内縁関係の成否に関する参考判例−婚姻障害
○内縁関係成否に関する判例紹介を続けます。
今回は、親族法の制限により婚姻届出が出来ない例での内縁関係の成否に関する昭和59年1月30日東京地裁判決(訟月30巻7号1202頁)です。私は全く不当な判決を思いますが、控訴審東京高裁昭和59年7月19日判決、最高裁昭和60年2月14日判決でも維持され、内縁関係の成立は否定され、厚生年金保険法3条2項に規定する「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当しないとして遺族年金が受給できずに終わりました。
私の感覚では全く理不尽な判決ですが、事案は以下の通りです。
X女は、AとA死去まで7年間事実上の夫婦関係にあり、Aとの間に3人の子供をもうけた。
Xは、Aと事実上の夫婦関係になる以前に、結婚歴があり2人の子供が居たが、Aの実父Bと再婚してBと2人の子供は養子縁組をして、Bとの間にも1人子供をもうけていた。
Xは、Bが死去時から7年経過した時点で、Bの子であるAと事実上の夫婦関係になり、A死去まで7年間事実上の夫婦関係にあり、Aとの間に3人の子供をもうけた。
Xは、A死去後、Aの内縁の妻で、厚生年金保険法三条二項に規定する「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として遺族年金の支給申請をしたが、非該当として年金不支給の裁定を受け、社会保険庁長官に対し、裁定取消の行政訴訟を提起した。
XとAは、AがXと正式婚姻したその前夫Bの子になり、姻族一親等の関係にあるため民法第735条(直系姻族間の婚姻の禁止)「直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第728条又は第817条の9の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする。」との規定により婚姻届出が出来ず正式婚姻を諦めていたものです。
昭和59年1月30日東京地裁判決概要は以下の通りです。
厚生年金保険法3条2項に規定する「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には、内縁関係にある者のすべてが含まれるものではない。
社会通念上夫婦としての共同生活と認められる事実関係を成立させようとする合意が当事者間にあり、かつ、その事実関係が存在するいわゆる内縁関係にあるもののうち、反倫理的な内縁関係にある者を包含しないと解するのが相当である。
なぜなら法による保険給付は主として法律上加入強制されている被保険者の掛金及び国庫負担金等をもつてまかなわれる公的給付の性質を有するものであり、かかる公的給付を受けるにはそれにふさわしい者のみが給付対象者とされるべきところ、社会一般の倫理観に反するような内縁関係にある者は公的給付を受けるにふさわしい者とは認められないからである。
よってXはAの内縁の妻とは認められず、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当しない。
○この判決は、その父といったん夫婦関係になった嫁が父死去後、その子と夫婦関係になることは、反倫理的内縁関係と決め付け、「社会一般の倫理観に反するような内縁関係にある者は公的給付を受けるにふさわしくない」としていますが、倫理観念は時代と共に変遷するものであり、現在の学説上はこのような場合でも内縁同様の法的保護を与えるべきとの考えが有力です。