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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

不倫問題

不貞行為第三者に対する請求を権利濫用とした最高裁判決全文紹介1

○夫の不貞行為の相手方女性への慰謝料請求が、一審奈良地裁で棄却されたものを、二審の大阪高裁で110万円認め、これに対し権利濫用として上告し、この女性の慰謝料請求が権利濫用として棄却を認めた平成8年6月18日最高裁判決(家月48巻12号39頁)全文を2回に分けて紹介します。別コンテンツで私なりの説明をします。


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主  文
 原判決中、上告人の敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理  由
 上告代理人○○の上告理由第二について
一 本件訴訟は、被上告人がその夫Aと肉体関係を持った上告人に対し損害賠償を求め、上告人がこれを権利の濫用に当たるなどと主張して争うものである。原審の確定した事実関係の大要は、次のとおりである。

1 被上告人とAとは昭和59年1月16日に婚姻の届出をした夫婦であり、同年5月20日に長女が、同61年6月7日に長男が出生した。

2 上告人は、昭和45年11月21日にBと婚姻の届出をし、同46年8月27日に長女をもうけたが、同61年4月25日に離婚の届出をした。上告人は、離婚の届出に先立つ同60年10月ころから居酒屋「C」の営業をして生計をたて、同62年5月ころには自宅の土地建物を取得し、Bから長女を引き取って養育を始めた。

3 Aは、昭和63年10月ころ初めて客として「C」に来、やがて毎週1度は来店するようになったが、平成元年10月ころから同2年3月ころまでは来店しなくなった。この間、Aは、月に1週間程度しか自宅には戻らず、「C」の2階にあるスナックのホステスと半同棲の生活をしていた。

4 被上告人は、Aが「C」に来店しなくなったころから毎晩のように来店するようになり、上告人に対し、Aが他の女性と同棲していることなど夫婦関係についての愚痴をこぼし、平成2年9月初めころには、「Aとの夫婦仲は冷めており、平成3年1月に被上告人の兄の結婚式が終わったら離婚する。」と話した。

5 Aは、平成2年9月6日に上告人をモーテルに誘ったが、翌7日以降毎日のように「C」に来店し、「本気に考えているのはお前だけだ。付き合ってほしい。真剣に考えている。妻も別れることを望んでいる。」などと言って、上告人を口説くようになった。

6 上告人は、当初Aを単なる常連客としてしかみていなかったが、毎日のように口説かれた上、膵臓の病気になって精神的に落ち込んでいたこともあって、Aに心が傾いていたところ、平成2年9月20日、病院で待ち伏せていたAから、「妻とは別れる。それはお前の責任ではない。俺たち夫婦の問題だから心配することはない。俺と一緒になってほしい。」と言われ、また、病気のことにつき「一緒に治して行こう。お前は一生懸命に病気を治せばよい。」などと言われたため、その言葉を信じ、同日、Aと肉体関係を持った。

7 上告人は、その後もAと肉体関係を持ったが、平成2年10月初めころ、Aから、「妻が別れることを承知した。妻は○○に家を捜して住むので、自分たちは○△のアパートに住もう。」などと結婚の申込みをされたため、Aと結婚する決心をし、長女の賛成を得てAの申込みを承諾した。Aは、上告人に対し、被上告人が○○に引っ越す同年12月ころには入籍すると約束した。

8 Aは、平成2年10月10日から11月24日までの間に、上告人の結婚相手としてその母、長女及び姉妹らと会ったりしたのに、被上告人との間で離婚に向けての話し合いなどは全くしなかった。一方、上告人は、Aの希望を受けて、自宅の土地建物を売却することとし、長女のためのアパートを捜すなどAとの結婚生活の準備をしていた。

9 平成2年12月1日、被上告人にAと上告人との関係が発覚し、上告人と被上告人は、同日午前7時半ころから翌2日午後2時ころまで被上告人宅で話し合った。その際、上告人においてAが被上告人と離婚して上告人と婚姻すると約束したためAと肉体関係を持つようになった経緯を説明したところ、被上告人が「慰謝料として500万円もらう。500万円さえもらったら、うちのAくんあげるわ。うちのAくんはママ引っ掛けるのなんかわけはないわ。」などと言ったため、上告人は、Aに騙されていたと感じた。

10 上告人、被上告人及びAの3人は、平成2年12月2日午後8時半ころから翌3日午前零時ころまで話し合った。被上告人は、Aに対して子の養育料や慰謝料を要求し、上告人に対して慰謝料500万円を要求したが、Aは、被上告人の好きなようにせよとの態度であり、上告人は、終始沈黙していた。

11 Aは、平成2年12月3日午後10時ころ「C」に来店し、他の客が帰って2人きりになると、上告人に対し、被上告人に500万円を支払うよう要求し、上告人がこれを拒否すると、胸ぐらをつかみ、両手で首を絞めつけ、腹を拳で殴ったりなどの暴行を加えたが、翌4日午前3時ころ上告人の体が冷たくなり、顔も真っ青になると、驚いて逃走した。

12 被上告人は、平成2年12月6日午後10時ころ「C」に来店し、上告人に対し、他の客の面前で「お前、男欲しかったんか。500万言うてん、まだ、持ってけえへんのか。」と言って、怒鳴ったりした。また、被上告人は、同月9日午後4時ころ電話で500万円を要求した上、午後4時20分ころ来店し、満席の客の面前で怒鳴って嫌がらせを始め、Aも、午後4時40分ころ来店し、嫌がらせを続けている被上告人の横に立ち、「俺は関係ない。」などと言いながらにやにや笑っていたが、上告人が警察を呼んだため、2人はようやく帰った。

13 Aは、平成3年3月24日午前5時30分ころ、自動車に乗っていた上告人に暴行を加えて加療約1週間を要する傷害を負わせ、脅迫し、車体を損壊したが、上告人の告訴により、その後罰金5万円の刑に処せられた。

14 被上告人は、平成3年1月22日に本件訴訟を提起した。他方、上告人は、同年3月にAに対して損害賠償請求訴訟を提起したが、右損害賠償請求訴訟については、同6年2月14日に200万円と遅延損害金の支払を命ずる上告人一部勝訴の第一審判決がされ、控訴審の同年7月28日の和解期日において200万円を毎月2万円ずつ分割して支払うことなどを内容とする和解が成立した。