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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

面会交流・監護等

面会交流実施誠実協力義務違反理由の弁護士に対する損害賠償請求認容例3

○「面会交流実施誠実協力義務違反理由の弁護士に対する損害賠償請求認容例2」の続きで裁判所判断の結論部分です。
この事件は、夫である原告が、別居中の妻及びその代理人弁護士に対し、妻が監護する二男につき本件調停により月2回程度の面会交流が認められたにもかかわらず、妻とその代理人弁護士らが不当に面会交流を拒否した等と主張して、妻と弁護士に対し、不法行為に基づき、慰謝料等の支払を求めたものです。

○判決は、当事者は、本件調停に従って面会交流を実施するため日時等の詳細について誠実に協議すべき条理上の注意義務を負担していると解するのが相当であり、一方当事者が、正当な理由なく一切の協議を拒否した場合や、社会通念に照らし事実上協議を拒否したと評価される行為をした場合には、誠実協議義務に反し相手方当事者のいわゆる面会交流権を侵害するものとして不法行為を構成するとしました。

○そして面会交流に関する協議を、弁護士がメールではなく専ら書面郵送の方法で行ったことについて、「メールによる連絡が可能であり実際に9月まではそのようにされていた本件において、あえて時間のかかる書面郵送を用いることにつき、合理的な理由は見当たらない。」、「上記行為は第二調停事件において調停期日が指定されるまで面会交流を行わない目的をもってする意図的な遅延行為であることが推認され、これを覆すに足りる客観的証拠はない。」と断定しました。

○結論として、弁護士が「10月上旬以降第二調停事件において面会交流に関する協議を行うまでの間原告からの協議の申入れに対して速やかに回答せず、殊更に協議を遅延させ面会交流を妨げた行為につき、弁護士の専門家としての裁量の範囲を考慮しても、なお社会通念上の相当性を欠くものとして誠実協議義務の違反があり、不法行為を構成する」として20万円の慰謝料支払を命じました。

○後で紹介する福岡高裁判決で覆されたとはいえ、面会交流要請を受けている側についた弁護士は、この判決の論理を、心してあたらなければなりません。

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二 不法行為の成否
 上記1認定事実に基づき、不法行為の成否について検討する。
(1) 本件調停成立以前の不法行為について

 一般に、監護親は、子の福祉のため、非監護親と子が適切な方法による面会交流をすることができるように努力する義務があり、また、非監護親は子と面会交流をする権利があるということは明らかである。
 もっとも、本件調停成立以前においては、面会交流の具体的日時、場所、方法等が決定されていないことを考慮すれば、上記の権利及び義務は、いまだ抽象的なものにとどまり、原告が二男と面会交流をすることができなかったからといって直ちに原告の法的保護に値する利益が侵害されたとまではいえない。また、同様に、被告Y1が面会交流をできるように努力する義務を負っているとしても、結果的に面会交流ができなかったからといって直ちに原告に対する不法行為を構成するということはできない。
 したがって、本件調停成立以前の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

(2) 本件調停成立以降の不法行為について
ア 本件調停に基づき発生する注意義務

(ア) 本件調停においては、面会交流の具体的日時、場所、方法等の詳細については当事者間の協議によるものとされており、また、上記協議の方法や内容についても当事者に委ねられている。したがって、本件調停の不履行を理由として間接強制をすることはできないと解されるし、当事者の行うべき協議の内容の特定を欠くことから、本件調停に定められた協議を実施しないことを理由として直ちに本件調停の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることもできないと解される。

 しかしながら、本件調停においては、面会交流の実施回数と実施日につき月二回(原則として第二、第四土曜日)と具体的に定めた上で、その詳細については当事者間の協議に委ねていること及び非監護親との面会交流が子の福祉のため重要な役割を果たすことに鑑みれば、当事者は、本件調停に従って面会交流を実施するため日時等の詳細について誠実に協議すべき条理上の注意義務(以下「誠実協議義務」という。)を負担していると解するのが相当である。そして、一方当事者が、正当な理由なく一切の協議を拒否した場合や、相手方当事者が到底履行できないような条件を提示したり、協議の申入れに対する回答を著しく遅滞するなどして社会通念に照らし事実上協議を拒否したと評価される行為をした場合には、誠実協議義務に違反し相手方当事者のいわゆる面会交流権を侵害するものとして、相手方当事者に対する不法行為を構成するというべきである。

