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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

自賠責保険の話

自賠法16条の3「支払基準」の法的拘束力

○平成18年2月11日更新情報で平成13年の自賠法改正によって自賠法16条の3が追加され、保険会社は、保険金等を支払うときは、金融庁・国土交通省告示第1号の「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」に従って支払わなければならなくなったことを理由に、この自賠法16条の3によって定められた支払基準で査定した損害額は自賠責保険金額としては絶対のものであり裁判所の判決でも変更できないと主張する保険会社がありますが、果たしてこの見解は妥当かとの問題を提起しました。

○これは自賠法16条の3「支払基準」の法的拘束力と言う問題ですが、注釈自動車損害賠償保障法194〜197頁に羽成守弁護士がこの問題について詳しく解説し、結論として、従前通りこの「支払基準」には法的拘束力が無く、裁判所は、これに拘束されず判断することが出来るとしており、妥当な結論と思います。

○この問題についての学説では、八島宏平説(「自動車損害賠償保障法改正の概要について」自動車保険研究6号118頁)では、裁判所は自らの判断で新たな損害賠償額を認定することができるから,保険者は支払基準による算定額ではなく,裁判所の認定された損害賠償額を支払うことになるとし、岩井英樹説(「平成12・13年の交通事故判例の概要(上)」インシュアランス[損保版]3998号5頁)では、支払基準に基づいて算定された金額が実損害額よりも高い場合は,支払基準は裁判所に対して拘束力を持つが,低い場合は,裁判所を拘束できないと述べています。何れも被害者保護の観点から妥当な見解です。

○平成18年2月11日更新情報で述べた設例の高齢者の死亡事故で死亡保険金限度額3000万円のところ、「支払基準」に基づき、限度額の半分の1500万円程度しか認められず、被害者遺族がこの金額に不満を持つも加害者側に任意保険もなく且つ実刑判決を受け刑務所に入って支払能力がない場合、支払基準に法的拘束力を認める見解では、被害者は裁判所に訴えを提起して不足額を請求することが出来ません。

○「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」によると「死亡本人の慰謝料は、350万円とし、遺族の慰謝料は、慰謝料の請求権者は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)とし、その額は、請求権者1人の場合には550万円とし、2人の場合には650万円とし、3人以上の場合には750万円とする。」となっており、例えば母一人子1人で生活し、その母が死亡した場合の慰謝料は、自賠責保険支払基準によると僅か900万円で、裁判基準である日弁連青本基準2000〜3000万円の2分1以下です。

○ですから逸失利益が殆ど認められない高齢者の場合は死亡保険金も1500万円程度しか認められません。例えば死亡した母が78歳だとしても、一人暮らしで無職の78歳の女性に、78歳で家事労働に従事していたとして65歳以上の女子労働者学歴計の平均賃金293万8500円の基礎収入を認めた判例(東京高裁H15.10.30、判例時報1846号20頁)もあり、高齢者でも死亡事故の実損は3000万円を超えることが殆どです。

○自賠法16条の3「支払基準」の法的拘束力を認めるとすれば、自賠責保険は支払基準に従った支払をすれば後は何ら責任がないと言うことになり、被害者保護を目的とした自賠法の趣旨を正に逸脱することになり到底承伏できないものです。