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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

自賠責保険の話

自賠責保険金に関する平成22年11月16日高松高裁判決理由全文紹介

○「自賠責保険金に関する平成21年10月29日高松地裁丸亀支部判決全文紹介 」の続きで、その控訴審である平成22年11月16日高松高裁判決(交民45巻5号1073頁、金商1406号40頁)の裁判所の判断(理由)部分全文を紹介します。判決全文を紹介したかったのですが、8000文字を超えて桐10でも一レコードとして紹介できないので、理由だけを全文紹介します。

○事案を復習すると
・平成15年9月18日加害者A運転車両と被害者B運転車両が正面衝突してBが死亡
・A車両自賠責保険会社Y保険がB相続人らに自賠責保険金として1500万円を支払
・B相続人らが加害者A側に損害賠償請求の訴えを提起し、訴訟上の和解によりA任意保険(共済)のX共済がB相続人らに和解金1500万円支払い
・X共済はY保険に対し自賠責保険金限度額3000万円の内1500万円を求償請求
・第一審平成21年10月29日高松地裁丸亀支部は、過失割合は被害者B9割、加害者A1割で自賠責保険金支払額額は、自賠法16条の3所定「支払基準」に従ってもY保険既払自賠責保険金額1500万円を超えることはないとしてX共済の請求を棄却
・X共済控訴


○控訴審の平成22年11月16日高松高裁判決(交民45巻5号1073頁、金商1406号40頁)は、過失割合を被害者B8割、加害者A2割と認定し、自賠責支払基準では3割減額することになっているので自賠責保険金支払額額は、3000万円×0.7=2100万円となるから既払金1500万円を差し引いた600万円の限度でY保険はX共済に支払義務があると認定しました。裁判所も自賠責支払基準に拘束されることが前提になっています。これに対しY保険が上告した結果が、「裁判所は自賠法第16条の3第1項支払基準に拘束されないことの確認判決」で紹介した平成18年3月30日最高裁判決(判時1928号36頁、判タ1207号70頁、交民39巻2号285頁)です。

○平成18年3月30日最高裁判決は、自賠責支払基準に裁判所は拘束されないので、全損害額7500万円、過失割合被害者B8割とすればB取得損害賠償額は7500万円×0.2=1500万円であり、この金額は自賠責保険金として支払済みでY保険はこれ以上の支払義務がないとしました。過失割合に関しては被害者側に厳しい判断です。

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第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人の1次的主張は理由がないが、2次的主張には一部理由があるので、控訴人の請求を600万円の限度で認容し、その余の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。

2 控訴人の1次的主張について
ア 後記イないしオのとおり補足するほか、原判決「事実及び理由」第四の一1に記載のとおりであるから、これを引用する。


(ア) さて、自賠責損害調査センターの支払基準(甲7)によれば、訴訟上の和解の金額については、妥当性ありと判断されれば被害者の損害額として採用するとされているところ、妥当性の判断については、立証資料を取り寄せることになっている。また、訴訟の途中で裁判官の和解勧告に基づき和解が成立した事案については、立証資料がないことをもって直ちに不認定とはせず、口頭弁論調書等を取り寄せ、その妥当性を検討の上認定することになっている。

(イ) また、訴訟告知事案の取り扱いは、原則として、(ア)と同様に取り扱うとしながら、訴訟告知事案固有の事務処理として、損害保険料率算出機構との協議の上で、訴訟参加しなかった場合には、同機構において訴訟告知事案として取り扱うこと、訴訟参加しなかった場合で、和解で終了した場合には、自賠責保険の引受会社はその内容に拘束されないと規定されているので、同機構において訴訟告知事案として取り扱い、(ア)と同様に、金額の妥当性の認定をするものと解される。

ウ そこで、別件訴訟の訴訟経過を認定する。
(ア) 別件訴訟の第1回口頭弁論は、平成18年9月8日に開かれ(甲30の1)、弁論準備手続が4回開かれ(甲30の2~5)、平成19年5月8日の第2回口頭弁論期日において(甲30の6)、乙1を作成したFの証人尋問が実施され(乙2)、同年7月10日の第3回口頭弁論期日において、Aの本人尋問(甲27)と甲21を作成したEの証人尋問(甲26)が実施された(甲30の7)上、再度、弁論準備手続に付されて、同年9月14日に同手続が実施され、その期日において、当事者双方が最終準備書面を提出した上で、裁判所が同年11月30日までに和解案を提示することとなった(甲30の8)。

(イ) そして、裁判所から、平成19年11月30日に、詳細な和解案(甲4の1・2)の提示があった。
 その内容は、概ね以下のとおりである。
① 衝突地点については、本件衝突の態様を、やや右よりほぼ正面からのオフセット衝突と推認した上で、衝突の瞬間にガウジ痕が印象されたとは認めにくいこと等から、原判決第1図面のdocument image点よりも少し北側で衝突し、その際、A車及びB車は互いに中央線をはみ出した状態で衝突したこと、及び対向車線へのはみ出しの程度はB車の方が相当程度大きかったものとした。

② A車が、本件事故直前に中央線をはみ出して対向車線上を走行していたところ、本件事故現場付近の見通しが悪く、車線の幅員も約3.4メートルにすぎないところ、A車は大型の車両で車幅が2.29メートルであったことを考慮すれば、Bが、動転して判断及び操作を誤り、B車を対向車線に進入させた可能性を認めて、A車の過失を軽視できないと指摘した。また、互いの衝突速度からすると両車ともにほとんど制動が効いていない状態で衝突したとして、過失割合については、B車7割、A車3割とした。

③ 損害については、逸失利益、慰謝料、治療費、葬儀費用の合計8268万2097円と認めた。

④ そして、前記の過失相殺をして、既払金1512万9466円を控除すると、967万5163円になるところ、遅延損害金等を考慮して、1100万円の和解案を提示した。

