解決方法についての規定はなく、裁判例・学説では色々な考え方があります。

○世間で良くある例は、例えば妻が実家に帰って別居する際、子を連れて行ったが、その後夫が子を連れ戻し、妻が直ぐに子を返せと夫に請求する場合、或いは、この逆のケースです。このような場合、子の監護者を決定する方法として、離婚調停で話し合いの上決めるという方法もありますが、調停で目の前の子の奪い合いについて合意が成立することは、先ず不可能であり、迅速な解決は、到底無理です。そこで、実務では、子の監護者指定の審判を求め、あわせて審判前の仮処分としての仮の監護者指定と仮に引渡命令を求める方法が行われており、「平成24年8月9日前橋家裁太田支部審判−子の引渡保全処分1」は、正にこのケースでした。
子の監護者指定審判申立及び保全処分としての監護者指定・引渡申立の根拠等については別コンテンツで説明します。