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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

センターラインオーバー車両に関する平成27年4月13日福井地裁判決紹介2

○「センターラインオーバー車両に関する平成27年4月13日福井地裁判決紹介1」を続けます。



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(2)乙事件関係(乙事件の相被告である被告A及び原告Bらは,乙 事件についての双方の主張を,それぞれ自己に有利に援用している。)
ア 争点ア(本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び過失割合)について

(被告A及び原告Bらの主張)
本件事故について,原告Fにも前方不注視の過失があったことは,上記(1)ア「原告Bらの主張」のとおりである。
(原告Fの主張)
否認ないし争う。
上記(1)ア「被告Eの主張」のとおりである。

イ 争点イ(原告Fの損害及びその額)について
(原告Fの主張)
(ア)入院雑費 4万9500円
(イ)休業損害 240万円
本件事故前まで,原告Fは,自らが経営する被告Eの代表取締役として月額60万円の報酬の支払を受けていたところ,平成24年5月から7月までの間は全く職務を行うことができなかったために無給となり,同年8月及び9月は報酬の半額しか支給を受けることができなかった。
(ウ)逸失利益 1895万4720円
本件事故により,原告Fは,第3腰椎圧迫骨折により脊柱に変形が残存し,30分程度の着座や運転で,首から臀部にかけてこわばりや鈍痛が生じるなど,体幹の維持,動きに制約が生じる後遺症が残り,これについて,後遺障害等級表11級7号に該当するとの認定を受けた(症状固定日は平成25年4月23日)。
症状固定時,原告Fは45歳であり,就労可能年限である67歳までの22年間,労働能力を20%喪失した。
(計算式)720万円×0.2×13.1630(22年ライプニッツ)=1895万4720円
(エ)入通院慰謝料 130万円
(オ)後遺障害慰謝料 420万円
(カ)既払金及び小計(差引額)
原告Fは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として,平成24年6月8日に100万円,同年8月2日に140万円,同年12月14日に100万円の各支払を受けた。
また,原告Fは,G車に付保されていた自賠責保険に係る保険金として,平成25年8月29日,331万円の支払を受けた。
これらについて,上記(ア)ないし(オ)の合計額(2690万4220円)及びこれに対する本件事故日からの遅延損害金に充当すると,平成25年8月29日時点における未払金の額は,2185万円(1000円未満切り捨て)となる。
(キ)弁護士費用 218万5000円
(被告A及び原告Bらの主張)
上記「原告Fの主張」,(ア)は不知,その余は否認ないし争う。
(ア)について,J医院への転院は,原告F自身の希望に基づくものであるから,その後の入院期間に係る部分については,本件事故と相当因果関係がない。
(イ),(ウ)について,役員報酬には労働対価部分と利益配当部分があり,休業損害及び逸失利益の対象となるのは,そのうち労働対価部分に限られる。
また,(ウ)について,原告Fには本件事故による脊柱の変形が認められるものの,脊柱の支持性や運動性には支障がなく,常時の疼痛もないから,原告Fに後遺障害が残存したとは認められない。

第3 当裁判所の判断
1 甲事件のうち被告Aに対する請求について

(1)被告Aは,甲事件に係る請求原因事実(第2の2(1)イ,(2),(3)ア及び(4)アの各事実並びに同4(1)ウの「原告Bらの主張」記載の事実)を争うことを明らかにしないから,これを自白したものとみなす。
なお,亡G及び原告Bらの損害のうち,慰謝料の額及び弁護士費用の額についても,前提事実,証拠及び弁論の全趣旨に照らし,原告Bらの主張する金額のとおり認めるのが相当である。
したがって,原告Bらの被告Aに対する請求は,全部理由がある。

