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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

面会交流・監護等

面会拒否母への慰謝料請求が棄却され逆に慰謝料支払を命じられた事案紹介2

○「面会拒否母への慰謝料請求が棄却され逆に慰謝料支払を命じられた事案紹介1」の続きで裁判所の判断部分です。



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第三 争点についての判断
一 争点(1)被告の不法行為の成否について

(1)一般に監護親は、子の福祉のため、非監護親と子が適切な方法による面会交流をすることができるよう努力する義務があり、また、非監護親は子と面会交流をする権利があるということは明らかである。
 もっとも、監護親と非監護親との間で面会交流についての調停その他において合意がまとまり、あるいは、面会交流についての審判が確定するなどして、面会交流の具体的日時、場所、方法等が決定されればともかく、それ以前の段階においては、上記面会交流の権利や義務は、いまだに抽象的なものに留まり、非監護親と子との面会交流をすることができなかったからといって、直ちに監護親の法的保護に値する利益が侵害されたとまではいえない。また、同様に、非監護親が面会交流をできるように努力する義務を負っているとしても、結果的に面会交流ができなかったからといって、直ちに非監護親に対する不法行為を構成するということはできない。

(2)本件においては、平成27年××月××日に、本件審判がされ、面会交流の具体的内容が示されたものの、原告の即時抗告により、本件口頭弁論終結時においては、未確定の状態であるから、非監護親である原告の面会交流の権利が具体的に決定されたものとは認められない。

 また、原告は、毎月5回の宿泊や長期休暇においては5泊6日の宿泊を伴う面会交流が相当である旨主張するなど、一般的な面会交流の実情に照らすと過大な面会交流を求めており、これが面会交流が実現していない原因の一つとなっていると解されることからすれば、面会交流が実施されないことにつき、原告にも相応の責任を認めざるを得ない。

 原告は、被告が面会交流に応じないことにつき正当事由がないとして、自説に基づき縷々主張するが、原告の求める面会交流の内容を見る限り、原告には、面会交流が一次的には子の福祉のためにあることについての配慮が十分なされているとは考えにくく(原告は、種々の学術資料や意見書を根拠とするようであるが、本件事案に適切なものといえるかは極めて疑問である。)、面会交流が実施できないことの責任をすべて被告に転嫁するかのような原告の態度が許容されるものではない。

(3)よって、原告と原告Cとの面会交流が実施できていないからといって、被告に不法行為が成立するとは認められない。

二 争点(2)第一事件訴訟の不当性について
 被告は、第一事件訴訟が、不当訴訟であると主張する。
 確かに、面会交流についての抗告審係属中という提訴時期や面会交流の拒絶による損害賠償請求の認容事例を見る限り、原告が、損害賠償を求めることが第一事件訴訟提起の真意であるといえるかは、やや疑問があるところである。しかしながら、面会交流につき日時、場所、方法等が具体的に確定して初めて面会交流拒絶に基づく損害賠償請求を認容した場合が裁判例の趨勢とはいえ、面会交流の法的性質を原告の主張するようなものと捉える考え方もあり、原告の主張するような請求が認容される可能性が皆無とまではいえないことからすれば,証拠上、特に被告の困惑等の目的で第一事件訴訟を提起したとまでは認められない以上、第一事件訴訟が不当であるとまではいえない。
 よって、第一事件訴訟の不当性を理由とする被告の損害賠償請求は理由がない。

三 争点(3)原告によるプライバシー侵害及び名誉毀損について
(1)前提事実によれば、原告は、本件送付記録等を、被告及び原告Cが診察を受けたDクリニックの他、原告Cが通学するE小学校の担任教諭宛や被告の親戚であるP3宛に対しても郵送しているところ、この中には、被告及び原告Cの精神科の診断書や、原告と被告とが離婚に至る経緯などの記述が含まれ、これらは、一般に第三者に知られたくないものとして、みだりに漏洩ないし公開されない法律上の保護に値する利益であると認められる。よって、これを正当な理由なく、むやみに第三者に公開することは、被告のプライバシー権の侵害となり得るものである。

 これにつき、原告は、原告が作成したものや、被告が原告に交付したものなどいずれも公開されているものである上、送付された相手方もそれぞれに守秘義務を負っているから、プライバシー権の侵害とはならないと主張する。しかしながら、家事事件は、非公開であり(家事事件手続法33条)、極めてプライベートな問題を取り扱うことから、事件記録の謄写は、当事者又は利害関係を疎明した第三者に限られ、事件関係人である未成年者の利益を害するおそれがある場合などには謄写が認められないこともあるなど(同法47条4項)、安易に第三者に公開することは予定されていないし、守秘義務を負う者に対する開示であっても、その開示により、当事者と当該第三者との信頼関係に影響し、当事者に精神的苦痛を与えるなど、様々な弊害が想定されることからすれば、到底正当化されるものではない。
 よって、原告のこれら行為は、プライバシー権の侵害を構成する。

