妻の異常な嫉妬深さを原因での別居で婚姻費用が減額された審判例全文紹介1
○先日、腕にひっかき傷がある方が訪れ、訳を聞いたら、結婚して30年近く、孫も出来たのに、妻がありもしない夫の女性関係を疑ってヒステリーを起こして、引っかかれたのことで、思わず笑ったしまったことがあります。結婚して30年も経つのに夫の女性関係がそれほど気になるは、それだけ夫への思いが強いとも評価できますが、プライドが高くて自己愛が強すぎるとも評価できます。夫にしてみれば、たまったものではなく、それが原因で不和が進み別居に至る例もあります。
○昭和51年3月31日大阪家裁審判(家月28巻11号66頁)がその例で、別居に至つた原因につき夫婦のいずれもがその責任を有するときは、一方は他方に対して婚姻費用分担義務を免れないが、義務者の負う別居に至つた責任に対して、請求者の夫婦としての協力義務違反がより大きく別居の原因を作出しているものであるときは、義務者の負担する婚姻費用分担義務はそれに相応して相当程度減縮されると解するのが相当とされました。
○具体的には、夫が別居し、妻が夫に対し月額金15万円の婚姻費用分担を求めたところ、別居の原因が、妻の夫の女性関係についての異常な嫉妬深さによるものとして、4万5000円だけ認定されました。
異常な嫉妬深い行動は、
@髭を剃つたり頭髪に油をつけたりしていると女と会いにゆくのだろうと喧しく怒鳴り
A深夜業を終えて帰つて来るのを、女性と一緒に帰つて来るのでないかと自動車置場でじつと待ち
B飼つていた鳥を帰郷不在中近所の知人宅に預つて貰つていたところ、その知人の妻に「鳥を預かる位なら主人と一緒に寝たろう」と怒鳴り込む
Cマッチの電話番号を調べてそれが○○町のクラブのものであると判ると、夜間同クラブの辺りに閉店時間まで張り込みをした
D勤務先の車に乗つているのを、女のところへ行くものと考え、勤務先へ電話で、従業員の女のところへ行くのに会社の車を貸すのか、と談じ込んだ
E所要で職業安定所へ赴いたところ、女と逢引するのでないかと疑つて職業安定所付近に身をひそめて見張つていた
等が挙げられています。
○これらの嫉妬深さの具体例は、第三者には、特にBなどは笑い話のレベルですが、夫本人にしてみれば、たまったものではないでしょう。裁判所は、「今回の夫婦不和別居の原因は、主として申立人の異常なまでの嫉妬、猜疑心、想像力、被害意識に相手方が対応できず、これを忌避し、辟易し、申立人との婚姻生活を維持してゆく気持を失つて了つたところにあると思われる。」と評価し、その責任の度合いに応じて婚姻費用を減額しています。
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主 文
相手方は申立人に対し婚姻費用の分担として、昭和51年4月以降、当事者の別居解消または婚姻解消に至るまで、毎月4万5000円づつを毎月末日限り、申立人方に持参または送金して支払え。
理 由
1 本件申立の要旨は、申立人と相手方は夫婦であるところ、相手方に女性関係が生じ、その女性の隠し場所を見つけようと相手方の後をつけたことから家庭不和となり、昭和49年1月から別居するに至つたが、相手方は生活費を渡してくれないので、相手方に対し婚姻費用分担金として毎月金15万円宛の支払いを求める、と云うにある。
2 本件調査、審問その他相当の証拠調の結果認定される当事者双方の婚姻生活及び紛争の実情は以下のとおりである。
(1) 申立人と相手方は、昭和24年ころ、○○県××郡○○町の申立人方実家で同棲生活に入り、同25年7月23日長男Aをもうけ、同年同月31日婚姻届出をした夫婦で、同29年1月25日には二男Bも出生し、数年前からは申立人肩書住所地の借家で夫婦2人家族の婚姻生活を送つていたが、家庭不和のため、昭和49年2月相手方が家を出て夫婦は別居した。
(2) 上記家庭不和の原因は申立人が相手方の女性関係を疑つた点にある。結婚当初のころから、申立人らの夫婦仲は必しもしつくりしたものでなく、今日に至るまでには幾度かにわたる別居状態があり、又その間に申立人が他の男性と同棲していた期間もあつたが、申立人によれば、相手方は生来的な漁色家で若いころから女関係が絶えず、本件別居当時は、相手方の弟の妻の妹C子と関係していたと云う。
これに対し相手方は、以前には自分にも確かに何回もの女関係があつた、しかしここ数年間は不貞の事実は全くない、もう年齢でもあり、この先そう永く働けそうにない将来を考えて只管働らいて来たのみであると事実を否定し、申立人は以前からそうであつたが甚だしい嫉妬盲想であり、夫とのみでなく他の誰人とも協調できない性格である、例えば自分が髭を剃つたり頭髪に油をつけたりしていると女と会いにゆくのだろうと喧しく怒鳴り、自分が深夜業を終えて帰つて来るのを、女性と一緒に帰つて来るのでないかと自動車置場でじつと待ち、飼つていた鳥を帰郷不在中近所の知人宅に預つて貰つていたところ、その知人の妻に「鳥を預かる位なら主人と一緒に寝たろう」と怒鳴り込む、と非難している。
ところで申立人は、相手方に現に女性関係があり、不貞行為があると確信しており、その根拠として、同居中、相手方が家のものをしきりに持出したこと、給料をよく使つたこと、相手方の持つていた紙片に記された電話番号が前記C子のアパートのものであるらしいこと、相手方が急に足繁くC子の義兄になる相手方弟宅を訪ねるようになつたこと、相手方と一緒に買物に出た折相手方がしきりに女物の時計や指輪を物色していたこと、夜勤に出てゆくとき穿いて出たしわのない下着が帰宅したときしわくちやになつていたこと、などなどを挙げ、相手方の所持していたマッチの電話番号を調べてそれが○○町のクラブのものであると判ると、夜間同クラブの辺りに閉店時間まで張り込みをしたり、同じく相手方所持紙片に記された電話番号を調べて、その電話の架設されているビルまで探索に赴いたり、相手方が勤務先の車に乗つているのを見かけ、女のところへ行くものと考え、勤務先へ電話で、従業員の女のところへ行くのに会社の車を貸すのか、と談じ込んだりしている。しかし結局相手方にC子もしくはその他の女性との不貞行為があると認めるに足る確証は得られていない。
(3) 昭和49年1月末ころ、相手方は所要で職業安定所へ赴いたが、同日朝は体調不変を訴えて臥つていた申立人が、相手方が女と逢引するのでないかと疑つて職業安定所付近に身をひそめて見張つていたのに相手方が気付いたことから、帰宅後激しい夫婦喧嘩となり、これが直接のきつかけとなつて申立人の兄D方で同人を交えて談合した結果、相手方が家を出て夫婦は本件別居に至つた。