本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

センターラインオーバー車両に関する平成27年4月13日福井地裁判決紹介3

○「センターラインオーバー車両に関する平成27年4月13日福井地裁判決紹介2」を続けます。

衝突直後の写真


********************************************

(4)小括
 以上のとおり,本件事故について原告Fは無過失であったと認めることはできない一方,原告Fに過失があったとも認められない。したがって,被告Eは,原告Bらに対し,自賠法3条に基づき,本件事故により亡Gの生命又は身体が害されたことにより受けた損害の限度でこれを賠償する義務を負う一方,民法715条に基づく損害賠償義務を負わない。
他方,被告Aは民法709条に基づき,亡Gは自賠法3条又は民法709条に基づき,それぞれ原告Fに対して損害賠償責任を負うことについては当事者間に争いがないところ,原告Fに前方不注視の過失があることを前提とした過失相殺の主張は認められない。

3 争点(1)イ(過失相殺)について【甲事件関係】
(1)まず,被告Eは,亡GがG車の使用者兼運行供用者であることから,被用者の過失について使用者の過失と同視されるのと同様,被害者側の過失に係る事情として,被告Aの過失を亡Gの過失と同視すべきである旨主張する。
しかしながら,使用者が被用者に対して一方的な支配関係を有するのとは異なり,同乗者たる運行供用者と当該車両の運転者がそれぞれ有する運行支配や運行利益の程度は事案によって様々であって,一律に運転者の過失を運行供用者の過失と同視すべきであるとはいえない。さらに,上記2(1)で認定した本件事故に至る経緯や本件事故の態様、亡Gと被告Aの関係性等に照らせば,本件について,被告Eが主張するように,被告Aが亡Gの補助者にすぎず,運行支配や運行利益を一切有していなかったと認めることもできない。
また,本件について,他に,被告Aの過失を亡Gの過失と同視すべき事情も認められない。
したがって,被告Eの上記主張は採用することができない。

(2)もっとも、前提事実及び上記2(1)で認定した本件事故に至る経緯,すなわち,亡Gは,本件事故の前日午前10時ころに自宅を出てから同日午後6時ころに新潟県長岡市内に着くまでの約8時間の大半にわたってG車を運転しており,その後,亡Gらは,翌日(本件事故当日)午前1時ころまで飲食をしたりコンサートに参加したりした後,そのまま休憩を取ることなく亡Gの運転で福井県に向かっていたところ,富山県内で亡Gが「そろそろ限界だ。」と言ったことから,被告Aが亡Gと運転を代わったことからすれば,亡Gにおいて,自ら交通事故が発生する危険性が高い状況を招来し,そのような状況を認識した上で被告Aと運転を代わったものと認められ,その限りで亡Gにも本件事故についての帰責性があるといえる。

これらの事情に加え,亡GはG車の保有者であったことや亡Gと被告Aとの関係性,本件事故に至る状況等の一切の事情,さらに,本件事故については被告Aの過失が極めて重大であると認められる一方,仮に原告Fに前方不注視の過失が認められるとしても,その程度は極めて低いものであるといえることからすれば,本件事故についての亡G及び原告Bらの損害額の算定にあたっては,原告Fに対する関係でも,その損害額の3割を減じるのが相当であるというべきである。

(3)さらに,上記2(1)で認定した事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件事故当時,亡Gは,シートベルトを装着せず,助手席のシートを少し倒した状態で眠っていたこと,本件事故はG車とF車が正面衝突したものであり,G車の前部は原型をとどめないほど破損しているところ,亡Gは,本件事故により脳挫傷等の傷害を負い,これにより,本件事故の約12時間後に搬送先の医療機関で死亡している一方,シートベルトを着用していた被告Aは,本件事故により1か月の入院治療を要する左腸骨骨折等の傷害を負っているものの,致命傷に至るまでの傷害を負っていないこと(なお,G車の運転席及び助手席のいずれもエアバッグが作動していた。)からすれば,亡Gがシートベルトを装着していなかったために亡Gの損害が拡大したと考えるのが合理的である。
したがって,この点についても,亡G及び原告Bらの損害額から1割を減じるのが相当である。

(4)小括
以上によれば,被告Eは,本件事故により亡Gの生命又は身体が害されたことにより受けた損害のうち,6割の限度で,これを賠償する義務を負うというべきである。

4 争点(1)ウ(亡G及び原告Bらの損害及びその額)について【甲事件関係】
ア 亡Gの損害(人損部分に限る。)