(2)また、本件送付記録等に添付された書簡には、「Cが虐待寸前の不適切な養育環境におかれて、過酷なストレスに曝されている可能性がある」「将来、Cが、自傷行為、不登校、摂食障害、非行、引きこもりなどに陥るのではないかと、私は危惧しております」などの記述があり、これらの文書を受領した者は、被告が、原告Cを虐待し、不適切な養育環境において、過酷なストレスに曝しており、このため、原告Cが将来、精神的障害を受ける恐れがあるなどの印象を抱かせ、これにより被告の社会的評価を著しく低下させるものであり、被告の名誉を毀損することは明らかである。

 原告は、疑いや可能性を指摘したに過ぎないと主張するが、読み手がどのような印象を抱くかが問題である以上、疑いや可能性との表現があったとしても、名誉毀損の成立は免れないというべきである。また、原告は、原告Cを心配して行ったかのような表現を用いているが、その内容は、十分な事実確認のないまま、本件送付記録等を独自に解釈して虐待の可能性などを指摘したに過ぎないものであり、正当な行為とは認められない。さらに、原告は、原告の行動が、審判においても支持されていると主張するが、同審判は、原告の行為により面会交流の実施を禁止すべきとはいえないとしつつも、原告の行為は、被告や原告Cへの配慮に欠けるものであったと指摘しているのであり、原告の同審判の解釈は完全に誤りという他ない。

(3)よって、原告の行為は、被告のプライバシー権を侵害するとともに、名誉を毀損するものと認められ、不法行為に該当するから、原告には、被告に生じた損害(慰謝料及び弁護士費用)を賠償する義務がある。
 その金額であるが、被告の抗議後も同様の行為を継続するなどの原告の行為は極めて不当と言わざるを得ないものの、書類の内容、開示された第三者の範囲、現実には必ずしも被告の名誉が毀損されたともいえないこと(学校側が、原告Cの登下校時の付添等を求めたのは、被告の虐待を疑ったからではなく、原告が原告Cを連れ去るのではないかとの危惧を抱いたからであり、その意味では原告は自らの社会的評価を低下させたともいえる。)などの事情を総合すると、その額は慰謝料30万円及びこれに対する弁護士費用である3万円の合計33万円をもって相当というべきである。

四 争点(4)誠実義務違反について
 家事調停・審判は、当事者のみならず、子の将来に大きな影響を与えるものであり、当事者も、信義に基づき、誠実に対応することが求められるというべきである(同法2条)。しかしながら、同規定は訓示規定であって、その表現も極めて抽象的であるから、その違反により、直ちに法的効力が生じるものとは解されない。

 また、当事者にはそれぞれプライバシーが存在する上、調停や審判を自己に有利に進めるため、裁判所や相手方に提出する情報、証拠を取捨選択することは当然に認められるところである。また、同一の事実関係であっても、立場によって捉え方が異なり、我田引水的に自己に有利に解釈することもやむを得ないところである。

 そうすると、原告の離婚調停や面会交流調停・審判における対応が、必ずしも信義誠実に沿ったものとはいえず、自己の生活状況について、つまびらかにしなかったとしても、直ちに不法行為を構成するものとはいえない。
 よって、この点についての被告の主張は理由がない。

五 争点(5)人格権に基づく差止請求権について
 上記三で述べたとおり、原告の行為は、被告に対するプライバシー権の侵害及び名誉毀損を構成する。また、原告の行為は、原告Cの診断内容などを第三者に開示するものであるが、これらは原告Cにとってもみだりに第三者に知られたくない情報というべきであって、その開示により、原告Cと当該第三者との間の信頼関係等に悪影響を与えかねないものである(例えば、これが学校に開示されることにより、学校側の対応に悪影響を及ぼす可能性などが否定できない。)。よって、原告の行為は、原告Cのプライバシー権をも侵害するものと認められる。

 こうした行為により、被告及び原告Cに、社会的人間関係やこれが開示されることによる精神的苦痛など、平穏な生活の維持に関して著しい損害を生じるおそれが否定できないところ、原告は、被告から抗議を受けた後も、本件仮処分の決定がされるまで、自己の行為を正当化してこれを継続したのであるから、法的に禁止されない限り、こうした行為を継続するおそれは大きいと言わざるを得ない。

 よって、被告及び原告Cは、人格権に基づき、原告に対し、第二事件請求(1)項のとおり、面会交流審判の事件記録の写し及び同事件記録を謄写した文書のうち、離婚に至る経緯及び被告及び原告Cの精神的健康状態等、被告及び原告Cのプライバシーに関する内容の文書を、裁判手続以外で、第三者に配布し又は引き渡す等の行為の差止めを求めることができる。

第四 結語
 以上より、原告の第一事件請求は理由がないからこれを棄却し、被告及び原告Cの第二事件請求は、主文第二項及び第三項の限度で理由があるからその限度でこれを認容し、訴訟提起の経緯から見て、訴訟費用は第一事件・第二事件を通じ、原告に負担させるのが相当として、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤岡淳)