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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

財産分与・慰謝料

財産分与共同財産範囲を離婚時・別居時に限定すべきでないとした判例紹介

○財産分与の対象となる夫婦共同財産の範囲を定める基準時は、一般に別居時とされ、家裁実務の運用もそのようになされていると解説されます。現在、別居時に限定されないとする裁判例を探していますが、離婚後に財産分与請求がなされた場合に分与の対象となる共同財産の範囲は、別居ないし離婚時ではなくその後の変動も考慮に入れるべきであり、また、右変動を来した理由も斟酌して分与額を定めるべきものと解するのが相当であるとされた昭和51年11月1日福岡高裁決定(家月29巻3号82頁)が見つかりましたので、全文紹介します。

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主  文
 原審判をつぎのとおり変更する。
 抗告人は相手方に対し、財産分与として、原審判別紙目録29記載の土地を分与せよ。

理  由
一 抗告人は、原審判の取消しおよび相当の裁判を求めたが、抗告理由は別紙のとおりである。

二 抗告理由一について
 抗告人が昭和26年ごろ実父死亡による相続によつて得た現金が、抗告人と相手方夫婦が最初に入手した大分市○○×××番地の畑40歩および同地上の建物の購入資金の一部になつたこと、右建物での△△△小売業が、その後の財産形成の要因になつたことは原審判も認定するところであり、原審判が右事実を本件財産分与額判定の一資料としてこれをしんしやくしていることも、判文上明らかである。したがつて、そのしんしやくがなされていないとする抗告人の主張は理由がない。

三 抗告理由二について
 原審判が相手方の財産形成への寄与の割合を不当に高く評価しているということはできず、右の点について原審判の判断にも抗告人主張のような違法のかどはない。

四 抗告理由3、4について
 本件のように離婚後に財産分与請求のなされた場合には、分与の対象となる共同財産の範囲は別居ないし離婚時ではなく、その後の変動も考慮に入れ、右変動を来した理由もしんしやくして分与額を定めるべきものと解するのが相当であることは抗告人主張のとおりである。然るに、原審判は別居時の財産を基準とし、その後抗告人が処分した財産については、処分するに至つた事情を一切考慮に入れず、抗告人が右処分によつて得た対価をそのまま保有するものとみなして、その一定の割合の金員を相手方に対して支払うことを命じており、右の点に関する原審判の判断は違法といわざるを得ない。

五 抗告理由五について
 原審判が、不当に重く、本件離婚に件う慰謝および離婚後の相手方の扶養的配慮をしているとの抗告人の主張も理由がない。

六 そこで、右四の点も考慮に入れて、分与額につき検討する。
(一) 抗告人と相手方との婚姻生活の実情、財産蓄積の経過およびこれに対する双方の寄与の程度、協議離婚をするに至つたいきさつおよび別居時の共同財産の種類、範囲、離婚後の異動状況ならびに現在の相手方の生活状態についての当裁判所の認定はつぎの点を付加する外は原審判のそれと同一であるから右部分(原審判二丁表八段目から五丁裏一段目まで、および同11、12段目まで、七丁裏二段目から六段目の「考えられる。」までならびに別紙目録)を引用する。

(二) 原審判挙示の証拠に、大分地方裁判所の抗告人宛の通知書、抗告人の○○○○宛の借用証書、抗告人および相手方の審尋の結果を総合すれば、つぎの事実を認めることができる。
イ 原審判別紙目録記載の3、4の畑については昭和47年5月12日大分市農業協同組合を抵当権者とする債権額130万円の抵当権が設定されている外、同目録1、5の土地、建物については、すでに抵当権者大分県信用保証協会および安田洋次郎が抵当権の実行に着手しており、遠からず競落により抗告人はその所有権を喪失することになるものと思われる。

ロ 抗告人は相手方と離婚後約2年間は従前どおり大分市大字○○○の××場に残り××業に従事していたが、一人では思うに任せないことと、右営業の将来も必ずしも明るくないところから、主として奄美地方から「○○○」を仕入れて販売する△△業に転業したが、努力の甲斐なく、著しく営業不振であり、多額の資金を投下したものの右営業関係の資産は300万円弱の△△だけになつている上、近い将来営業状態好転の見込みはない。
 一方××場には、抗告人留守の間に、長男○○が入り込んで××業を営んでいるが、同人との折合いが極端に悪いため、抗告人としては同人に退去を要求したり、共に右営業を続けることはできない状況にあり、同人を避けて旅館等を転々として希望のない生活を送つている。

ハ 抗告人は離婚後さきに認定したように不動産を売却したり、これを担保に借り入れたりして約7200万円を得た外、預金等80万円を払い戻したが、一方離婚前からのものも含む債務を約2200万円返済し、不動産の譲渡所得税等約1410万円を賦課され、その差額はほとんど前記△△業の資金として投下してしまい、手持ちの現金はほとんどない状態である。

ニ なお、原審判別紙目録8ないし28の土地は一画の土地で時価300万円位のものであり、同30記の建物は事実上5の建物の一部になつている。

(三) 叙上認定の共同財産の現況、当事者双方の右財産蓄積に対する寄与の程度、現在の生活状態、分与に関する双方の希望その他一切の事情を勘案すると、相手方には財産分与として原審別紙目録29の土地を与えるのを相当と認める。
 右土地は現在残つている不動産の中で最も価値の高いものであり、(時価1800万円を下らず、前に認定したとおり右土地についての抵当権設定登記は何時でも抹消できる状態になつている。)他に残つているめぼしい不動産は同目録記載の3、4ならびに8ないし28の土地にすぎないところからすれば、右以上の分与を認めるのは相当でない。

六 よつて、これと一部結論を異にする原審判は変更すべく主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 松村利智 裁判官 諸江田鶴雄 森林稔)