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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

不倫問題

メールデータを違法収集証拠として請求を棄却した裁判例紹介1

○不貞行為を理由として間男・間女?に対する損害賠償請求事件は後を絶たず益々増える傾向にありますが、この不貞行為が発覚するきっかけで一番多いのが携帯電話やスマホでのメールの遣り取りです。配偶者の一方が、怪しいと思って相手方の携帯電話・スマホを見て、怪しいメールを発見して追求することから不貞行為が発覚します。

○間男・間女?側から依頼されることが多い当事務所では、不貞行為の証拠として数百頁に渡る大量のメールの遣り取り記録が提出された事件もありました。この種事件では、メールの遣り取りが証拠として出されことが多いのですが、第三者に知られるおそれがあるメールに、よくぞここまで書けるものだと、ポルノ小説を遙かに上回る生々しく迫力のある記述に感服したこともあります(^^)。

○その不貞行為を立証するためのメールですが、夫が、妻Aの不貞行為の相手方に対し、妻Aとの婚姻関係を破綻させ、精神的苦痛を被らせた等として、間男に対し、慰謝料を請求した事案において、Aの携帯電話機おいてAと間男との間で受送信されたメール文の写しとして夫が提出した文書は、そのデータの入手や利用がAあるいは間男の承諾、その他これを正当とする理由に基づくものでないことは明らかであり、その入手や利用は違法であるとして、本件メールは、本件訴訟においては、いわゆる違法収集証拠として証拠能力を否定し、証拠から排除すべきであるとした上で、間男とAとの交際において不法行為を構成する本件不貞行為が存在したと認めるべき証拠はないとして、夫の間男への請求を棄却した平成21年12月16日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を2回に分けて紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成20年7月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被告が原告の妻A(以下「A」という。)の不貞行為(以下「本件不貞行為」という。)の相手方となり,原告とAとの婚姻関係を破綻させ,原告に精神的苦痛を被らせたなどとして,原告が被告に対し,慰謝料を請求する事案である。
 本件の主要な争点は本件不貞行為の存否であるが,被告は,A使用の携帯電話機(以下「本件電話機」という。)においてAと被告との間で受送信されたメール文の写しとして原告が提出した文書(甲2の1及び2,甲5の1ないし15,甲6の1ないし161。以下併せて「本件メール」という。)が違法収集証拠であるなどとしてその排除を求めている(この点の判断は後記第3の1のとおりである。)。

1 前提事実
 争いのない事実並びに証拠(甲1,3,4の1及び2,甲8ないし10,乙3,原告,被告。後記認定に反する部分を除く。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

(1) 当事者等
ア 原告は,昭和○年生の男性であり,会社に勤務している。
 Aは,昭和○年生の女性であり,平成2年から東京都港区赤坂見附所在の建設会社に勤務し,平成18年ころ当時,同社東京支店建築工事管理部に事務職として勤務していた。
 原告とAは,小学校及び中学校の同級生で,平成5年ころから交際を始め,平成9年3月2日に婚姻し,平成○年○月に長男,平成○年○月に二男,平成○年○月に三男の3人の子をもうけた。
 原告とA及び子らは,平成17年6月から千葉県習志野市津田沼のマンション(原告の現住所。以下「自宅」という。)に居住していた。なお,Aの父母が住む実家は同市谷津にある。

イ 被告は,昭和○年生の男性で,1級建築士及び1級建築施工管理技士等の資格を有しており,平成10年から上記建設会社に勤務し,平成18年1月ころ当時,上記支店建設工事管理部において工事管理の職にあった。
 被告は,平成18年1月5日に前妻との協議離婚届出をし,横浜市中区石川町所在のマンション(以下「被告宅」という。)に居住していた。

(2) 映画の件及び被告宅訪問の件
ア Aと被告は,休日の平成18年1月14日,被告宅に近い横浜市中区桜木町所在の映画館において2人で映画を観た(以下これを「映画の件」という。)。

イ Aは,平成19年4月29日午前10時11分ころに被告宅を訪ね,午後1時ころ被告とともに被告宅を出て電車に乗り,午後2時30分ころに別れたが,被告宅を出た後に2人は手をつなぐことがあった(以下これを「被告宅訪問の件」という。)。

(3) Aと原告との別居,調停,訴訟及び和解等
ア Aは,映画の件があった翌日の平成18年1月15日に子らを連れて実家に戻り,以後原告と別居した。なお,Aは,平成17年12月18日,原告と言い争いになり,実家に戻ろうとしていったん子らとともに家を出たが,結局,自宅に戻ったことがある。

イ Aは,原告との離婚を求めて平成18年2月及び同年10月の2度にわたって調停を申し立てたが,1度目は同年7月26日に取下げで終了し,2度目は平成20年1月ころに不成立で終了した。
 原告は,子らとの面接交渉をしていたが,2度目の調停事件係属中で被告宅訪問の件があった平成19年4月29日より前にAの行動調査をACグループ株式会社(総合調査機関)に依頼した(被告宅訪問の件は同会社作成の調査報告書(甲3)に記載されている。)。

ウ Aは,平成20年3月4日,原告との離婚等を請求する訴訟(千葉家庭裁判所平成20年(家ホ)第35号。甲4の1)を提起した。
 原告は,同年6月24日,Aに対して不貞行為等を理由に慰謝料500万円の支払を求める反訴(同第104号。甲10)を提起し,かつ,被告に対して本件訴訟を提起した。

 Aと原告との訴訟は,平成21年4月21日,①Aと原告が同日和解離婚する,②子らの親権者をいずれもAとする,③原告は子らが満20歳に達する日の属する月まで養育費を支払う,④Aは財産分与として自宅の共有持分10分の1を分与する,⑤Aは原告に対し離婚に伴う和解金200万円の支払義務があることを認め,これを和解の席上授受した,⑥Aは原告に対し所定の条件下で月2回子らとの面接交渉を認める等の内容の和解によって終局した。なお,和解期日には,Aとその代理人及び原告代理人が出頭した(甲9)。

