オーバーローンで剰余価値のない不動産共有判断判例全文紹介1
○久しぶりに男女問題の話題です。
元夫Aが原告、元妻Bが被告で、A名義居宅に居住しているBに対し、Aが所有権に基づき建物明渡と建物明渡済みまで1ヶ月約20万円の賃料相当損害金の支払を求めたのに対し、平成24年12月27日東京地裁判決(判時2179号78頁)は、居宅についてのBに3分の1の共有持分権があることを認め、共有持分権者としての使用権を楯に明渡請求を棄却し、Aの持分権3分の2についての賃料相当損害金として月額10万円の支払を命じました。
○珍しい事案ですが、住宅ローンを抱えて剰余価値のない不動産についての財産分与を考えるのに参考になる判例です。通常、オーバーローンで剰余価値のない夫単独名義不動産は財産分与の対象にならないと考えられています。しかし、購入に際し妻も一部代金を支払っていた場合、或いは、家事労働によって住宅ローン支払に貢献していた場合、妻の実質持分権をどのように考えるか大変難しい問題になります。
この問題について考える参考資料として、平成24年12月27日東京地裁判決(判時2179号78頁)全文を紹介します。先ずは事案概要の前提事実です。
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主文
一 被告は、原告に対し、平成24年5月7日から別紙物件目録記載二の建物明渡済みまで1か月10万円の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを5分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載二の建物を明け渡せ。
二 被告は、原告に対し、平成24年5月7日から前項の建物明渡済みまで1か月19万8000円の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要等
本件は、原告が、別紙物件目録記載二の建物(以下「本件建物」という。)は自己の単独所有であるにもかかわらず、これを被告が占有しているとして、被告に対し、所有権に基づき、本件建物の明渡しを求めるとともに、所有権侵害の不法行為に基づき、被告の本件建物占有開始時から明渡済みまで月額19万8000円の割合による使用料相当損害金の支払を求めた事案である。
一 前提事実(証拠等により明らかに認められる事実)
(1)原告(昭和46年○月○日生)と被告(昭和45年○月○日生)は、平成13年2月18日に婚姻した元夫婦であり、平成17年○月○日に長女Aを、平成20年○月○日に長男Bをそれぞれもうけた。
(2)原告と被告は、平成14年11月9日、別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)を購入し、同日、原告名義の登記を了した。原告と被告は、平成15年5月14日、本件土地上に本件建物を新築し、同月30日、原告名義の登記を了した。原告と被告は、平成15年5月に本件建物に入居した。
(3)被告は、美容師の資格を持ち、原告と婚姻後、実家の美容院を定期的に手伝っており、長女が生まれた後も、実家の手伝いをしていた。長女の日常の世話は主に被告が行っており、長男の出産を控えた平成20年1月末までは、主として自宅で長女を監護し、被告が実家に手伝いに行くときは長女を連れて行った。
(4)原告は、平成20年5月26日、被告に無断で長女及び長男を連れて本件建物を出て、被告が本件建物に残った。原告は、その後、知人宅や実兄宅等を経て、兵庫県加古川市内のアパートで生活するようになった。
(5)被告は、平成20年8月14日、原告を相手方として、神戸家庭裁判所姫路支部に対し、子の監護に関する処分(子の監護者の指定、子の引渡し)を求める手続を申し立て、原告は、同年10月30日の調停期日において、長女及び長男を被告に引き渡した。
(6)原告と被告が婚姻後形成した共有財産は、本件土地及び本件建物(以下併せて「本件不動産」という。)並びに原告名義の預金である。なお、原告の平成20年6月から平成21年5月までの年収は約1000万円であった。被告は、その当時、家事手伝いをして無収入であり、子らは、日中は、長女は保育園に、長男は家庭福祉員に預けていた。
(7)被告は、平成20年8月14日、原告を相手方として、東京家庭裁判所に対し、夫婦関係調整調停及び婚姻費用分担調停を申し立てた。同年10月14日に調停期日が開かれたが、原告は、同期日後、被告が帰宅する前に、本件建物まで赴き、鍵を開けて本件建物に入ろうとしたが、被告が予め鍵を交換していたため本件建物に入ることができなかった。原告は、いったん鍵屋を呼び、破壊しなければ開かない鍵であることを告げられるや、鍵を破壊して本件建物に入ろうとしたが、鍵の破壊に手間取ったことからこれを中止した。
(8)原告は、平成20年7月ころまでは本件建物において生活していたが、その後遅くとも上記子らの引渡しを受けた日以降は、本件建物から自転車で20分ほどの場所にある実家で生活するようになった。ただし、原告は、実家で生活するようになってからも、本件建物内に少なくとも子らのベビーダンス及び収納ボックス等を置いていた。
(9)平成20年11月27日、前記婚姻費用分担調停申立事件につき調停が成立し、原告が、被告に対し、同年12月から当事者の別居解消又は離婚に至るまで婚姻費用分担金として月額10万円を支払うことのほか、被告が居住している本件建物にかかる住宅ローンについて、原告がこれを負担すること等が合意された。
(10)平成21年、被告は、原告を相手として、東京家庭裁判所に対し、原告との離婚、子らの親権者となること、養育費、財産分与及び慰謝料を求めて訴訟を提起し、これに対し、原告も、被告を相手として、東京家庭裁判所に対し、被告との離婚、子らの親権者となること、財産分与及び慰謝料を求めて訴訟を提起し、両事件は併合されて審理が行われた。東京家庭裁判所は、平成22年2月26日、原告と被告とを離婚し、子らの親権者をいずれも被告とすること、養育費として原告が被告に対し子一人につき月額7万円を支払うこと、財産分与として原告が被告に対し1058万5458円を支払うこと、慰謝料として原告が被告に対し250万円余りを支払うことを内容とする判決(以下「本件第一審判決」という。)を言い渡した。
(11)原告は、本件第一審判決を不服として、東京高等裁判所に控訴を提起した。東京高等裁判所は、平成22年8月25日、本件第一審判決のうち、養育費について原告が被告に対し子一人につき月額4万円を支払うよう、財産分与について原告が被告に対し707万0598円を支払うよう判決内容を変更するとともに、その余の控訴を棄却する旨の判決(以下「本件控訴審判決」という。)を言い渡し、同判決は、同年9月9日に確定した。
(12)本件控訴審判決言渡後、被告は、被告代理人を通じて、原告に対し、本件建物に居住する予定であることを伝えていたことから、原告から原告代理人を通じて本件建物の鍵の引渡しを求められても、これに応じない旨回答した。
(13)原告は、平成22年9月11日ころ、鍵屋を呼び、本件建物の鍵を損壊して解錠し、新たな鍵を取り付け、その後本件建物に居住している。被告は、同年10月6日、本件建物に赴いたが、鍵を開けることができなかったため、インターホンを鳴らしたところ、原告がこれに応答し、原告と被告は言い争いになった。
(14)被告は、平成23年2月8日、原告を相手として、東京地方裁判所に対し、占有権に基づき本件建物の返還(明渡し)を求めるとともに、占有侵奪の不法行為に基づき損害賠償(慰謝料)を求める訴訟を提起した。東京地方裁判所は、同年12月22日、原告が被告に対し本件建物を明け渡すとともに慰謝料20万円余りを支払うよう命じる内容の判決を言い渡した。原告は、上記判決に従い、平成24年5月7日、被告に本件建物を明け渡した。