○「
平成18年6月14日東京地裁判決全文紹介1−不貞行為第三者責任限定」を続けます。
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第3 争点に対する判断
1 争点(1)(不貞行為の有無)について
(1)証拠(甲7,8,11ないし13,乙11の1,原告本人のほか,括弧書きしたもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア Aは,平成16年1月ころから,仕事上の上司となった被告と親しくなり,原告との婚姻関係について不満を持っていることについても話をするようになったので,原告は,当惑し,また,Aが同年4月ころから,仕事と称して外泊することがあったので,Aの行動に不信を抱いた。
イ Aは,同年5月4日,原告に対し,原告との婚姻関係に不安を感じていることを話し,次いで,同月8日,原告に対して離婚の申出をした。
ウ Aは,Aの誕生日である同月18日に,原告に対して仕事で遅くなると言っていたが,実際には,被告と食事を共にし,誕生日のお祝いをしてもらった。そして,原告がAの行動に不信を抱き,同月19日にAの携帯電話のメールを見ると,Aは被告に対して,「この前は泊れなかったから,今度はインターコンチネンタルホテルにしようよ」,「あなたの帰りを首を長〜くして待ってます。離れていてもY1に身も心も抱かれているって実感できます」,「あなたとの新婚生活を考えると,不安もあるけど楽しみです」,「最高のプレゼントありがとう!今まで生きてきた中で最高の誕生日でした」などのメールを送信していた。
エ 原告は,Aに上記メールの内容を質問したところ,Aはうろたえた。そして,原告とAは,同月20日ころから家庭内別居の状態になった。
オ Aは,同月22日,仕事と称して外泊した。これに疑問を抱いた原告が,都内各ホテルに宿泊状況を問い合わせたところ,Aがインターコンチネンタルに同月27日に2名で宿泊予約をしていたことが分かり,原告は,同日午後11時過ぎ,同ホテルに赴きAと被告が宿泊客室内に2人だけでいることを確認したが,被告から仕事の打ち合わせをしていた旨の説明を受け,それ以上,追及することができなかった。
カ Aは,同年7月3日,転居したところ,原告は,Aの転居前には,協議離婚することに合意し,同年6月25日ころには協議離婚届に署名押印していたが,Aの行動に不信を抱き,同月30日に探偵会社にAの素行調査を依頼するとともに,離婚届の不受理届を提出した。
そして,上記調査の結果,被告がA方に頻繁に出入りしていることが分かり,しかも,被告とAがかなり親密な関係で,性行為に及んでいることがうかがわれた(甲9の1ないし6,10)ため,原告は,Aの離婚請求に応じないことにした。
キ Aは,平成16年4月の外泊について,同僚のDがツアーの添乗に行くことから同女と成田空港近くのホテルに泊まった旨別訴で供述しているところ,Dが同月17日に成田から添乗員として海外に行く仕事はあったものの,その際DがAとホテルに泊まった事実はないにもかかわらず,Aは,Dに対し,同年9月中旬ころ,4月17日に成田のホテルに一緒に泊まったことにしておいてほしい旨要望していた(甲14)。また,上記Dが成田から出発した際,被告とAは,成田空港に見送りに行った。
(2)以上の認定事実を併せ考慮すると,被告とAは遅くとも平成16年4月ころから男女関係をもち,これを継続していたものと認められる。
これに対して,被告は,Aとの間に不貞行為の事実は一切ないと主張,陳述(乙11の1)し,別訴でも同様の証言をしており(甲13),また,Aも,別訴で被告の主張に沿う供述をしている(甲12)が,上記認定に反する同証言等及び供述は,不自然であって信用することができない。
また,被告は,別居後の事情は婚姻関係破たんの原因とならないと主張するが,別居時点で,原告は,Aの不貞行為について確信を持っておらず,協議離婚届することを翻意しているから,未だ婚姻関係が破たんしたといえず,その後にAが被告と不貞行為をしていたことが分かったため,婚姻関係が完全に破たんしたものと認められるから,被告は,別居後の不貞行為についてもAとともに責任を負う。
2 争点(2)(弁済による損害賠償債務の消滅の有無)
(1)慰謝料額
以上によれば,被告は,原告とAが婚姻関係にあることを知りながらAと男女関係をもち,これを継続していたもので,これにより原告とAとの婚姻関係が破綻し離婚に至ったことに照らせば,被告は原告がこれによって被った精神的損害について不法行為責任を負うことは明らかである。
しかしながら,婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務,協力義務によって維持されるべきものであり,不貞の相手方において自己の地位や不貞配偶者の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて不貞配偶者の意思決定を拘束したような特別の事情が存在する場合を除き,不貞により婚姻破綻したことについての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって,不貞の相手方の責任は第二次的,副次的なものとみるべきである。
本件においては,最終的に原告とAが離婚するに至ったこと,もっとも,仕事上被告はAの直接の上司ではあったが,男女関係をもつに当たって被告が仕事上の地位を利用したとか,主導的であったとまでは認め難いこと,原告とAの婚姻関係の破綻について,被告がAと男女関係をもち,これを継続したことが主たる原因になっているとはいえ,原告とAとの夫婦間における価値観の相違も無関係とはいえないことがうかがわれる。
上記の事情に加えて,本件にあらわれた諸般の事情を総合的に考慮すると,被告が原告に対して負担すべき慰謝料額は,220万円をもって相当と判断する。
この点について,原告は,被告が陳述書(乙11の1)において原告を誹謗中傷しており,被告独自の行為によっても原告に深い精神的苦痛を与えたと主張するが,被告が不貞行為を行い,そのために上記陳述書を提出したことは訴訟上の主張,陳述であって,それ自体が被告独自の原告に対する別個の不法行為を構成するとまではいえず,被告が不貞行為を行い,前提事実(14)のような陳述をしたことは,慰謝料額の考慮事由になるものであり,この点も考慮して上記のとおり判断する。
(2)Aの弁済による被告の損害賠償債務の消滅について
不貞行為は不貞をした配偶者とその相手方の共同不法行為であって,不貞を理由とする不貞をした配偶者の離婚慰謝料支払債務と不貞の相手方が負う慰謝料支払債務は不真正連帯債務の関係にあるところ,被告より責任の範囲,債務負担額が大きいAが全額弁済したことによって原告の全損害が填補されたものと認められるから,被告の損害賠償債務は消滅したというべきである。
3 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法62条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第44部
裁判官 杉山正己