○最近、男女問題としては離婚問題だけでなく、夫婦の一方と性関係を持ち、夫婦の他方から損害賠償請求される不倫事案が一層増えている感がします。この不倫の場合の不貞の相手方の他方配偶者に対する責任については、当然に責任があるという
独占使用権侵害説と上司として無理矢理迫る等の悪質性がない限り当然には責任を負わないと言う
約束違反説の2つの考えがあることを説明しております。
○後記の
約束違反説を明確に認めた判例は私が調べた範囲では見あたりませんが、学説では一橋出版民法の解説親族法三訂版37頁で長瀬二三男氏が「
貞操義務は配偶者間の相対的義務に過ぎないから、その違反に対する責任も配偶者間で処理されるべきであるし、不貞という事態を招いた原因は夫婦自体のほうにあるというべきである。」、「不貞行為の相手方が『害意』をもって積極的に肉体関係をもった場合などを除き、原則的には不法行為の成立を否定すべきである。」と断言されており、家庭学校論を力説する私も同じ考えです。
○この点について平成8年3月26日最高裁判決は「
甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わない。」、同年6月18日最高裁判決は「
夫と不倫関係にあつた女性に対し、妻が慰謝料の支払を求めた事案において、妻が女性に夫との夫婦仲が冷めており離婚するつもりである旨を話したことが不倫の原因を成している上、不倫関係を知つた妻が、同女に対して単に口頭で慰謝料の支払要求をするにとどまらず、夫の同女に対する暴力を利用して更に金員を要求したことなどの事情を勘案すると、妻が慰謝料請求権を行使することは、信義則に反し権利の濫用として許されない。」としたものがあります。
○同様に平成15年6月24日東京地裁判決では「
妻である原告から、夫の不貞行為の相手方である被告に対する損害賠償請求につき、不法行為に基づく賠償義務が被告に生じるとしながら、原告が夫に対して賠償請求しないと陳述していること、夫と被告との関係が自然な情愛によるもので、被告がことさらに原告の権利を侵害しようとしたものではないことなどから賠償すべき金額は高額にならず、他方で、夫が原告との別居後適正な婚姻費用を超える金額を原告に毎月支払っていることにより、原告の精神的苦痛は実質的に填補されていることから、被告が原告に支払うべき金員は存在しない。」として妻から夫の不貞相手への請求を棄却しています。
○このような判例の傾向からすると不貞の相手方の他方配偶者に対する責任は、婚姻関係が不貞行為時に既に破綻しているときは認められず、不貞行為によっても婚姻関係が破綻せず不貞行為をした配偶者を宥恕しているときも認められないことになり、その責任は限定的に解釈されるようになっております。