2 争点及び主張
 本件の争点は,(1)本件不貞行為の存否,(2)本件不貞行為による婚姻関係の破綻の有無及び原告の損害であり,当事者の主張は次のとおりである。

(1) 本件不貞行為の存否
 (原告の主張)
 被告は,Aが原告と別居した平成18年1月15日以前から,本件不貞行為を行っていた。このことは,以下の点から明らかである。
ア Aと被告との間では,平成17年12月30日から本件メール(違法収集証拠ではない。)が受送信されていた。
 本件メールには,Aの別居前にも,被告とAの2人だけの温泉旅行の提案,2人での飲食のこと,映画の件やデートが楽しかったこと等が記載され,別居直後から,2人の朝から夜までの親密な会話,飲食やデート,互いの相手を思う気持ちや会いたい気持ち,Aの調停申立てやその手続進行の報告等が記載されている。

 本件メールの数のおびただしさ,親密な件名及び本文の内容は,Aの別居よりはるか以前から被告とAとの交際が始まっていたこと,両者は単なる職場の先輩後輩の関係をはるかに超えるただならぬ関係にあったことを示している(被告がAの資格取得のために勉強を教えていただけの関係でないことは明らかである。)。

 原告は,本件メールを見てAと被告の交際の一部を知り,探偵社に依頼してAの行動を調査した。

イ 映画の件につき,Aは,夕飯前に帰宅すると言って午前中から外出し,被告とデートを楽しみ,1歳2か月で母の乳房をくわえながら寝る習慣の三男がいるのに午後8時過ぎまで帰宅しなかった。
 Aは,原告が子どもがかわいそうではないかと注意しても,映画のタイミングが悪かった,自分も働いているのだからたまにはよいのではないかと返答するだけで,翌日,原告が改めて注意をすると実家に戻り,その後別居を続けた。

ウ Aは,別居の約1か月後には離婚を求める1度目の調停を申し立てたが,原告がよりを戻して子らと一緒に暮らしたいとの態度であったため,申立てを取り下げた。

エ Aは,上記取下げの3か月後の平成18年10月に2度目の調停を申し立て,原告が子らを引き取って離婚することを原告といったん合意し,原告は,自宅を原告の父母も同居できるようにリフォームした。
 しかし,Aは,原告が被告宅訪問の件についての調査報告書及び本件メール(甲2の1及び2の分)を見せて説明を求めたところ,態度を一変させ,子らは渡せないと主張し,2度目の調停も平成20年1月に不成立で終了した。

オ Aは,マンションの裏口から合鍵で入り,被告宅内で2人だけで約2時間半を過ごし,被告宅を出てから被告と手をつないで歩いている(被告宅で2人が肉体関係を結んだ余韻を表している。)。

カ Aは,別件訴訟において,原告に対し,和解金の名目で実質的には婚姻破綻の責任を認めた慰謝料200万円を支払った。

(被告の主張)
 本件不貞行為は存在せず,原告の主張は邪推によるものである。
ア 被告は,2年以上も前の本件メール(違法収集証拠として証拠排除されるべきである。)に記憶がないが,被告がこれを送受信していたとすれば,夫婦仲が悪いことにつき愚痴をこぼし暗い雰囲気であったAを励まそうと思って少しふざけた内容のメールになったものと推測される。

 原告の供述は,本件メールにAと被告の濃厚な関係が表れているとしながらそのメールを指摘することができず,本件不貞行為を疑う端緒となったメールも指摘できず,本件不貞行為を推測した根拠が本件メールの件数だけであることを認めており,本件メールは会社の同僚としての関係より深い関係や本件不貞行為の存在を示すものではない(多数のメールの交換があれば不貞行為となるものではない。)。

イ 映画の件は,当日,予定していたもう1名の女性が来られなくなったため,被告とAが2人で映画を観たにすぎない。

ウ 被告は,Aが平成18年春ころから2級建築施工管理技士の資格を取得したいとして教えを請われ,そのころから平成19年4月までの間,月2回,1回当たり2時間程度,Aの質問に被告が答える形の勉強会を喫茶店や建築関係のテキストがそろっている被告宅において行っていた。

 被告宅訪問の件は,被告がシンガポール旅行に出発する平成19年4月29日午前中にAが参考書の借用と質問のために被告宅を訪ね,旅行の荷造り中の被告に質問をし,そのうち原告に対する愚痴をこぼして被告を困らせたため,荷造りも質問もはかどらずに約2時間半が過ぎ,また,原告との離婚問題に疲れたAから手をつないでほしいと言われてこれに応じただけで,被告とAとの間に肉体関係などはない。

エ Aは,原告に対し,自宅のローンの清算金として和解金200万円を支払ったのであり,慰謝料を支払う意思などはなかった。

(2) 本件不貞行為による婚姻関係の破綻の有無及び原告の損害
 (原告の主張)
ア 被告は,本件不貞行為を行い,平和な家庭を崩壊させ,婚姻関係を破綻させ,子煩悩であった原告から子らが奪われるに等しい状況を作出するという不法行為を行った。Aは,一方的に原告と別居し,その後もAの両親が心配するほど頻繁に被告との交際を重ね,虚構の事実を主張してしゃにむに原告との離婚を求め,その結果,原告も離婚を観念せざるを得なくなり,原告とAの婚姻関係は完全に破綻した。

イ 原告は,上記不法行為により,深く大きな精神的苦痛を被っており,これに対する慰謝料は500万円を下らない。

(被告の主張)
 原告の主張は,否認し争う。