(ウ) そして、平成20年1月29日の第6回弁論準備手続において、当事者間に和解が成立した(甲6)。
 その内容は、前記前提事実のとおりであるが、再掲すると、
① 本件事故によるBの損害が合計7500万円(逸失利益5400万円、慰謝料2000万円、葬儀費用100万円)であることを確認する。
② 本件事故の過失割合につき、Bが6割、Aが4割であることを確認する。
③ 上記①の損害額に過失相殺による減額と既払額(1500万円)の減額を施した後の1500万円について、A及びa社は、連帯して、Cほか1名に支払う。
 というものである。

(エ) 裁判所和解案と成立した和解との主たる相違点は、Bの損害額については和解案よりも低額に合意しながらも、過失相殺をB車6割、A車4割とすることによって、裁判所和解案よりも高額の和解になったものである。

エ この和解に対する自賠責損害調査センターの見解は、概ね次のとおりである(甲31、乙10、11)。
(ア) 衝突地点については、原判決第1図面のdocument image地点である。

(イ) 本件事故は夜間に発生し、本件現場付近はカーブであることから、B車がA車の中央線付近走行を認識することも困難であるから、A車の中央線付近走行が、B車が中央線を突破した原因とは考えられない。そうすると、本件事故は「キープレフト」の原則に違反し、中央線を突破したB車の重大な過失によるものといわざるを得ない。

(ウ) そして、和解において、事故発生態様の確定、および双方車両の過失割合をB車側6割、A車側4割とした根拠について、客観的資料ないし合理的理由を確認できず、本件和解について、当事者間で主張、立証が尽くされ、適正に争われた結果であると評価できないとしている。

オ 以上認定の経緯に鑑みれば、控訴人指摘の訴訟告知の点を踏まえても、この点に関する控訴人の主張は採用できないものというほかない。

3 控訴人の2次的主張について
(1) 判断の前提となる認定事実等

 以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第四の一2のとおりであるから、これを引用する。
 原判決5頁22行目末尾に以下のとおり加える。
 「本件道路には、追い越しのための右部分はみ出し通行禁止の規制があった。また、A車側からの見通し状況であるが、原判決第1図面③地点の北側にあるP点から46.7メートル南方のP’点(原判決第1図面document image地点より南方)は見通せた。」
 原判決5頁23行目の「イ 」の次に以下のとおり加える。
 「Aは、平成15年9月16日夕方4時ころに、阿南市所在のa社を出て、名古屋に向かった。名古屋で積荷を降ろして、三重県鈴鹿に向かった。途中、名古屋のコンビニの駐車場で4時間ほど仮眠した。鈴鹿では断熱材を積んで、同月17日の夕方5時ころに、鈴鹿を出発し、高知県安芸に向かった。途中、淡路島のパーキングエリアで仮眠した。そして、同月18日午前2時10分頃、本件道路にさしかかった。」
 原判決5頁26行目の「衝突地点手前」を「衝突地点手前(原判決第1図面③の地点)」に改める。
 原判決6頁1行目の「B車」を「B車(原判決第1図面document imageの地点)」に改める。
 原判決10頁1行目から、14行目までを以下のとおり改める。
 「 次に、修正要素について検討するに、本件事故の前に、A車が中央線をはみ出して進行していたこと(第1図面③付近)、その地点でA車は、document imageの地点のB車を発見していたこと、見通しの距離は、PからP’間で47.6メートルであるから、B車は、その時点で既に、A車が中央線をはみ出して走行していたことを発見した可能性があること等を考慮すれば、Bが動転して判断及び操作を誤り、B車を対向車線に進入させた可能性が高いこと、前記認定したようにA車は、2回仮眠を取ったとはいうものの、本件前々日の夕方4時に名古屋に出発してから、鈴鹿を経由して、高知県安芸に向かう途中の、本件事故当日午前2時10分ころに、本件事故を惹起したものであること等の事情を考慮すれば、B車8割、A車2割の過失相殺をするのが相当である。」

(2) 損害について
 控訴人は、Cほか1名(別件訴訟原告)に上記和解による損害賠償額を支払ったことによりa社ないしA(別件訴訟被告)が取得した被控訴人に対する加害者請求権(15条請求権)を、保険代位により加害者から取得したものであるところ、別件訴訟で成立した訴訟上の和解では、被害者と加害者との間において、Bの総損害につき、逸失利益5400万円、死亡慰謝料2000万円、葬儀費用100万円と具体的に確認のうえ、その余の請求を放棄し、本件交通事故に関し他に何らの債権債務のないことを相互に確認している(甲6)。
 したがって、上記以外の損害項目の損害及び上記各金額を超過する額の損害は、仮にあったとしても上記和解の請求放棄条項、清算条項により消滅したものである。
 よって、控訴人は、上記和解により合意された損害項目及び損害額以外の損害をBの損害として主張することはできないから、控訴人が主張できる損害は上記の合計7500万円に限られる。

 そして、支払基準によれば、被害者に重大な過失がある場合で、被害者の損害額が保険金額3000万円を超えている場合には、保険金額から減額すべきとなっており、これによれば、前記過失割合(B車8割、A車2割)の場合には、3割の減額をすることになっているので、保険金額3000万円から3割減額した金額である2100万円を、被控訴人は支払うべきであったところ、被控訴人が実際に支払ったのは1500万円であるから、被控訴人は控訴人に対して、2100万円と1500万円との差額である600万円を支払うべきである。
 よって、控訴人の2次的主張には一部理由がある。

4 よって、上記結論と一部結論を異にする原判決を変更の上、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 釜元修 金澤秀樹)