離婚成立に当たり−ある審判官の思いやり溢れた言葉に感激
○公務員は公僕であり、英語で言うとpublic servantで、公衆-国民に奉仕する者であるはずですが、日本では公務員はお役人とも呼ばれ、国民に奉仕するどころか、国民の管理・監督者である意識が強く、この意識を最も強く持っているのは裁判所だと長いこと思ってきました。
○しかし昨今の行政改革、司法改革の大波によってさすがの裁判所もpublic servantの意識を持つようになり、如何にきめ細かな国民に対するサービスを提供するかの研究にも熱心に取り組むようになって来たようです。
○家庭裁判所での離婚調停も国民サービスの一環ですが、その手続は先ず2〜3人の調停委員が、当事者からじっくり話しを聞き、当事者の納得を得るべく、双方の合意点を探り、最終的に合意に達するとこれを調停条項としてまとめ、最後に審判官(裁判官)が出て来てまとまった調停条項を読み上げて確認し、調停を成立させます。
○私がこれまで出会った審判官は、最後に慌ただしく出て来て、調停委員がご苦労の末まとめた調停条項を棒読みして、読み終わるとそそくさと退席する方が殆どでした。ところが先日、ある離婚調停でのA審判官の姿勢に、これぞ正にpublic servantと、感激したことがあります。
○A審判官は、先ず調停条項を読み上げる前に気をつけて頂きたいこととして、
「いまから調停条項を読み上げますが、その内容について少しでも疑問点、不明点、納得できないと思う点があったら、どうぞ、私の話を遮ってかまいませんので、遠慮無く質問、意見等を述べて下さい。」
と丁寧に説示して、ゆっくり、ハッキリした言葉で読み上げられ、更に一通り読んで確認後、再度、ポイントだけ念を押して再確認され、当事者の納得状況を慎重に確認されました。私はこの段階で何と丁寧な進め方と感心しました。
○更に感心、感激したのは調停条項について確認が終わると普通の審判官は直ぐに退席するのですが、A審判官は、離婚成立に当たり、私から当事者の方に「お願い」がありますと告げて、以下のお話をされたことです。私は、上から押し付ける説教口調ではない「お願い」と言う表現に感激しました。
・不幸にも離婚に至ってしまいましたが、離婚したことは、何ら恥じることはありません。いたずらに離婚に至った過去を悔やむより、新たに出発する今後の、将来のことに目を向けて下さい。
・お父さんにお願いです。母親とは離婚して他人になり、親権者が母親になり子供と離れた生活となっても、父親と子供の親子関係は生涯続きます。父親としての自覚を決して忘れないで下さい。そのために父親は決められた養育料をキチンと最後まで支払って下さい。時に支払が苦しくなるときがあるかも知れませんが、何とか、頑張って支払を続けて下さい。
・お母さんにお願いです。養育料に不満を感じることがあるかも知れませんが、子供が病気になったり、或いは進級、進学等でお金がかかるときは、お父さんに堂々と相談して下さい。またお父さんも相談に乗って下さい。
・最後にお母さんに一番大事なお願いですが、お父さんから養育料を受け取るのですから、決して、自分一人だけで子供を育てているとは思わないで下さい。子供が物心ついたら、お父さんが養育料をキチンと支払って養育してくれていること、お父さんはいつも君のことを思っていることを、決して、お父さんに見捨てられてはいないとことを伝え、子供とお父さんの面会には出来るだけ協力して下さい。
○調停で養育料を取り決めても最後まで支払を継続する例は4分の1以下との統計もあり、この状況是正に努めるA審判官のpublic servantとしての自覚の強さに大感激で涙がこぼれそうでした。恐縮ながら日本の裁判官は、判断権者と言う職業柄もあり、国民に対するservant意識が乏しい方がまだ多いと感じており、A審判官のようなservant意識溢れる裁判官が増えることを念願した次第です。