2 争点(1)ア及び争点(2)ア(本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び責任原因等)について【甲事件及び乙事件共通】
(1)認定事実
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 本件事故現場に至るまでの状況
(ア)亡Gは,新潟県長岡市内で開催されるコンサートに,自らが誘った被告A及び訴外K(亡G,被告A及びKを併せて,以下「亡Gら」という。)と共に参加するため,本件事故の前日である平成24年4月29日午前10時ころ,福井県坂井市所在の自宅を出て,被告A及びKを迎えに寄った後,自らG車を運転して新潟県長岡市に向かった。なお,途中,新潟県内で被告Aが亡Gに代わり30分ほどG車を運転したことがあったが,それ以外は,すべて亡GがG車を運転していた。亡Gらは,同日午後6時ころ,長岡市に到着し,夕食を取った後,同日午後9時ころから翌30日午前1時ころまでの間,コンサートに参加した。
その後,亡Gらは,仮眠を取ることなくそのまま福井県に帰ることにし,亡GがG車を運転して国道8号線を南下し,福井県に向かった。同日午前4時ころ,亡Gらは,富山県内の飲食店で食事を取った。飲食店を出た後,しばらくは亡Gが運転をしていたが,亡Gが「そろそろ限界だ。」と言ったことから,被告Aは,「運転代わります。」と亡Gに声をかけ,少なくともG車が富山県小矢部市内を走行する間までに,亡Gと運転を代わった。被告Aと運転を代わった約10分後,亡Gは,G車の助手席でシートを少し倒した状態で眠った。また,このとき,Kは,G車の後部座席で眠っていた。

(イ)原告Fは,本件事故当日の平成24年4月30日,本件事故現場の近くのゴルフ場で開催されるゴルフコンペに参加するために,F車を運転し,本件道路を時速約50kmで北進していた。

イ 本件事故現場付近の道路状況について
本件事故現場付近の道路の状況の詳細は,別紙1のとおりである。
すなわち,本件事故の現場となった道路(本件道路)は,南北に走る片側1車線の国道であり,アスファルトで舗装された平坦な直線道路である。北進車線及び南進車線の幅員はいずれも約3.3mであり,両車線の外側には,車道外側線で仕切られた路側帯がそれぞれ設置されている。G車とF車が衝突した地点(別紙2の○地点。以下「本件衝突地点」という。)の約2.5m北側の北進車線の路肩には電柱(別紙1,2のうち「基点電柱」との記載があるもの。この電柱を指して,以下「本件基点電柱」という。)が設置されているところ,北進車線のうち本件基点電柱より南側部分の路側帯の幅員は約0.7mであり,路側帯の外側にはガードレールが設置されている。また,北進車線のうち本件基点電柱より北側部分の路側帯の幅員は約2.3mであり,路外にはモーテルがある。他方,南進車線のうち本件基点電柱より南側部分の路側帯の幅員は約1.8mないし2.5mであり,その外側には柵が設置されている。
本件事故現場付近は,最高速度が時速50kmに制限されており,追い越しのためのはみ出し通行が禁止されている。
本件事故現場付近の見通しは良く,視界を妨げる障害物はない。また,本件事故時の天候は曇りであり,本件事故現場付近の路面は乾燥していた。

ウ 本件事故発生時の状況
(ア)本件事故当時,G車は,時速約50kmで南進車線を進行していたところ,被告Aは,平成24年4月30日午前7時13分ころ,本件衝突地点の約800m手前(北側)付近で疲れを感じて前を見ていることができなくなり,仮睡状態に陥った。
(イ)G車は,本件衝突地点の約100m手前(北側)付近で中央線上を走行するようになり,そのままゆるやかに中央線をはみ出し,本件衝突地点の約80m手前(北側)付近では,車体が50cmほど対向車線にはみ出す形で走行するようになった。このとき,F車の2台前を北進していた車両(以下「先行車①」という。)は本件基点電柱の約47m北側(すなわち,本件衝突地点から約49.5m北側)を時速約50kmで走行しており,先行車①とG車との距離は約29mであった。先行車①の運転者は,その場でハンドルを左に切ってG車を避けた。また,その後,F車の前を北進していた車両(以下「先行車②」という。)も,左側に寄りG車を避けた。その直後,F車とG車正面衝突した。
(ウ)本件事故の後,F車とG車は,本件衝突地点の約1.6m南方で停止した。
本件事故により,G車及びF車は,各車両の前部が大破した。

