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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

当事者が共謀しての仮装事故と認定された判決紹介2

○「当事者が共謀しての仮装事故と認定された判決紹介1」の続きです。
事件は、次の3つです。
Xが、甲社から代金1617万円で購入したSクラスベンツを(以下、本件車両と言う)Y1に破損されたとして
@Y1,Y2に対し約1100万円の損害賠償請求の訴えを提起したところ(A事件)、
AY2との自動車保険契約を締結していたZ保険が独立当事者参加を申し立て、X、Y1、Y2に対し保険金支払義務がないことの確認を求め(B事件)、
BY3保険に対し自動車保険契約に基づく保険金支払を求めた(C事件)


○私は、「事案について当事者全員の主張を概観しただけで、見え見えの仮装事故に感じました。」と記載したとおり、裁判所は、Xの言い分は全て否定し、Xの請求であるA・C事件はいずれも請求棄却、Z保険の保険金支払義務がないことの確認は認容されました。

○ここでシッカリ認識しなければならないのは、加害者側であるY1,Y2が、Xからの損害賠償請求に対し、請求をそのまま認めていますが(自白)、この自白は、Z保険との関係では、民訴法の以下の条文により効力が否定されていることです。
民事訴訟法
第40条(必要的共同訴訟)
 訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その1人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。

第47条(独立当事者参加)
 訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者又は訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者は、その訴訟の当事者の双方又は一方を相手方として、当事者としてその訴訟に参加することができる。
()中略
4 第40条第1項から第3項までの規定は第1項の訴訟の当事者及び同項の規定によりその訴訟に参加した者について、第43条の規定は同項の規定による参加の申出について準用する


○私は交通事故による損害賠償請求事件では、被害者側専門であり、原則として加害者側は、相談も遠慮し、例えば電話で加害者側としての相談申込があると、保険会社の顧問弁護士等加害者側の相談を受けている弁護士を紹介しております。しかし、メールで時々加害者側から、自分のかけた保険会社が被害者に十分な補償をしてくれず困っているとの相談が入ることもあります。

○その相談の切実さに何とか加害者側として保険会社に請求する方法はないものかとあれこれ思案して、「交通事故加害者の任意保険会社への請求方法試案1」など検討しましたが、結局、「交通事故加害者の任意保険会社への請求方法試案2」記載の通り、無駄であり止めた方がよく、被害者に有能な弁護士を紹介するしかないとの、従前通りの結論に戻りました。

○本件訴訟は、良く解釈すれば、物損交通事故の加害者が、出し渋りの保険会社に十分な補償をさせるため、被害者に協力した事案です。人身賠償交通事故の場合も、被害者が加害者に訴えを提起して、加害者が協力して、その請求を自白する方法も考えられます。しかし、この自白は、上記民訴法規定により保険会社には無効で意味がなく、また、約款上も、次の規定により加害者は保険会社の了解なく行った自白に関する保険金支払は拒否されます。
第14条(事故発生時の義務)
保険契約者または被保険者は,事故が発生したことを知った場合は,次のことを履行しなければなりません。
(1)損害の防止および軽減につとめ,または運転者その他の者に対しても損害の防止および軽減につとめさせること。
(2)事故発生の日時,場所および事故の概要を直ちに当会社に通知すること。
(3)次の事項を遅滞なく,書面で当会社に通知すること。
 (イ)事故の状況,被害者の住所および氏名または名称
 (ロ)事故発生の日時,場所または事故の状況について証人となる者がある場合は,その者の住所および氏名または名称
 (ハ)損害賠償の請求を受けた場合は,その内容

(中略)
(7)損害賠償の請求を受けた場合には,あらかじめ当会社の承認を得ないで,その全部または一部を承認しないこと。ただし,被害者に対する応急手当または護送その他緊急措置については,このかぎりではありません。
しないこと。ただし,被害者に対する応急手当または護送その他緊急措置については,このかぎりではありません。
(8)損害賠償の請求についての訴訟を提起し,または提起された場合は,遅滞なく当会社に通知すること。


○話を判決に戻しますが、Z保険、Y3保険の言い分を殆どそのまま認めて、高級車である本件車両を2,3日も本件事故現場に放置しておくのは不自然であり、事故と本件車両の損傷に整合性があるとの鑑定についても前提に誤りがあり信用できず、損傷と事故態様には整合性がなく、さらに本件車両は事故当時1617万円もの価値はなく、「Xが保険金を不当に利得しようとしていたことが窺われ」、「本件事故発生の事実は認められない」と断言してXの請求を全て棄却し、控訴されることもなく確定しています。