○「別れる」「必ず離婚する」と言明されたことで交際相手の夫婦関係は既に破綻しており、離婚してもおかしくない状態に至っていると信じて疑わなかったとの主張について、その認識を前提としても、離婚していないとの認識はあったのであり、破綻していることを希望しているに過ぎないとして間女?に対して160万円も慰謝料支払を命じた平成27年9月27日東京地裁判決(TKC)を紹介します。
○「
不貞行為損害賠償請求-先進諸国法令ではむしろ例外的との解説発見」以降で紹介した諸外国の考え方からすると、日本の裁判官の不貞行為第三者責任についての感覚は、異次元だなと実感します。私の感覚からすると、責任はこんないい加減なことを言う夫にあり、間女?の責任は微々たるもので、慰謝料は夫に認めるのがスジと思うのですが。
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主 文
1 被告は,原告に対し,160万円及びこれに対する平成24年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その7を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
<TKCb>事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成24年10月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告と原告の夫との不貞行為により,精神的苦痛を受けたとして,被告に対して,不法行為に基づく慰謝料500万円及び弁護士費用として慰謝料の1割の合計550万円の損害賠償並びに前記損害に対する訴状送達の日の翌日である平成24年10月13日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
1 前提事実
(1)当事者等
ア 原告とB3(以下「B3」という。)とは,平成20年12月1日に婚姻した夫婦である。
イ 被告は,前記婚姻前からB3と交友関係のある独身女性である。
(2)原告とB3の婚姻当時,原告は25歳,B3は33歳であった。
B3は,ダーツプレーヤーで,全国のダーツ大会に参加するほか,婚姻当時,東京都渋谷区αのダーツバー3 spears(スリースピアーズ)を経営していた。
原告は,B3が3 spearsの前に店長を務めていた,東京都渋谷区βのダーツバー Pierrot(ピエロ)に客として来店し,B3と知り合い,交際するようになり,婚姻するに至った。
(3)原告は,婚姻後,B3に連れられ,原告夫婦宅近くの,蒲田駅東口にあるダーツバー D-COAST(ディーコースト)に来店し,以降,同店に出入りするようになった。原告は,平成21年2月頃,同店のオーナーを通じて,同店の常連客であったB4(以下「B4」という。当時26歳)と知り合った。
(4)被告は,原告とB3が婚姻関係にあることを知りながら,平成23年8月から,B3と,交際し,肉体関係を持つようになり,現在まで交際している。被告は,B3との子を妊娠し,平成25年○月○○日,B3との子を出産した。
(5)原告は,被告に対し,平成24年9月20日到達の内容証明郵便で,被告とB3の不貞行為が慰謝料請求の対象となること,慰謝料を請求したい気持ちは強いが,被告が,B3との間で方法の一切を問わず連絡を取り合わないこと,B3と会う可能性のある場所にも立ち寄らないこと,子どもを出産した場合,認知等の問題についてはB3ではなく原告宛に書面で連絡を行うこと等についての遵守を提案し,違反した場合に罰則を受けることも含めて誓約するなら,慰謝料請求の権利は放棄することも考えているとして,前記提案についての回答を求めた(甲5の1,5の2)が,その後も,被告はB3と交際している。
2 争点
(中略)
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告とB3の婚姻関係の破綻についての被告の責任の存否)について
(1)証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,B4と知り合った後,同人と親密になり,B4は,原告から頼まれて,D-COASTから原告夫婦宅まで原告を送るようになり,原告とB4は,平成21年4月頃にはキスをする関係にまでなり,同月上旬,B3がダーツの試合で地方遠征のため不在だった夜,B4は,原告から,B3は試合で留守だと誘われて原告夫婦宅に行き,原告とB4は肉体関係を持った(乙2,原告本人)。
以降,原告とB4の関係がB4の妻に発覚する平成21年6月上旬まで,仕事やダーツの試合でB3が不在の原告夫婦宅やホテルで,原告とB4は肉体関係を持ち続けた(乙2,原告本人)。
イ 平成21年6月下旬,原告とB3,B4夫婦の4人が,原告夫婦宅に集まって話合いをし、話合いの中で,当初原告は,B4との肉体関係を否定したが,話合いを終えた後,原告は,B3に対して,B4との肉体関係を認めた(甲9,乙2,原告本人)。
ウ 原告は,平成21年12月,B3との子を妊娠したが,平成22年1月,流産した(甲9)。
エ B3は,平成23年10月頃から平成24年8月頃まで,原告に対して,複数回に渡って,離婚を申し出たが,原告は離婚を拒んだ(甲9,乙3)。
オ 原告とB3は,平成24年9月頃から別居状態にある(甲9,原告本人)。
(2)前記前提事実に,前記(1)の認定事実を併せて検討すると,原告とB3の婚姻関係は,その当初,原告とB4の不貞行為により,いったんは悪化したものの,その後B3が原告に宛てた手紙(甲10)には,原告との関係をやり直すB3の決意が記載されていることなどに照らすと,被告とB3が肉体関係を持った平成23年8月の時点では,原告とB3との婚姻関係は維持されていたというべきであり,その婚姻関係は,被告とB3との不貞行為により破綻に至ったというべきである。
この点,被告は,B3は,原告とB4の不貞行為がB3に発覚した直後から,原告に対して離婚を申し出ていたというが,その頃,B3が原告に対して離婚を申し出ていたか否かにかかわらず,前記認定のとおり,原告とB3の婚姻関係はそれによって破綻には至らなかったというべきである。また,平成23年10月又は11月頃から,B3は,原告に対して離婚を申し出ているが,この申し出は,被告とB3の不貞行為が開始された後の申し出であって,このことから,被告とB3が交際を始めた当初から,原告とB3の婚姻関係が破綻していたということはできない。
(3)被告は,B3から離婚を考えていることを聞き,B3との共通のダーツ仲間からも,B3と原告との夫婦関係が修復できるような状態でないことを聞いていたという状況下で,B3が,原告と「別れる。」,「必ず離婚する。」と言明したので,被告は,B3と原告との夫婦関係は完全に破綻しており,離婚してもおかしくない状態に至っていると信じて疑わなかったと主張するが,被告の主張する状況において,被告が被告の主張のとおり認識していたことを前提としても,被告としては,B3の言葉から,原告とB3とは,別れておらず,離婚もしていないと認識していたものであり,原告とB3との婚姻関係が破綻していたと認識していたとまではいえず,そのおそれがあるという程度の認識で,破綻していることを希望していたにすぎないというべきであるから,被告は,原告に対して,不貞行為による不法行為責任を負うというべきである。
2 争点(2)(損害)について
前記認定判断によれば,原告は,被告とB3との不貞行為により,原告とB3の婚姻関係が破綻するに至り精神的苦痛を被ったと認められ,その苦痛に対する慰謝料としては,原告とB3の婚姻期間,被告とB3との不貞行為の態様等に照らして,150万円が相当であり,本件訴訟に係る弁護士費用等は10万円が相当である。
3 したがって,原告の請求は,不法行為に基づく損害賠償として160万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年10月13日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この限度でこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第33部
裁判官 佐々木清一