○「
有責配偶者離婚を初めて認めた昭和62年9月2日最高裁判決紹介」と続けます。
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二 ところで、本件について原審が認定した上告人と被上告人との婚姻の経緯等に関する事実の概要は、次のとおりである。
(一)上告人と被上告人とは、昭和12年2月1日婚姻届をして夫婦となつたが、子が生まれなかつたため、同23年12月8日訴外丙野月子の長女春子及び二女夏子と養子縁組をした。
(二)上告人と被上告人とは、当初は平穏な婚姻関係を続けていたが、被上告人が昭和24年ころ上告人と月子との間に継続していた不貞な関係を知つたのを契機として不和となり、同年8月ころ上告人が月子と同棲するようになり、以来今日まで別居の状態にある。なお、上告人は、同29年9月7日、月子との間にもうけた二郎(同25年1月7日生)及び三郎(同27年12月30日生)の認知をした。
(三)被上告人は、上告人との別居後生活に窮したため、昭和25年2月、かねて上告人から生活費を保障する趣旨で処分権が与えられていた上告人名義の建物を24万円で他に売却し、その代金を生活費に当てたことがあるが、そのほかには上告人から生活費等の交付を一切受けていない。
(四)被上告人は、右建物の売却後は実兄の家の一部屋を借りて住み、人形製作等の技術を身につけ、昭和53年ころまで人形店に勤務するなどして生活を立てていたが、現在は無職で資産をもたない。
(五)上告人は、精密測定機器の製造等を目的とする二つの会社の代表取締役、不動産の賃貸等を目的とする会社の取締役をしており、経済的には極めて安定した生活を送つている。
(六)上告人は、昭和26年ころ東京地方裁判所に対し被上告入との離婚を求める訴えを提起したが、同裁判所は、同29年2月16日、上告人と被上告人との婚姻関係が破綻するに至つたのは上告人が月子と不貞な関係にあつたこと及び被上告人を悪意で遺棄して月子と同棲生活を継続していることに原因があるから、右離婚請求は有責配偶者からの請求に該当するとして、これを棄却する旨の判決をし、この判決は同年3月確定した。
(七)上告人は、昭和58年12月ころ被上告人を突然訪ね、離婚並びに春子及び夏子との離縁に同意するよう求めたが、被上告人に拒絶されたので、同59年東京家庭裁判所に対し被上告人との離婚を求める旨の調停の申立をし、これが成立しなかつたので、本件訴えを提起した。なお、上告人は、右調停において、被上告人に対し、財産上の給付として現金100万円と油絵1枚を提供することを提案したが、被上告人はこれを受けいれなかつた。
三 前記一において説示したところに従い、右二の事実関係の下において、本訴請求につき考えるに、上告人と被上告人との婚姻については5号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約36年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、前示のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものである。
したがつて、右特段の事情の有無について審理判断することなく、上告人の本訴請求を排斥した原判決には民法1条2項、770条1項5号の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右特段の事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるうえ、被上告人の申立いかんによつては離婚に伴う財産上の給付の点についても審理判断を加え、その解決をも図るのが相当であるから、本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法407条1項に従い、裁判官角田禮次郎、同林藤之輔の補足意見、裁判官佐藤哲郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。