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不倫問題

間男・間女に対する慰謝料請求権消滅時効起算点最高裁判決全文紹介

○夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者がこの同せい関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行するとした平成6年1月20日最高裁判決(判タ854号98頁)全文を紹介します。

○事案は、昭和17年に結婚した夫と昭和41年頃から昭和62年12月まで21年間同せいを継続し、その間夫の子を出産した女性(間女?)に対し、妻が5000万円の慰謝料請求をして、原審が、継続した同棲関係が全体として違法な行為として評価されるべきで、当初の情交関係、その後における日々の同棲を逐一個別の違法な行為として把握し、これに応じて損害賠償債務の発生及び消滅を日毎に定めるとするのは、行為の実質にそぐわないもので、相当ではなく、本件損害賠償債務は、全体として、同棲関係が終了した昭和62年12月から消滅時効が進行するとの見地から500万円の慰謝料を認めました。

○これに対する上告理由全文も紹介しますが、婚姻破綻の抗弁も提出しており、妻の供述によるとこの夫は、「昭和26年頃からは、主人は酒と女の毎日で、店にも女を引き入れ、少しでも逆らえば手拳でなぐったり蹴ったりする等の暴力を私にふるい」、「太平洋戦争中には……出征するときもAというお妾さんを同伴で出征し、そこで一緒に暮らした位ですから、その最初のお妾さんから始まって結局、私の覚えているお妾さんだけでも20人以上になる」とのことです。昔は、こんな豪傑が結構居たのでしょう。

○消滅時効の起算点に関する回答が、平成6年1月20日最高裁判決(判タ854号98頁)で、以下の通りです。

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主  文
 原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。 
 
理  由
 上告代理人○○○○の上告理由について
一 原審の確定した事実関係は、要するに、
(1) 田中一郎(以下「一郎」という。)と被上告人とは、昭和17年7月に婚姻の届出をした夫婦である、
(2) 上告人は、一郎に妻(被上告人)がいることを知りながら、昭和41年ころから一郎と同せいを開始し、昭和62年12月まで関係を継続した、
(3)一郎と被上告人との婚姻関係は、上告人が一郎と知り合った当時、破綻状態にはなかった、
というのである。

二 原審は、右事実関係の下において、一郎と同せい関係を継続した上告人の行為の違法性及び上告人の被上告人に対する損害賠償義務を認め、かつ、右のような場合には、継続した同せい関係が全体として被上告人に対する違法な行為として評価されるべきで、日々の同せいを逐一個別の違法な行為として把握し、これに応じて損害賠償義務の発生及び消滅を日毎に定めるものとするのは、行為の実質にそぐわないものであって、相当ではないから、本件損害賠償義務は、全体として、上告人と一郎との同せい関係が終了した昭和62年12月から消滅時効が進行するものというべきであると判断して、被上告人が本訴を提起した日から3年前の日より前に生じた慰謝料請求権は時効により消滅した旨の上告人の抗弁を排斥した上、昭和41年から昭和62年までの間に被上告人が被った精神的苦痛は多大なものであったと推認されるとし、第一審が右の間の慰謝料として算定した500万円は相当であるとして、右の限度で被上告人の上告人に対する慰謝料請求を認容した第一審判決に対する被上告人の控訴及び上告人の附帯控訴をいずれも棄却した。

三 しかしながら、上告人の主張する消滅時効の抗弁を右の理由で排斥した原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の同せい関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。けだし、右の場合に一方の配偶者が被る精神的苦痛は、同せい関係が解消されるまでの間、これを不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、一方の配偶者は、同せい関係を知った時点で、第三者に慰謝料の支払を求めることを妨げられるものではないからである。

2 これを本件についてみるのに、被上告人の請求は、上告人が一郎と同せい関係を継続した間、被上告人の妻としての権利が侵害されたことを理由に、その間の慰謝料の支払を求めるものであるが、被上告人が上告人に対して本訴を提起したのは、記録上、昭和62年8月31日であることが明らかであるから、同日から3年前の昭和59年8月31日より前に被上告人が上告人と一郎との同せい関係を知っていたのであれば、本訴請求に係る慰謝料請求権は、その一部が既に時効により消滅していたものといわなければならない。

