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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

交通事故加害者の任意保険会社への請求方法試案1

○「保険会社顧問弁護士の交通事故加害者代理人就任の不当性」で、自動車総合保険約款第1条「当会社は,対人事故により第2条(被保険者)に規定する被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、この賠償責任条項および基本条項にしたがい、第4条(お支払いする保険金)に規定する保険金を支払います。」との規定は、基本的に保険会社が交通事故加害者に対して保険金を支払うとの規定ですと説明しました。

○で、この規定により、交通事故加害者が自分の保険会社に請求出来る保険金は「被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」です。この「損害」は、被害者が交通事故によって傷害を受け、その結果生じる損害であり、最終的には被害者が、加害者乃至保険会社に訴えを提起して裁判所が損害と認めた金額です。この損害の金額は、先ず被害者が請求をしないと確認出来ません。

○そこで保険約款での保険会社に対する保険金請求については次のように規定されています。
第14条(事故発生時の義務)
保険契約者または被保険者は,事故が発生したことを知った場合は,次のことを履行しなければなりません。
(1)損害の防止および軽減につとめ,または運転者その他の者に対しても損害の防止および軽減につとめさせること。
(2)事故発生の日時,場所および事故の概要を直ちに当会社に通知すること。
(3)次の事項を遅滞なく,書面で当会社に通知すること。
 (イ)事故の状況,被害者の住所および氏名または名称
 (ロ)事故発生の日時,場所または事故の状況について証人となる者がある場合は,その者の住所および氏名または名称
 (ハ)損害賠償の請求を受けた場合は,その内容

(中略)
(7)損害賠償の請求を受けた場合には,あらかじめ当会社の承認を得ないで,その全部または一部を承認しないこと。ただし,被害者に対する応急手当または護送その他緊急措置については,このかぎりではありません。
しないこと。ただし,被害者に対する応急手当または護送その他緊急措置については,このかぎりではありません。
(8)損害賠償の請求についての訴訟を提起し,または提起された場合は,遅滞なく当会社に通知すること。
(中略)

第15条(事故発生時の義務違反)
1.保険契約者または被保険者が,正当な理由がなくて前条第2号(事故発生の通知),第3号(事故内容の通知),第4号(盗難の届出),第8号(訴訟の通知)または第9号(書類の提出等)の規定に違反した場合は,当会社は,保険金を支払いません。
(中略)
3.保険契約者または被保険者が,正当な理由がなくて前条第1号(損害の防止および軽減),第6号(請求権の保全)または第7号(責任の無断承認の禁止)の規定に違反した場合は,当会社は,次の金額を差し引いて保険金を支払います。
(中略)
(3)前条第7号に違反した場合は,損害賠償責任がないと認められる額

第19条(評価人および裁定人)
1.当会社が支払うべき保険金の額の決定について,当会社と被保険者との間で争いが生じた場合は、当事者双方が書面によって選定する各1名ずつの評価人の判断に任せます。この場合において,評価人の間で意見が一致しないときは,双方の評価人が選定する1名の裁定人にこれを裁定させます。
2.当事者は,自己の選定した評価人の費用(報酬を含みます。)を各自負担し,その他の費用(裁定人に対する報酬を含みます。)は半額ずつこれを負担するものとします。

第20条(保険金の請求)
1.当会社に対する保険金請求権は,次の時から,それぞれ発生し,これを行使することができるものとします。
(1)賠償責任条項に係る保険金の請求に関しては,被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について,被保険者と損害賠償請求権者との間で,判決が確定した時,または裁判上の和解,調停もしくは書面による合意が成立した時


 加害者被害者合意の場合は保険会社の同意を前提として、和解・調停・示談が成立したときで、判決の場合は判決が確定したときです。従って、保険会社が損害額に同意しない場合、判決が確定しないと加害者が保険会社に「被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」についての保険金支払請求は出来ないことになります。

○そこで、以上の約款を考慮して、交通事故加害者が自分の保険会社に保険金支払を請求する訴えを提起する具体的段取りについて思いつきで検討してみました。
先ず私の基本的考えは、任意保険が付いている交通事故損害賠償については、被害者の保険会社に対する直接請求を大前提にすべきと確信しています。
被害者が加害書の保険会社に対し直接請求するためには、直接請求要件第3番目の「損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対し書面で承諾した場合」であることが必要で、加害者本人に対しては請求しないことを書面で提出する必要があります。

○とすると先ず被害者が、加害者に対し、本件交通事故によって生じた損害を特定し金額を明示して、これを保険会社に直接請求するため加害者自身には請求しないとの書面を交付します。この書面を受領した加害者は、自分に直接請求をしないと承諾されたことから、保険会社に自分に対する保険金支払請求は出来ないことになります。

○その結果、加害者として保険会社に請求する方法は、「被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」について、自分に対して保険金を支払えとの請求ではなく、被害者に直接支払えとの請求しかできないことになります。また「被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」の主張・立証は被害者でないと出来ない部分が相当あり、被害者と協力体制を取らないと請求は事実上不可能です。

○被害者自身が加害者に対し請求しないことを書面で承諾して、保険会社に直接請求の訴えを提起した場合、加害者が保険会社に対し、「被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」を被害者に支払えと訴えを提起する利益があるかとの疑問があります。そこで被害者が保険会社に対する直接請求をする場合、加害者としては、保険会社に対する訴えは、「被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」金額の確認だけで十分と思われます。

○具体的請求の趣旨は、
加害者から保険会社に対するものは
「被告(保険会社)は原告A(加害者)に対し、別紙目録記載交通事故で原告Aが原告B(被害者)に対して負担する損害賠償債務は平成○○年○○月○○日(通常は事故発生日)現在金○○○万○○○○円であることを確認する。」
被害者から保険会社に対するものは
「被告(保険会社)は原告B(被害者)に対して金○○○万○○○○円及び平成○○年○○月○○日(通常は事故発生日)から支払済みに至るまで年5%の割合による金員を支払え。」
となるかなと考えております。
 但し、これは安易な思いつきであり、民訴手続上種々の問題を検討しなければならず、現時点では全くの試案で致命的誤りがあるかも知れず、これからじっくり検討していきます。