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不倫問題

不貞行為相手慰謝料500万円支払認容平成21年3月27日大阪家裁判決理由紹介

○「いわゆる”枕営業”は不法行為を構成しないとした東京地裁判決全文紹介」の続きで、同判決で原告が援用した平成21年3月27日大阪家裁判決(家月62巻10号83頁)理由全文を紹介します。

○事案概要は以下の通りです。
・夫原告Aが妻被告Bに対して民法770条1項1号及び5号を理由として離婚及び慰謝料の支払を求め(第1事件),併せて長男である被告Cに対する認知が無効であることの確認を求めた(第2事件)
・妻被告Bから原告A及びその不貞相手である被告Dに対する損害賠償(慰謝料)請求事件(第3事件)が第1事件に対する反訴として,被告Cから原告Aに対する損害賠償(逸失養育費相当額)請求事件(第4事件)が第2事件に対する反訴としてそれぞれ提起された
・原告A(昭和17年×月×日生)と被告B(昭和46年×月×日生)は,平成14年×月×日婚姻
・被告C(平成7年×月×日生)は,被告Bと訴外男性との間に出生した子だが、原告Aは,平成14年×月×日大阪府a市長に対して被告Cの認知届出
・原告Aと被告Bとの間に二男E(平成14年×月×日生)が出生



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主  文
1 第1第2事件原告(A)・第3第4事件被告(C)の請求をいずれも棄却する。
2 第1第2事件原告・第3第4事件被告(A)及び第3事件被告(D)は,第1事件被告・第3事件原告Bに対し,連帯して金500万円及びこれに対する平成19年×月×日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第1事件被告・第3事件原告(B)のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は全事件を通じてこれを10分し,その6を第1第2事件原告・第3第4事件被告の負担とし,その1を第3事件被告の負担とし,その余を第1事件被告・第3事件原告の負担とする。


(中略)

第3 当裁判所の判断
1 原告Aの離婚等請求の当否について(第1事件)

(1) 証拠(甲1,甲5,甲7の1及び2,甲17の1ないし3,乙A2,乙A8ないし10,乙A11の1ないし7,乙A15ないし18,丙1,丙3,丙4,証人F,原告A本人,被告B本人,被告D本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告Aと被告Bは,平成10年春ころ被告Bがホステスをしていた○○のクラブに原告Aが客として訪れたことから出会い,それから半年程したころ原告Aの自宅マンション(以下「原告宅」という。)で初めて性交渉を持ち,その後,被告Bが原告宅をしばしば訪れるようになって交際を深めていった。
 原告Aは,平成12年×月には被告Bと被告Cを連れて遊園地に出かけたり,原告宅で被告Cの誕生祝いをしており,また,平成13年×月には原告宅で被告Cを交えて被告Bの誕生祝いをしている。
 被告Bは,平成14年×月×日ころ,原告Aの子(二男E)を懐妊したことに気付いた。同月×日ころから同年×月×日ころまで,原告A,被告B及び被告Cは○○○に旅行している。
 原告Aは,平成14年×月×日a市役所において,被告Bとの婚姻と被告Cを認知する旨の届出をした。
 原告Aは婚姻後も原告宅で一人暮らしを続け,被告B及び被告Cは□□のマンション(以下「被告宅」という。)で暮らしながら,原告宅に通うという生活となった。
 被告Bは,平成14年×月×日二男Eを出産したが,その数日前には原告宅で被告Cの誕生祝いをしている。

イ 被告Dは,平成12年ころ被告Bが勤めていた○○のクラブに入店し,原告A及び被告Bと面識を持つようになった。
 原告Aと被告Dは,平成14年×月×日から同月×日ころまで○○○に旅行し,その際に性交渉を持った。その後,両名は,平成15年×月,平成16年×月,同年×月,同年×月,平成17年×月及び同年×月にも一緒に海外旅行をしている。
 この間,原告Aは,平成14年×月に原告宅において原告A,被告B,被告C及び二男Eの家族4人でクリスマスパーティーをし,平成15年×月×日には被告Bと二人で大阪のbホテルに宿泊し,同年×月×日から同月×日ころまで家族4人で○○○に旅行し,同年×月×日には原告宅において家族で二男Eの誕生祝いをし,同年×月には家族でクリスマスパーティーをし,平成16年×月には被告Cの誕生祝いをし,同年×月には被告Bの誕生祝いやクリスマスパーティーをし,平成17年×月には家族で△□に泊まりがけで遊びに行くなどしている。

