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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故関連傷病等

脳脊髄液減少症吉本批判に対する批判紹介

○「脳脊髄液減少症篠永診断基準と吉本批判紹介」を続けます。今回は、篠永医師を初めとする脳脊髄液減少症研究会医師の研究成果である「脳脊髄液減少症ガイドライン2007」に対する吉本医師批判に対する脳脊髄液減少症研究会医師側からの反論を私なりにまとめたものです。参考文献は、「脳脊髄液減少症の診断と治療」、「脳脊髄液減少症データ集Vol.1脳脊髄液減少症データ集Vol.2」、「低髄液圧症候群 ブラッドパッチを受けた人、または、これから受ける人へ」です。

なお、私は平成23年1月現在、後遺障害の一つとして脳脊髄液減少症を主張する交通事故案件を5件抱えておりそのうち一部を交通事故訴訟に意欲を持つ若い弁護士と共同で受任し、私が参考文献を集めて必要箇所を若い弁護士にまとめさせており、今回はそのうちの一つで若い弁護士との共同作です。医学専門文献を素人なりに解析した文章で、専門的には誤りもあろうかと思われますが、脳脊髄液減少症でのお客様の苦しみに感応し、何とか力になりたいとの意欲だけでも感じて頂ければ幸いです。

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5 吉本医師の批判に対する反論
(1)穿刺針の針穴からの漏出について(吉本医師の批判のA)

 篠永医師らのグループの一員である守山英二医師(国立病院機構福山医療センター脳神経外科)および寺田洋明医師(同)は穿刺針の針穴からの漏出に関し以下のように論じている(甲○・守山,寺田論文)
 すなわち,特発性低髄液圧症候群(SIH)の報告が急増した1990年代後半から現在に至るまで,針穴漏出による偽陽性が問題とされた報告はない。欧米での報告はおそらくはより太い22G腰椎穿刺針を使用しているがそれでも針穴漏出は全く問題とされていない。
 守山医師らは,細い25Gペンシルポイント針で穿刺し注入後の安静時間も2時間とるという方法を取っており,このタイプの穿刺針の針穴漏出が希であると検査で明らかにされている。

 他方で吉本医師が依拠する資料は1970年代の古い論文(甲○の論文)と,同時期に開発されたRI(111In-DTPA,RIシンチグラフィーに使用する放射性同位体)の開発段階の資料であるが,この時代の 技術水準は現在と比べれば極めて低いものでそのデータは参考にならない。
 同じく篠塚医師らのグループの一員である美馬達夫医師(山王病院脳神経外科)によれば,「われわれの臨床研究結果は,針穴からの髄液漏れは,脳脊髄液減少症の本来の髄液漏れの程度に比べると無視できるほど少量であると結論づけることができる」としている(甲○)。

 なお,現在使用されている穿刺針と従来使用されていた穿刺針がどれくらいの違いがあるかについては甲32の46頁に図示されている(甲○も参照)。70年代に使用されていた20Gランセット針と現在使用されている25Gペンシルポイント針の差異は明らかである。
 少なくとも,穿刺針による硬膜の孔からの髄液漏れについて議論するのであれば,吉本医師が依拠するような,脳脊髄液減少症の病態が全く認識されておらず,また使用する注射針や医療機器も現在と異なる古い時代の古い論文ではなく,上記の篠永医師らによる最新の研究成果によるべきである。

(2)誤注入について(吉本医師の批判の@)
 誤注入に関しては,現在では誤注入の頻度は低く,画像状の鑑別も容易であり,守山医師らの経験では1000回近いRIC検査で5回という頻度であった。
 吉本医師が依拠する資料は上記のとおり1970年代の古いもので画像解像度が低いため,誤注入の事実が見逃されたと思われる(甲○)。

 現在では先の細いペンシルポイント針を使用するだけでなく,延長チューブを使用して針先がずれる危険を回避しており,誤注入の可能性を限りなく少なくする技術が用いられているのである。
 したがって,現在の技術からすれば,検査時の硬膜外注入や針先漏出の可能性はまず問題とはならない(甲○)。

(3)髄液の吸収について(吉本医師の批判のB)
 吉本医師は,ヒトにおいて髄液の吸収は脊髄からも行われているので,早期に膀胱内にRIが集積したとしても髄液漏れではないとする。
 しかしながら,ヒトにおける脊髄からの髄液吸収を測定することは現時点で不可能であり,ヒトにおいて髄液吸収が脊髄から行われるという考え方は動物実験の結果をヒトの解剖学的所見から推定しているにすぎない。
 ヒトの正常症例による検討は1時間後までを検討したひとつの論文があるだけである。現時点では正常なRIシンチグラフィー所見については,健常者ボランティアによる臨床研究が存在しない(甲○)。
 健常者の髄液吸収のメカニズムが現時点では明らかではなく,現時点で吉本医師ほか反対派が根拠にする資料は脊髄小脳変性症などの変性疾患がある人を被験者としその対照群も健常者ではない(甲○)。
 したがって,吉本医師による批判Bは科学的根拠の乏しいものといわざるを得ないものである。

6 小括
 以上,吉本医師による,RIシンチグラフィーの画像所見を重視することに対する批判は,依拠するデータや論文が現在とは比べものにならないくらい医療技術が低い時代のものであり,また現在では無視することのできるような穿刺針の針穴からの漏出や誤注入の事案がありうることをことさら一般化するものであり,さらには現時点ではいまだ科学的根拠にとぼしく推測にすぎない脊髄からの髄液吸収があるとの考えに基づくものであり,批判として意味のあるものとは到底解し得ない。

 何より,吉本医師は,自らの臨床経験に基づくものではなく,自らの主張に適合的な内外の論文を時代を問わず渉猟して,これらをもとに純理論的に主張をなす部分が多い。
 これに対し,篠永医師らによる診断基準は,原因不明の病状を訴える患者の声に素直に耳を傾け,何とかこれを治療したいという現場の医師らが真摯な努力の結果,その7割程度まで症状を改善するに至った3000例を超える臨床例に基づき導き出された生きた診断基準である。

 したがって,吉本医師の批判が的を射たものでなくなることは当然の結果である。