(ア)治療費関係 合計32万3540円
前提事実,証拠及び平成25年6月5日付け調査嘱託の結果によれば,亡Gは,本件事故により,脳挫傷,左第1肋骨骨折,左大腿骨頸部骨折,左坐骨骨折,肺挫傷の傷害を負い,平成24年4月30日,搬送先のH病院において死亡した。
そして,H病院における治療費として31万4640円,一般死亡診断書代として3150円,死体処置料として3430円,死亡退院浴衣代として2100円,大人用紙おむつ代として220円がそれぞれ支出されたことが認められ,これらは本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(イ)戸籍謄本取寄料 1650円
証拠及び弁論の全趣旨によれば,亡Gの戸籍謄本取寄料として,合計1650円を要したことが認められ,これも本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(ウ)葬儀費用 150万円
証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告Bらは,亡Gの葬儀費用として少なくとも合計166万6890円を支出したことが認められるところ,このうち150万円について,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(エ)逸失利益 4449万4791円
本件事故前年度の亡Gの年収は463万4150円であったところ,亡Gの収入のうち生活費控除率は4割と認めるのが相当である。
そして,本件事故当時,亡Gは34歳であり,就労可能年数は67歳までの33年間であるから(対応するライプニッツ係数は16.0025),逸失利益の額は以下のとおりとなる。
(計算式)463万4150円×0.6(生活費控除率4割) ×16.0025(33年ライプニッツ) =4449万4791円

(オ)死亡慰謝料 1700万円
ほか,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,亡Gの死亡慰謝料は上記金額を下回らないと認められる。

(カ)過失相殺後の金額
上記のアの(ア)から(オ)の合計額は6331万9981円となるところ,上記3(4)のとおり,本件事故における亡Gの過失割合は4割とすべきであるから,過失相殺後の金額は,3799万1989円(1円未満四捨五入)となる。

(キ)既払金の充当関係
前提事実(5)アによれば,原告Bらは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として32万3540円の支払を受けたところ,かかる金員は,本件事故により原告Bらが被告Aから賠償を受けるべき損害額全体から控除されるべきである。
そうすると,原告Bらが被告Aから賠償を受けるべき金額から上記金員を控除した金額は,被告Eが原告Bらに対して賠償すべき金額を上回ることになるから,結局,被告Eが原告Bらに対して賠償をすべき金額に影響しない。

そうすると,被告Eが亡Gの損害について原告Bらに対して賠償すべき金額3799万1989円を原告Bらの法定相続分で割った金額,すなわち,原告Bについて2532万7992円(1円未満切り捨て),原告C及び原告Dについて,それぞれ633万1998円(1円未満切り捨て)となる。

イ 原告Bらの固有の慰謝料
前提事実,前記2(1)で認定した事実及び証拠のほか,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,原告Bらが被った精神的損害を慰謝するに足りる金員は,亡Gの妻である原告Bにつき500万円,亡Gの両親である原告C及び原告Dにつき各300万円と認めるのが相当である。
もっとも,上記3(4)のとおり,このうち原告Bらが被告Eに対して請求しうるのは,上記金額から4割を減じた額であり,原告Bにつき300万円,原告C及び原告Dにつき各180万円となる。

ウ 弁護士費用
原告Bらは,本件訴訟の提起を代理人弁護士に委任しているところ,上記の金額や本件事案の難易等に照らすと,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告Bにつき280万円,原告C及び原告Dにつき各80万円と認めるのが相当である。

エ まとめ
以上によれば,原告Bの被告Eに対する請求は,3112万7992円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,原告C及び原告Dそれぞれの被告Eに対する請求は,893万1998円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
なお,上記1で認めた被告Aが原告Bらに対して負う債務と,被告Eが原告Bらに対して負う各債務は,それぞれ不真正連帯債務となる。

5 争点(2)イ(原告Fの損害及びその額)について【乙事件関係】
(1)入院雑費 4万9500円

前提事実のとおり,本件事故により,原告Fは,腰椎圧迫骨折,肋骨骨折,右足関節捻挫の傷害を負い,平成24年4月30日から同年5月15日までの間はI病院に,同日から同年6月1日までの間はJ医院にそれぞれ入院した。

そして,前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告Fは,本件事故直後に救急搬送されたI病院において第3腰椎圧迫骨折や肋骨骨折等の診断を受けたところ,平成24年5月7日からは硬性コルセットを着用した保存的治療が開始されたものの,J医院に転院した同月15日時点においても,骨癒合は認められず,腰椎の骨折部に疼痛も残存していたために,自立歩行を含め日常生活が困難な状態であり,さらに,骨折部の圧潰により下肢の神経症状が出現する可能性があったことから,引き続き入院加療を継続する必要性があったこと,その後,同年6月1日まで,J医院において入院加療が続けられたことが認められる。
したがって,本件事故当日の平成24年4月30日からJ医院を退院した同年6月1日までの入院(33日間)について,本件事故と相当因果関係があると認められる。
そして,入院雑費の額は,1日当たり1500円と認めるのが相当であるから(弁論の全趣旨),入院雑費の合計額は,下記のとおり,4万9500円となる。
(計算式)1500円×33日=4万9500円

(2)休業損害 180万円
原告Fは,被告Eの代表取締役であるところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告Fは,平成19年から,被告Eにおいて主として造園事業を行うようになったこと,本件事故当時,被告Eの従業員数は16名程度であったところ,このうち,被告Eの事業の根幹となる設計業務,現場管理業務及び営業業務(なお,これらの業務は自動車による出張を伴うものも多い。)を行っていたのは,原告Fのほか従業員1名の合計2名であり,本件事故前の被告Eの年商のうち約3分の2を原告Fが受注していたこと,本件事故後,被告Eは原告Fが従前行っていた上記業務の一部を行わせるために新たに1名を契約社員として雇用していること,原告Fは,本件事故後平成24年7月末までの間,入院及び自宅療養のために被告Eの業務を一切行うことができなかったこと,原告Fは,本件事故の前まで被告Eから月額60万円を報酬として受領していたところ,平成24年5月ないし同年7月までの3か月分については一切報酬を受領していないこと(なお,同年8月及び9月分の報酬については,経理上の問題から,最終的に原告Fが全額を受領した旨の処理がなされた。),以上の事実が認められる。