ウ 被告Bは,平成17年×月ころ,原告Aが当時被告Dの住んでいたマンションに出入りしていることを知り,両名が不貞関係にあるのではないかと疑うようになったが,両名が関係を否定したことから確証を得られなかった。
 一方,原告Aは,調査会社を使って被告Bの身辺を調査していたところ,平成18年×月×日から×日にかけて証人Fが被告宅に宿泊した事実を知った。
 原告Aは,大阪家庭裁判所に夫婦関係調整調停事件(平成18年(家イ)第××号)を申し立てたが,平成19年×月×日同調停は不成立となった。
 被告Dは同年×月中旬ころ現住所地のマンションに転居したが,被告Bは,同月×日ころの深夜,原告Aが上記マンションから出てきた現場を押さえ,原告Aと諍いになった。被告Bは,原告Aから暴行を受けたとしてc警察署に被害届を提出した。
 原告Aは,同年×月×日,大阪地方裁判所に面談強要禁止仮処分の申立て(平成19年(ヨ)第××号)をしたが,同月×日申立てを取り下げた。

(2) 以上のとおり認定した事実によれば,原告Aと被告Bの婚姻生活は,婚姻当初から別居(通い婚)の形態をとりながらも,被告Bが原告Aと被告Dの不貞行為について疑念を抱き始めた平成17年×月以前まではごく円満な関係を維持していたが,そのころを境に互いに相手の不貞を疑うようになり,平成19年×月に被告Bが原告Aと被告Dの密会の現場を押さえ,その後,前記のとおり両名が何度も海外旅行に出かけていたことが判明し不貞関係が明らかになるに及んで夫婦の信頼関係が決定的に毀損されるに至ったものと認めることができる。

 原告Aは,婚姻前から被告Bの浪費癖や嫉妬心,暴力,暴言等に辟易しており,婚姻当初から夫婦関係は脆弱で,被告Bが婚姻後も同様の態度を改めないばかりか,同居すら拒否したことなどから,平成14年夏前ころには既に関係が破綻していたと主張しかつ供述する。婚姻以来別居状態が続いた事情に関する原告Aと被告Bの言い分は真っ向から対立しており,その真偽は必ずしも明らかであるとはいえないが,前記認定のとおり,少なくとも平成17年夏ころまでは,節目節目に家族揃って原告宅で祝い事をしたり家族旅行をしたりと,円満な夫婦関係が継続していたことが写真(乙10)から明らかに見て取れることからすれば,原告Aの前記供述は到底信用することができず,前記主張は採用することができない。

 また,原告Aは,被告Bと証人Fが不貞関係にあると主張するが,証拠(甲7の1及び2,乙A26ないし28)によれば,両名は被告Bの兄を介しての顔馴染みであり,平成18年×月×日は被告Bが証人Fの経営する××に悩み事の相談にいき,10名近くの××の関係者らと一緒に深夜まで飲食し,その後,証人Fが被告宅まで送っていったところ,留守番をしていた被告Bの実母から飲酒運転になるので泊まっていくよう勧められ宿泊したとの被告Bの説明が,明らかに不自然であるとか虚偽であるとまでは認めることができない。さらに,原告Aは,被告Bの自家用車に取り付けたGPSの検索結果であるという証拠(甲12の1ないし3の4)を提出するが,これが確かに被告Bの自家用車のものであるかどうかは確認のしようもなく,被告Bが証人Fと密会を重ねていたことの裏付けとしては不十分であり,ほかに被告Bと証人Fとが不貞行為に及んだと認めるに足りる証拠は存しない。

(3) 以上によれば,原告Aの主張する離婚原因についてはいずれも採用することができないが,原告Aと被告Bの婚姻関係は,原告Aと被告Dの長期間に及ぶ不貞行為とそれが発覚した後の原告Aと被告B間の確執によって,夫婦としての信頼関係が修復困難なほど大きく損なわれており,既に破綻しているものと認めるのが相当である。