エ 本件事故直前の原告Fの動向について
(ア)原告Fは,本件衝突地点の手前で,北進車線の路側帯に歩行者がいるのを発見し,その方向に視線を移した。
その後,原告Fは,本件衝突地点の手前(南側)でG車を発見し,その場で急制動の措置を講じたが,G車と正面衝突した。

(イ)なお,原告Fは,平成24年6月5日に行われた実況見分において,本件衝突地点の約62.2m手前(南側)付近(別紙2の㋐の地点)で,前方約18mの位置(別紙2のⒶの地点)に北進車線の路側帯を同一方向に歩行している歩行者を見た,その後,本件衝突地点の約16m手前(南側)の地点(別紙2の㋑の地点)でG車が前方約33mの位置(別紙2の①の地点。本件衝突地点から約17m北側の地点)にいるのを発見し,その場でブレーキをかけた旨,具体的な説明をしている。
しかしながら,原告F自身,上記説明のうち各車両の厳密な位置関係等については正確ではなかった可能性がある旨供述している上,上記実況見分は本件事故から1か月以上経った後に行われていることや,本件事故によりF車は大破し,原告Fも救急搬送されて全治2か月の入院加療を要する腰椎圧迫骨折及び肋骨骨折等の傷害を負うなど,本件事故の衝撃が相当大きなものであったと認められること等の事情に照らすと,原告Fが本件事故直前の状況を正確に記憶していないとしても不自然であるとはいえないことからすれば,上記実況見分で説明された位置関係が,すべて厳密に正確なものであるとまでは認められない。

(2)以上を前提に,まず,本件事故について原告Fが無過失であったといえるかどうかについて検討する。
ア 本件事故について,被告Aには,自らが運転していたG車を対向車線に逸脱させた過失があることは争いがないところ,上記(1)で認定した事実によれば,本件事故直前に,被告Aが過労のために仮睡状態に陥り,そのままゆるやかに中央線をはみ出し,ついには対向車線に自車を逸脱させてF車と正面衝突したという本件事故の態様からすれば,本件事故の発生について,被告Aに極めて重大な過失があることは明らかである。
その上で,原告Bらは,原告Fは本件事故直前に脇見をしていたところ,仮に原告Fが脇見運転をしていなければ,より早い段階でG車の動向に気づき,F車を停車させるなどして本件事故を避けることが可能であったのであるから,原告Fには,本件事故について前方不注視の過失がある旨主張し,原告Fが無過失であることを争っている。
これに対し,被告Eは,原告Fは,本件事故直前に北進車線の路側帯にいた歩行者を見たものの進路前方を全く見ていなかったわけではない,F車の先行車の存在等により原告Fがより早い段階でG車の動向に気づくことは不可能であった,仮により早い段階でG車の動向に気づいたとしても,対向車線に回避する,その場で停止する,クラクションを鳴らすなどの原告Bらが主張する措置を咄嗟に講ずることは不可能であったし,仮にこれらの措置を講ずることができたとしても本件事故が避けられたとはいえないなどと主張している。
そこで,以下,これらの点について検討する。

イ まず,原告Fは,本件事故直前に北進車線の路側帯の歩行者を見たこと自体は認めているところ,本件全証拠によっても,原告Fが脇見をしていた正確な地点及びその時間は明らかではない。
もっとも,原告Fにおいて,路側帯の歩行者の動向に注意を払うべき事情があったとしても,原告Fが自認しているとおり,歩行者の動向に注意を払うのと同時に,進行道路前方を注視することも不可能ではないことからすれば,原告Fに前方不注視の過失があったかどうかを判断するに当たっては,結局,原告Fにおいて,どの段階でG車の動向に気づくことが可能であったかが問題となる。
この点,G車が中央線上又はこれを越えて対向車線である北進車線を走行するようになった後,F車の前方には先行車が2台存在したところ,F車からG車方向の見通しは,これらの先行車との位置関係によって左右される。そして,上記認定事実によれば,先行車①が本件衝突地点の約49.5m北側を走行していたとき,G車はその前方約29mの位置を先行車①と対向して走行しており,先行車①とG車はほぼ同速度であったことからすれば,先行車①とG車は,本件衝突地点の約64m北側ですれ違ったことになり,さらに,原告Fが急制動の措置を講ずるまでのF車の速度と,G車の速度がほぼ同速度であったことからすれば,先行車①とG車がすれ違った時点で,F車は先行車①の約128m後方を走行していたことになる。

