○「
離婚時年金分割制度の按分割合は2分の1が大原則−例外事例は希有」を続けます。
年金分割制度の按分割合は2分の1が大原則ですが、年金分割をしないとの合意即ち按分割合ゼロとする合意でも、公序良俗に反するなどの特別の事情がない限り有効であるとした平成20年6月16日静岡地裁浜松支部審判(家月61巻3号64頁)を紹介します。
事案は以下の通りです。
・A女・B男は、昭和52年婚姻し、平成19年4月に協議離婚。婚姻期間は30年。
・離婚に際し、以下の内容の離婚協議書を作成。この協議書作成に当たってはAB間にトラブル無し
離婚に伴う財産分与は,次の条件とする。
一 ○○市○○○○番地○○ 敷地面積○○.○○平方メートルの土地及び家屋は,Aの所有とする。
一 現金1500万円は,Bの所有とする。
一 平成19年×月より支給される共済年金は,全額Bが受け取るものとする。
年金分割制度によるAの取り分は,これを全て放棄する。
一 財形年金の受け取り分は,Aが半額を受け取るものとする。
・平成16年時点でBはAに年金の半分を分与するとの覚書を作成して交付していたが、離婚時に翻意し、上記協議書を作成
・Aは、不動産の譲渡はBの浮気の代償としてもらったものであり,離婚については何ももらっていない,平成16年覚書では,Bの年金について,その半額を生活費としてAに分与すると記載され,年金分割についての合意がなされていると主張し、按分割合0.5とする年金分割審判申立
これに対する審判は以下の通りです。
・本件申立てを却下する。
・離婚当事者は,協議により按分割合について合意することができるのであるから,協議により分割をしないと合意することができる
・本件においては,AとBとの間には,離婚協議書による離婚時年金分割制度を利用しない旨の合意があり、このような合意は,それが公序良俗に反するなどの特別の事情がない限り有効である。
・本件離婚協議書は,AとBが話し合った上で,Aが数日の熟慮期間をおいて下書きをしたことに基づいて作成されたものであり,そして,その作成時には,AとBとの間に何らのトラブルもなかったのであるから,この合意を無効とする事情は存しない。
○この事案でAが分与を受けた不動産の価値は不明ですが、おそらくBが取得する現金1500万円よりは相当程度高額と推定されます。またBの財形年金の半分はAが受け取るとの定めもあり、更に、年金分割を請求しないとする離婚協議書作成にあたり、数日間Aも熟慮した上で、署名押印したとの事実関係から、公序良俗に反していないので、この合意は有効と判断されました。
○この審判例の考え方からは、Bの年金以外の財産が殆どなく、Aには年金以外に離婚に当たりBから分与される財産がない場合に、このように年金分割請求をしないとの合意をしたとしてもおそらくは公序良俗違反として合意が無効とされると思われます。
年金分割制度は、夫婦が共同して形成した財産の清算と言うことではなく、夫婦で支払った保険料は夫婦双方の老後等のための所得保障としての意義を有しているので、この老後の生活保障がなされないような合意は年金分割制度趣旨に反するからです。本件では不動産と財形年金2分1の受け取りで老後生活保障は十分と判断されたのでしょう。