 ただし,前記のとおり,婚姻関係破綻の原因を作ったのは原告Aであるというべきであるから,有責配偶者である原告Aからの離婚請求は原則として認められない。
 もっとも,有責配偶者からの離婚請求であっても,夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の期間別居し,その間に未成熟の子が存在しない場合には,相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り,認容しうる余地がないわけではない(最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁参照)。

 しかしながら,本件では,夫婦間に未成熟子である二男Eがいることから,有責配偶者からの離婚請求が許容されるための上記要件を満たさないことは明らかである。

(4) 以上の次第で,原告Aの離婚請求,二男Eについての親権者指定の申立て及び被告Bに離婚原因があることを前提とする損害賠償請求は,いずれも理由がないから請求棄却を免れない。

2 原告Aの認知無効確認請求の当否について(第2事件)
 原告Aは,被告Bに執拗に迫られて被告Cを認知したとか,認知と養子縁組の違いもよく分からないで認知したなどと供述するが,俄に措信し難く,一方では被告Cを自分の家族として育てていく意識があったと供述していることからしても,認知の意思表示自体に瑕疵があったとは認められない。
 すなわち,原告Aの被告Cに対する認知は,自己が真実の父ではないことを認識しながらその自由な意思に基づいてなされたものであると認められる。

 かかる場合,認知した本人である父が自ら認知の無効確認請求をすることは許されないものと解するのが相当である。なぜなら,民法は,認知した父又は母は認知を取り消すことができないとし(民法785条),認知に対して反対の事実を主張することができるものを子その他の利害関係人と規定しており(同法786条),これはまさに真実(自然的血縁関係)に反する認知がなされた場合にも,それが認知者の意思に基づいてなされたものである以上,認知者自身がこれを撤回することを法が禁じたものと解するのが自然であるし,そのように解することは,無責任な認知を防止することになるとともに,一旦なされた認知により形成された法律関係の安定を図ることにも資するからである。

 なお,原告Aは,被告Cを認知したのは被告Bとの円満な婚姻関係を前提としていたのであるから,これが破綻するに至った以上,認知者である原告Aが真実に反する認知の無効を主張することは信義に反しないと主張するが,前記のとおり,有責配偶者である原告Aから被告Bに対する離婚請求が許されない結果,婚姻関係が継続することになる以上,現時点において認知者自身による認知無効確認請求を許容することは,著しく子の法的地位の安定性を損なうことになるから認めることができないというべきである。
 よって,原告Aの本件認知無効確認請求は棄却するのが相当である。

3 被告Bの損害賠償請求について(第3事件)
 前記のとおり,原告Aと被告Bの婚姻関係が破綻した原因は,原告Aと被告Dの不貞行為にあることが認められる。
 原告A及び被告Dは,最初に不貞関係を持ったのは平成14年×月のことであり,当時はホステスと客の遊びの関係であったにすぎないと主張するが,そうであっても不貞関係であることには何ら変わりがない。

 また,被告Dは,当時,原告Aが被告Bと婚姻していることを知らず,婚姻の事実を知った後も夫婦関係が破綻しているとの原告Aの説明を信じたため関係を継続したと主張する。被告Bと同じ職場でホステスとして勤務していた被告Dが,原告Aと被告Bの婚姻の事実を当時知らなかったとは俄に信用し難いところであるが,仮にそれが事実であったとしても,平成15年秋ころには婚姻の事実を知るに至ったというのであるから,その後も夫婦関係が破綻しているとの原告Aの説明を鵜呑みにして漫然と不貞関係を継続したことは,被告Bに対し不法行為となるというべきである。

 本件における一切の事情を斟酌すれば,被告Bが原告Aと被告Dの不貞行為によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は金500万円が相当である。
 したがって,原告A及び被告Dは,被告Bに対し,連帯して金500万円及びこれに対する平成19年×月×日(原告A及び被告Dの双方に第3事件反訴状の送達が完了した日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

4 被告Cの損害賠償請求について(第4事件)
 被告Cの損害賠償請求は,原告Aの認知無効確認請求が認容された場合に,成人するまでに得られるはずであった養育費相当額の支払を求めるというものであり,その請求内容自体から,認知無効確認請求が棄却されることを解除条件とする予備的な反訴請求であると認めることができる。
 したがって,前記のとおり,原告Aの認知無効確認請求を棄却する以上,被告Cの上記損害賠償請求については判断を要しないことになる。
 よって,主文のとおり判決する。