○「
養育費算定上の問題点−Q&A抜粋備忘録」に、「養育費・婚姻費用については、判例タイムズ1111号(平成15年4月1日号)に掲載された東京・大阪養育費等研究会作成「
養育費・婚姻費用の算定方式と算定表」(
東京家庭裁判所のHPにPDFファイルで掲載)利用が実務では定着し、離婚調停や離婚訴訟和解時においては必需品となっています。当事務所でも離婚相談者で養育費問題を抱える方には,必ずその必要部分をコピーしてお渡ししています。」と記載していますが、最近、この算定表で、よく質問されるのは、通常、養育費支払義務者となる父親から、多額の債務があってその返済に汲々としているがそれでも算定表通り支払わないと行けないのかと言う点です。
○典型的には住宅ローンです。例えばサラリーマンで税込み年収600万円の父が、14歳以下の子ども2人を母を親権者と指定して離婚した場合で、母の年収がパートで100万円程度だとすると、算定表では、8〜10万円の一番低いランクですから、原則として月額8万円の養育義務を負うことになります。税込み年収600万円でも源泉所得税・社会保険料等控除された手取額は8割相当額として可処分収入は年480万円、月額40万円程度になります。ところが、居住用マンションの住宅ローンがあり年間120万円月額平均10万円支払っており、更にマイカーローン等クレジット債務の返済が毎月5万円程度あり、実質月収は25万円程度しかなく、ここから8万円は大変厳しいと言う相談は、日常的にあります。
○父としては、この住宅ローン或いはマイカーローンは、元々は家族即ち妻と2人の子どものために負ったローンであり、自分一人だったらこんな大きな買い物はしないでその半分くらいで済ませていた、今になってこれを売却処分するにもオーバーローンで借金が残るだけであり、売りたくても売れないまま広い家に一人多額のローンを支払いながら住み続けなければならず、さらに多額の養育料を支払うなければならないのは、正に、踏んだり蹴ったりだと主張します。
○自分は離婚したくないのに、妻の方が夫を嫌いになって出て行かれた例では、ホントにお気の毒としか言えませんが、更にお気の毒に、この住宅ローン或いはマイカーローンは、算定基準での年収から差し引くことは原則として出来ませんと回答せざるを得ません。これらのローン返済は、マンション或いは自動車を最終的に自分所有物とするためのもので、自分の買い物に過ぎないからです。
大阪弁護士協同組合出版解説書でも14頁に「
住宅ローンがあっても、その多寡にかかわらず、算定表で求められる幅の範囲内で具体的な額を決めることになります。これは、婚姻中に購入した不動産の住宅ローンについては、本来離婚に伴う清算として解決されているはずの問題だからです。」と記載されています。
○また住宅ローンは居住土地建物賃料とも同視でき、住宅ローンがなくても生活する以上は居宅賃料支払が必要になることも控除が認められない理由の一つです。しかし、いくら最終的には自分の物になるとは言え、オーバーローンで売るに売れない状況の場合、住宅ローンを負った事情を考慮してその一部を収入から差し引く扱いをする場合もありますので、その毎月の支出の大きさから生活が大変な事情を裁判官に訴える価値はあります。
○住宅ローンやマイカーローンのように目に見える物の購入のためのローンではなく、浪費として多重債務者になって、毎月の返済額が大きい場合も原則として、その返済額を算定基準収入から差し引くことは出来ません。しかし、多重債務返済のため年収600万円が実質400万円にしかならない場合、支払能力が400万円分しかないことが事実であり、この点を強調して、出来る限り養育費負担額を小さくすることを裁判官に訴える価値はあります。また多重債務の原因が結婚生活維持のためであった場合はその分は収入から差し引く扱いになっていますので、この点を強調して訴えることが必要です。
いずれにしても算定基準表は絶対ではなく、諸般の事情を総合考慮して決められますので、ケースバイケースで様々な主張をする価値はあります。