これに対し,本件事故直前の先行車②とF車との距離は,証拠上明らかではない(なお,先行車①の運転者は,先行車②がG車を避けた「直後」にG車とF車が正面衝突した旨説明しているところ,G車の速度が時速50kmであったことを前提とすると,そもそもG車が先行車①とすれ違ってからF車と衝突するまでの時間は5秒足らずであり,「直後」という表現をもって,G車が先行車②とすれ違ってからF車と衝突するまでの時間を特定することはできないといわざるを得ない。)。

その上で,先行車①及び先行車②が中央線の0.8m内側を走行し(先行車①については,同車の運転者の説明に基づく位置である。),F車が中央線の0.5m内側を走行していたことを前提とした上(原告Fの説明に基づく位置である。なお,原告Bらは,F車は,実際には,より中央線に近い位置を走行していたはずである旨主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。),仮に,先行車②とF車との距離が40mであり,かつ,先行車②とF車が同速度であったとすると,F車からG車の動向を発見することができたのは,早くとも,先行車②が北進車線の左側の路側帯に回避可能となった時点,すなわち,F車が本件衝突地点の約35m手前(南側)付近に位置していた時点ということになる。

また,上記と同条件の下,仮に,先行車②がF車と先行車①との中間(すなわち,F車の64m前方)を走行していたとすると,F車が本件衝突地点の約50m手前(南側)付近に位置していた時点では,F車からG車の動向を発見することができたと認められる。そして,上記のとおり,G車が先行車①とすれ違った時点における先行車①とF車との距離は約128mであり,G車が先行車①とすれ違った直後に先行車②とすれ違ったとすれば,先行車②とF車が64m以上離れていた可能性もあるところ,その場合には,F車は,さらに手前(南側)の位置でG車の動向を発見することができた可能性が高い。

ウ 以上の事実に加え,時速50kmの車両の停止距離は約24.48mであるところ,仮に,原告Fにおいて,実際よりも早い段階でG車の動向を発見していれば,その時点で急制動の措置を講じてG車と衝突する以前にF車を完全に停車させることにより,少なくとも衝突による衝撃を減じたり,クラクションを鳴らすことにより衝突を回避したりすることができた可能性も否定できないことからすれば,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失がなかったということはできない。

(3)次に,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失があったといえるかどうかについて検討する。
上記(2)で認定説示したとおり,F車からG車方向の見通しは,F車と先行車,特に先行車②との位置関係によって左右されるところ,F車と先行車②との位置関係は,本件全証拠によっても明らかではない。したがって,原告Fにおいて,どの時点でG車を発見することが可能であったかについては,特定することができないといわざるを得ない。
さらに,原告Bら及び被告Aは,原告Fがより早い段階で急制動の措置を講ずることによりG車と衝突する前にF車を減速又は停車させていれば,あるいは,クラクションを鳴らしていれば,少なくとも衝突の衝撃が減じられた結果,少なくとも亡Gの死亡は避けられた可能性があるとも主張するが,結局,G車と衝突する以前にF車を完全に停車させることが可能であったかどうか(あるいは,どの程度減速を図ることができたか)や,急制動の措置を講ずることに加えてクラクションを鳴らす程度の心理的余裕があったかどうかは,G車の動向に気づくことができた段階で,G車とF車がどの程度離れていたかに依拠することになる。そうすると,原告Fにおいて,どの時点でG車を発見することが可能であったかを証拠上認定することができない以上,この点からも,原告Fに過失があったと認めることはできないといわざるを得ない。

なお,原告Bら及び被告Aは,原告Fにおいて,上記の措置に加えて,対向車線である南進車線に進入することによりG車を回避すべきであったとも主張するが,被告Aが中央線を越えて北進車線に進入していることに気がついた場合,直後にG車を南進車線に戻す可能性もあり得ることからすれば,F車が対向車線である南進車線に進入すること自体危険を伴う行為であり,原告Fにおいてかかる措置を講ずるべきであったとはいえない。

以上によれば,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失があったということもできない。