3 そうすると、上告人の主張する消滅時効の抗弁につき、右の事実を確定することなく、これを排斥した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるというほかなく、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、この点において理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、民訴法407条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官大白勝 裁判官大堀誠一 裁判官味村治 裁判官小野幹雄 裁判官三好達) 

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 上告代理人○○○○の上告理由
一 「被控訴人の行為には違法性がない」という上告人の主張を排斥した原判決には、法令違背の違法がある。
 上告人が現れた時点において、被上告人と田中一郎の婚姻関係は、すでに破綻し、少なくとも破綻に瀕していた。
 このような場合に上告人の行為に違法性がないことは、次の判例によって確立されている。
 東京高裁昭和60年10月17日判決・判例時報1172号61頁
 東京高裁昭和52年8月25日判決・判例時報872号88頁
 横浜地裁平成元年8月30日判決・判例時報1347号78頁
 名古屋地裁昭和54年3月20日判決・判例タイムズ392号160頁
 横浜地裁昭和48年6月29日判決・判例タイムズ299号336頁
 鳥取地裁昭和44年3月31日判決・判例タイムズ235号240頁

 原判決は、右婚姻関係が破綻状態にあった事実は認められないと判断しているが、右判断は、経験則に違背する違法な判断である。
 被上告人は、本件訴訟提起前に自ら作成した「陳述書」(乙第57号証)において上告人が現れる以前の事実として、次のように述べており、このことと乙第48号証10?17頁及び乙第75号証二?六頁を合わせれば、右婚姻関係が破綻状態にあったことは明らかであり、これらの重要な証拠を無視した判断は経験則に違背するものである。

 「昭和26年頃からは、主人は酒と女の毎日で、店にも女を引き入れ、少しでも逆らえば手拳でなぐったり蹴ったりする等の暴力を私にふるい」
 「太平洋戦争中には……出征するときもAというお妾さんを同伴で出征し、そこで一緒に暮らした位ですから、その最初のお妾さんから始まって結局、私の覚えているお妾さんだけでも20人以上になる」
 「昭和30年以降主人は…Nを……店に入れたいといいだし、私と子供達は私達の住居も兼ねていた池袋の店を出されて、当時主人がNの為に新築してやった中野区上鷺宮の妾宅へ移ることになり、主人はNと一緒に池袋の店で暮らすようになりました。主人は私の結婚前から関係が続いていたAという女性や姉妹の女中や、Kなどに手をつけ、その間に子供も出来たりしたようです。」
 「私達三人とは別に暮らして」
 したがって、原判決は、経験則違背及び判例違背の誤りを犯し、民法709条の解釈・適用を誤り、法令に違背するものである。

二 上告人の消滅時効の仮定抗弁を排斥した原判決には、法令違背及び理由齟齬の違法がある。
 一般に、「被害者が不法行為に基づく損害の発生を知った以上、その損害と牽連一体をなす損害であって当時においてその発生を予見することが可能であったものについては、すべて被害者においてその認識があったものとして、民法724条所定の時効は前記損害の発生を知った時から進行を始める」(最高裁昭和42年7月18日判決・民集21巻六号1559頁)と解されている。

 被上告人は、昭和44年6月頃、田中一郎と上告人が同棲していること、及びその間に昭和44年1月田中(当時は鈴木)二郎が出生したことを知ったというのであるから(第一審第11回口頭弁論の被上告人本人調書20?21頁)、仮に、被上告人が不法行為に基づく損害賠償請求権を有していたと仮定しても、右請求権は、民法724条により、昭和44年6月頃から3年の経過をもって時効消滅したものである(東京地裁昭和56年1月28日判決・判例タイムズ452号131頁)。

 仮にそうでないとしても、不法行為に基づき発生した損害賠償請求権は、日々その都度消滅時効が進行するのであるから(東京高裁昭和62年7月15日判決・判例特報1245号52頁等)、本件訴訟提起の日である昭和62年8月31日の3年前の日である昭和59年8月31日より前に発生した損害についての損害賠償請求権は、民法724条により、3年の経過をもって時効消滅したものである。