そして,上記した被告Eの会社の規模や業務の実態,その他一切の事情に照らせば,原告Fが本件事故前に受領していた報酬額は,その全額について原告Fの労務提供の対価とみるべきである。
そうすると,本件事故と相当因果関係のある原告Fの休業損害は、平成24年5月から同年7月までの3か月分の報酬額である180万円と認められる。

(3)逸失利益 1326万8304円
上記(1)で認定した事実のほか,証拠及び弁論の趣旨によれば,原告Fは,本件事故直後に救急搬送されたI病院において腰及び背中の痛みを訴えていたこと,J医院への入院期間中も頻繁に腰部痛や背部痛を訴えており,特に座位を30分ほど続けると腰部痛が出現する旨繰り返し述べていたこと,その後のI病院への通院期間中も同様の症状を訴えていたこと,平成25年4月23日,同病院において第3腰椎圧迫骨折により同日症状固定との診断を受け,同年8月26日には,福井自賠責損害調査事務所から,画像診断上第3腰椎圧迫骨折が認められることから「脊柱に変形を残すもの」として後遺障害等級表11級7号に該当するとの認定を受けたこと,原告Fにおいては,現在も,首から臀部にかけて日常的に張りがあり,座位を30分ないし1時間程度継続すると同所に鈍痛が生じるとともに偏頭痛が起きることもあること,また,1時間以上運転を続けると右足がしびれたような症状が生じること,これらの原告Fの症状のうち腰部痛や背部痛については,腰椎の前弯がなくなり局所で後弯していることが原因であり,今後もこれらの変形が元どおりに治癒することはないこと,以上の事実が認められる。

そうすると,原告Fについて,本件事故により,後遺障害等級表11級7号の脊柱変形及びこれに伴う疼痛について後遺障害が残存したことが認められるが,他方,脊柱変形による明らかな運動障害は認められず,上記原告Fの後遺障害による労働に対する支障は,脊柱変形それ自体ではなく,もっぱら脊柱変形に伴う疼痛を原因とするものであること,脊柱の変形についても症状固定時において画像上は改善が見られたことも考慮すれば,後遺障害による原告Fの労働能力喪失率は14%であり,喪失期間は就労可能年限である67歳までの22年間であると認めるのが相当である。
そうすると,原告Fの本件事故の前年度の収入は720万円であるから,これを基礎収入として原告Fの後遺障害逸失利益を算定すると,次のとおり1326万8304円となる。
(計算式)720万円×0.14×13.1630(22年ライプニッツ)=1326万8304円

(4)入通院慰謝料 100万円
これまでに認定した原告Fの傷害の内容及び入通院状況を考慮すると,入通院慰謝料としては,100万円と認めるのが相当である。

(5)後遺障害慰謝料 290万円
上記(3)で認定した後遺障害の内容,程度等に照らし,290万円と認めるのが相当である

(6)損害の填補等
前提事実(5)イのとおり,原告Fは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として,平成24年6月8日に100万円,同年8月2日に140万円,同年12月14日に100万円の各支払を受け,また,G車に付保されていた自賠責保険に係る保険金として,平成25年8月29日,331万円の支払を受けた。
上記(1)ないし(5)の損害の合計額は1901万7804円であるところ,これに対する本件事故日から各支払日までの遅延損害金,元本の順に充当すると,平成25年8月29日時点での未払金の額は,別紙3のとおり,1342万4000円(1000円未満切り捨て)となる。

(7)弁護士費用
原告Fは,本件訴訟の提起を代理人弁護士に委任しているところ,上記(6)の金額や本件事案の難易等に照らすと,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては,130万円と認めるのが相当である。

(8)まとめ
以上によれば,弁護士費用も加えた原告Fの損害額は,1472万4000円となる。
したがって,原告Fの被告Aに対する請求は,1472万4000円及び,うち130万円(弁護士費用相当額)に対する平成24年4月30日から,うち1342万4000円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
また,亡Gの相続人である原告Bらは,原告Fに対し,それぞれの法定相続分に応じて上記金額を賠償する義務を負うから,原告Fの原告Bに対する請求は,981万5999円及び,うち86万6666円に対する平成24年4月30日から,うち894万9333円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,原告Fの原告C及び原告Dに対する請求は,各245万3999円及び,うち21万6666円に対する平成24年4月30日から,うち223万7333円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
なお,被告Aが原告Fに対して負う債務と,原告Bらがそれぞれ原告Fに対して負う上記債務とは,不真正連帯債務となる。

第4 結論
よって,主文のとおり判決する。
福井地方裁判所民事部 裁判官 原島麻由