(イ) 被告Y1は、本件調停後、離婚訴訟を提起すれば早期に子らの親権者を被告Y1と指定して離婚する旨の判決を得られると思っていた旨の供述をするが、本件調停は第一項に「当事者双方は、当分の間、別居を継続する。」と定められていることに照らすと、第一調停事件において被告Y1は弁護士に委任していなかったことを考慮しても、上記供述はにわかに信用することができない。また、仮に被告Y1がそのように誤解していたとしても、その根拠は不明であって被告Y1の一方的な思い込みであるといわざるを得ない。したがって、上記の事情は、誠実協議義務を阻却する事由には当たらない。

(ウ) また、被告らは、被告Y1が二男を連れて○○に通うことが困難である旨の主張をする。しかしながら、被告Y1は交通事情につき本件調停成立時に認識していたことが明らかであり、実際に、第一調停事件係属中に○○市内で面会交流をしている。また、面会交流の際には被告Y1の父ないし母が移動に付き添い、自動車の運転や二男の世話を手伝っていること、原告も、長男を連れて△△に行き面会交流をしているが、その際には、△△付近で一泊するなど負担軽減のための工夫をしていることも認められる(原告本人、被告本人)。もちろん、○○・△△間の往復が幼児である二男にとって一定程度の負担になることは否定できないものであるが、本件調停に定められた面会交流の頻度は月二回程度にすぎないことからすれば、面会交流を行うことにより子の福祉が増進する利益に比較して上記負担は軽微なものであるというべきである。
 本件調停において面会交流場所は特定されていないことからすれば、被告Y1において面会交流場所につき要望を述べることは許容されているが、上記の事情を考慮すれば、移動の負担は事情変更とはいえず、これを理由に誠実協議義務が阻却されることはないというべきである。

(エ) 以上の観点に基づき、各時期について、被告らに誠実協議義務違反があったといえるかについて検討する。

イ 7月6日から8月上旬までの期間
(ア) 上記(9)認定によれば、7月6日の面会交流につき原告と被告Y1の協議が決裂し、被告Y1は同日の面会交流を拒否したことが認められるので、これが誠実協議義務違反というべきか否かについて検討する。

(イ) 被告らは、被告Y1が原告に対して恐怖感を抱いていたこと、本件調停後葛藤状態が増したことなどを主張する。
 確かに、上記認定のとおり、同居期間中に原告が被告Y1に対し暴力を振るったことがあることは認められる(ただし、その詳細については客観的証拠がなく認定することができない。)。しかしながら、上記一(1)認定のとおり、被告Y1においても別居後のメールのやり取り等で原告に対して感情的な暴言を浴びせていたことがあるなどの事情も認められこれによると、被告Y1が原告に対して恐怖感を抱いていたということには疑問を挟む余地がある。また、別居後当事者間の葛藤状態が増したというべき事情も見当たらない。したがって、上記事情をもって誠実協議義務が阻却されるということは相当ではない。

(ウ) また、被告らは、6月15日の面会交流の際に原告が被告Y1を付け回したなどと主張するが、これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。被告Y1は、原告と感情的に対立しているため付け回されたと感じたとしても、面会交流において親子四人で行動したことをもって直ちに付け回したと評価することはできないものであって、被告らの上記主張は採用することができない。

(エ) もっとも、被告Y1は、原告との面会交流に関する協議自体は行っているものであり、それが決裂に至ったのは、被告Y1の父を同行するか否かの点で意見の一致をみなかったためである。
 確かに、被告Y1の父による4月20日の発言は長男に忠誠葛藤を生じさせるおそれのあるものであり、また、証拠〈省略〉によれば被告Y1の父は激しい言動をする人物であることがうかがわれるので、原告が被告Y1の父に謝罪を求めたり、謝罪がない限り同行を認めないと主張したことは合理性がある。しかしながら、本件において同居中に暴力があったことを考慮すると、父の立ち合いがなければ面会交流を実施できないとした被告Y1の態度が必ずしも不当であるとまではいえないし、原告が動画を送付するという方法での謝罪を要求したことも協議がまとまらなかったことの要因であるといわざるを得ない。そうすると、7月6日の面会交流に際し被告Y1において事実上の協議拒否があったとまではいえず、不法行為を構成するものではない。

(オ) その後、8月上旬まで面会交流は実施されていないが、被告Y1は自分自身及び二男の体調不良をその理由としており、これが虚偽であることを認めるに足りる客観的証拠は提出されていないので、このことをもって被告Y1に誠実協議義務違反があったということもできない。