 本件においては、昭和44年6月頃、同棲と子供の出生という重要な事実を知ったというのであるから、その後の状況も十分予測しえたことは経験則上明らかであり、さらに被上告人が上告人に対面した昭和51年11月(第一審第12回口頭弁論の被上告人本人調書10丁、乙第48号証35頁)には、右二郎がすでに七才に達しており、遅くともその時点で全貌を予測しえたことは経験則上明らかである。

 また、原判決も、「被告と一郎は、昭和56年頃から次第に冷却化し、昭和58年末頃からは寝室を別にするようになり」として、いわゆる家庭内別居の状態になったことを認定しており、これに齟齬する「昭和62年12月に解消するまで同棲関係は継続していた」との原判決の判断は誤りであり、「このような場合には、継続した同棲関係が全体として控訴人に対する違法な行為として評価されるべきであって」との判断も誤りである。内縁関係は、法律上の婚姻関係と異なり、事実の継続のみによるものであるから、いわゆる家庭内別居の状態になった場合には、すでに解消されたものと評価されなければならない。

 したがって、原判決は、経験則違背及び判例違背の誤りを犯し、民法724条の解釈・適用を誤り、法令に違背するものである。
 併せて、右のとおり、原判決には、民事訴訟法395条一項六号に定める理由齟齬の違法がある。

三 原判決には、次のとおり、法令違背、理由不備及び理由齟齬の違法がある。
1 原判決は、「被控訴人が一郎から多額の財産の譲渡を受けた」と判断して慰謝料額算定上斟酌しているが(10丁)、いかなる金額のいかなる財産の譲渡を受けたというのかを示しておらず、理由不備の違法がある。
 原判決は、わずかに「遺言」と「被控訴人が共優株式会社の株式の大半を有していること」を挙げて、「このような財産の譲渡」と述べているだけである(九丁)。

 遺言は、そもそも「財産の譲渡」ではなく、取消しや変更が随時可能であり、死亡時までに対象財産を処分すれば全く無意味になるものである。本件においては、遺言上、上告人に遺贈するとされたものは、田中不動産株式会社の株式200株、当時の居住室内の動産、太陽神戸銀行池袋支店の預金から葬式費用等を差し引いた残高の二分の一のみであるが、田中不動産株式会社は、すでに田中太郎らが支配しており、株券も上告人の手元には一切無く、一郎は自己の動産をすべてどこかへ運び出してしまっており、右預金を残存させて別れた上告人に渡すことなどは考えられないものであって(すでにゼロになっているものと思われる)、右遺言はすでに無価値である。

 共優株式会社の資本金800万円のうち、一郎の実質的出資金は250万であったが、一郎は家庭内別居になった後の昭和61年1月、これを上告人に450万円で買い取らせたものである(乙第78号証12?14頁)。上告人は「共優株式会社の株式の大半を有している」わけではなく、また、一郎から取得した株式は税理士の評価額で買い取ったものであり、これらすべてが無償譲渡であるかのように言う原判決の判断は、全く根拠がない。

 したがって、原判決には、民事訴訟法395条一項六号に定める理由不備の違法があり、かつ、原判決は、経験則違背の誤りを犯し、法令に違背するものである。

2 原判決は、「被控訴人は……控訴人を斥けて一郎の妻たる地位を実質的に享受してきた」と認定・判断しているが(九?10丁)、右認定をなしうるに足る証拠はなく、右認定は経験則に違背するのみならず、一郎と上告人とのかかわりが主として一郎の意思に基づくとの原判決の判断(第一審判決九丁)とも齟齬する違法がある。

3 原判決は、「控訴人は、一郎や被控訴人に対し幾度かその関係を断つよう申し入れた」と認定しているが(六丁)、このような事実は全くなく、この点に関する被上告人の主張や証拠は、具体性がなく、しかも変遷しており、経験則に違背する違法な認定である。

四 以上のとおりであるから、上告人の趣旨記載のとおりの判決を求める。