財産分与と慰謝料との関係の基本
○離婚時の財産的問題は、
第1に未成熟子が居る場合の養育料、
第2に夫婦共有財産がある場合の財産分与、
第3に婚姻破綻等に責任がある者に対する慰謝料請求
の3つがあります。
第1の養育料請求は当然に請求出来るものですが、第2財産分与、第3慰謝料に認められるためには、夫婦共有財産の存在、婚姻破綻等についのて有責性との要件が必要なところ、特に不本意に離婚を迫られる妻の立場で、或いは、自ら離婚を迫る妻の立場でも、当然に財産分与、慰謝料が請求出来ると勘違いされている方が居ます。離婚する以上は妻が夫からお金を取れるのは当然との考えですが、これは間違いで、要件を満たす必要があります。
○夫婦共有財産がある場合の財産分与、婚姻破綻に責任がある者に対する慰謝料請求いずれも、それぞれ細かい論点がありますが、両者の関係もまた重要な論点です。財産分与は夫婦共有財産の清算の問題のところ、慰謝料は不法行為責任の問題で、典型的には夫婦の一方の他方に対する暴力、虐待・侮辱、一方の不貞行為(貞操義務違反)等身体・自由・名誉等を侵害する行為があり、個別慰謝料と呼ばれます。ところがこれとは別個に一方の責任で離婚に至ったこと自体についての慰謝料も認められ(昭和31年2月21日最高裁等)、これは離婚慰謝料と呼ばれています。そのため財産分与も認められた場合の主に離婚慰謝料との関係が問題になります。十分な財産分与なされるのであれば、離婚に至ったこと自体の慰謝料は不要ではないかとの考えもあるからです。
○民法第768条(財産分与)の規定は次の通りです。
「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」
この財産分与と慰謝料の関係については包括説と限定説に考え方が分かれます。
包括説は、財産分与を、精算的要素・扶養的要素のほかに慰謝料的要素を含む包括的離婚給付と考えます。その根拠は、上記規定の「その他一切の事情を考慮」するとの文言で、離婚による不利益救済のため財産分与規定があるのだから、不利益救済は全て財産分与によるべきとします。
これに対し限定説は、財産分与は夫婦財産の清算と離婚後の扶養を含むが慰謝料的要素は含まないとします。その根拠は、両者は本質を異にし、財産分与は家裁審判事件、慰謝料は地裁(簡裁)で管轄も異なり、財産分与は2年の除斥期間、慰謝料は3年の消滅時効等別個の権利なので個別請求も可能であることを挙げます。
○家裁実務は、限定説の立場で運用されているとの説明もありますが、実際は包括説と限定説の折衷的立場が最高裁裁判例であり、その詳細は別のコンテンツとして紹介します。