(カ) 他に、7月6日から8月上旬までの期間について被告Y1に不法行為が成立するというべき的確な証拠はない。

ウ 8月上旬から9月末までの期間
(ア) 被告Y1が被告Y2に委任し、被告Y2において被告Y1の代理人として第二調停事件の申立てをした後は、原告と被告Y2の間で面会交流に関する協議がされた。上記一(11)認定のとおり、被告Y2は、当初は第二調停事件の期日における協議を求めたが、移送の審判に時間を要したため、9月24日から原告と被告Y2の間で直接協議がされた。

(イ) 第二調停事件の申立てにより本件調停が当然に失効するわけではない以上、第二調停事件において本件調停を変更する内容の調停や、当面の間本件調停と異なる方法で面会交流を行う旨の中間的合意が成立するまでの間は、本件調停に基づく誠実協議義務が残存していることは明らかである。

 もっとも、通常であれば申立て後速やかに第一回調停期日が指定されると考えられること、被告Y2は第一回調停期日の指定が遅れている状況に鑑み9月30日には第二調停事件の期日以外において面会交流協議をすることを了承したことに照らせば、被告Y2において第二調停事件の期日における協議を求めたことが事実上の協議拒否や不当な遅延行為に当たると評価することは困難である。

(ウ) 以上の事情を考慮すると、8月上旬から9月末までの期間、被告らに誠実協議義務の違反があったということはできず、不法行為は成立しない。そして、他に上記期間に被告らに不法行為が成立するというべき的確な証拠はない。

エ 10月以降
(ア) 10月以降も、原告と被告Y2の間で面会交流に関する協議が行われたが、この間、被告Y2はメールではなく専ら書面郵送の方法により原告に連絡をしている。
 被告Y2から原告に送付された書面には、メールを使用しない理由として、「意見の対立がみられるため、争点を明確化し、適格に解決すべく」との記載があるが、本件は時効中断や形成権の行使等の書面による証拠化が必要な事案ではないし、感情的対立を防ぐため電話よりも書面郵送の方が優れている部分もあるにせよ、メールによる連絡が可能であり実際に9月まではそのようにされていた本件において、あえて時間のかかる書面郵送を用いることにつき、合理的な理由は見当たらない。

 これに、被告らは第二調停事件において改めて面会交流のルールを作成すること(すなわち、本件調停の効力を失わせること)を求めていたこと及び10月21日以降は書面郵送による協議すら行った形跡がないこと(被告らは○○家庭裁判所からの履行勧告に対しても応対していない。)を併せ考慮すると、原告が被告Y2に対して面会交流の方法等について必要以上とも思える説明を求めていたことや法律専門家である弁護士は交渉手段の選択について裁量の幅を有していることを考慮しても、被告Y2の上記行為は第二調停事件において調停期日が指定されるまで面会交流を行わない目的をもってする意図的な遅延行為であることが推認され、これを覆すに足りる客観的証拠はない。

(イ) 第二調停事件が係属した後であっても本件調停に基づく誠実協議義務が否定されるものではないことは上記ウ(イ)説示のとおりであって、特に6月以降は面会交流が途絶えており子の福祉の観点から早急な面会交流の再開が求められている状況に照らし、被告Y2は、速やかに面会交流が実施できるようにするための誠実協議義務を負っていたことが明らかである。そして、原告に受任通知を送付し被告Y1の代理人として原告との交渉窓口となっていた弁護士である被告Y2は、このことを認識していたか、そうでないとしてもその法律知識、能力をもってすれば極めて容易にこれを認識し得たというべきである。

 そうすると、被告Y2が10月上旬以降第二調停事件において面会交流に関する協議を行うまでの間原告からの協議の申入れに対して速やかに回答せず、殊更に協議を遅延させ面会交流を妨げた行為につき、弁護士の専門家としての裁量の範囲を考慮しても、なお社会通念上の相当性を欠くものとして誠実協議義務の違反があり、不法行為を構成するというべきである。

 また、証拠〈省略〉によれば、被告Y1は被告Y2から原告との協議の状況について随時報告を受け相談していたことが認められるので、被告Y1についても、被告Y2の上記行為につき主観的関連共同性があり共同不法行為責任を負うものというのが相当である。


(3) 慰謝料額
 上記認定の事実経過等本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、本件の慰謝料は20万円が相当である。

第四 結論
 その他原告及び被告らは縷々主張するが、各証拠に照らしていずれも採用することができず結論を左右するに至らない。
 以上によれば、原告の請求は、20万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないので、よって主文のとおり判決する。
 (裁判官 中村心)