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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

扶養

養育費支払期間終期を成年時から大学卒業時に延期した高裁決定紹介

○当事者間の子が、養育費増額の審判の半年後に大学に入学し、成年に達した後も学納金及び生活費等を必要とする状態にあるという事情の変更が生じた場合において、変更の可否及びその内容については、大学進学了解の有無、支払義務者の地位、学歴、収入等を考慮して判断すべきであるとし、私立大学への学納金については支払義務を認めず、養育費支払期間の終期を子が成年に達する日の属する月までから22歳に達した後の最初の3月までに延長することを認めた平成29年11月9日東京高裁決定(判時2364号40頁)全文を紹介します。

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主   文
一 原審判を次のとおり変更する。
二 抗告人と相手方との間の千葉家庭裁判所木更津支部平成27年(家)第1021号、同第1022号養育費増額申立事件について平成27年10月9日にされた審判の主文二項を次のとおり変更する。
「二 相手方(上記審判における表記は、各事件申立人(前件被告))は、抗告人(上記審判における表記は、各事件相手方(前件原告))に対し、当事者間の子A(平成9年6月××日生)の養育費として平成26年9月から同人が満22歳に達した後の最初の3月まで、当事者間の子B(平成12年2月××日生)の養育費として、平成26年9月から同人が成人に達する日の属する月まで、1人当たり毎月5万5000円ずつを、相手方名義の△△銀行△△支店の普通預金口座(口座番号×××)に振り込んで支払う。」
三 手続費用は、原審及び当審を通じ、各自の負担とする。

理   由
第一 事案の概要
(略称は原審判の例による。)
 本件は、抗告人が、相手方に対し、家事審判により、相手方が抗告人に対し、本人の養育費として、本人が成人に達する日の属する月まで、毎月5万5000円ずつ支払うことが定められていたが、本人が平成28年4月に私立大学に進学して学納金等の負担が必要になったと主張して、〔1〕双方の収入に応じて大学の学納金を分担すること、〔2〕養育費支払の終期を22歳に達した後の最初の3月までに延長することを求めた事案である。
 原審は、相手方の大学の学納金負担及び養育費負担の延長をいずれも否定し、抗告人の申立てを却下した。抗告人は、これを不服として、本件抗告をした。

第二 当裁判所の判断
一 前提事実は、次のとおり補正するほかは、原審判の「理由」欄の「二 本件の事実経過」に記載するとおりであるから、これを引用する(ただし、「未成年者」とあるのを、いずれも「本人」と読み替える。)。
(1)原審判二頁11行目の「相手方が、申立人に対し、」の次に「慰謝料500万円、及び」を加える。

(2)原審判二頁20行目の「平成22年9月10日に成立した調停では」を「相手方は、平成22年2月24日に破産免責の許可を受けた。抗告人と相手方は、同年9月10日に上記調停(以下「前件調停〔1〕」という。)を成立させ、前件調停〔1〕では抗告人が養育費の減額に応じ」に改める。

(3)原審判三頁一行目の「同年11月7日に成立した調停」の次に「(以下「前件調停〔2〕」という。)」を、八行目の「申立人は、」の次に「相手方からの慰謝料の支払が完了し、本人の学納金が高額であることなどから、」を、13行目の「前件審判は、」の次に「主文二項において」をそれぞれ加える。

(4)原審判四頁17行目の「未成年者」から18行目の末尾までを「本人の私学進学に反対し、成人後の養育費負担に消極的であった。抗告人は、同年3月28日にさいたま家庭裁判所川越支部に対して、相手方に本人の学納金を負担すること及び本人の養育費支払の終期を延長することを求めて本件家事審判を申し立てた。」に改める。

二 当裁判所は、相手方の抗告人に対する本人についての養育費支払の終期を本人が満22歳に達した後の最初の3月まで延長することは理由があるが、その余の抗告人の申立ては理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1)本件の経緯を見るに、前件調停〔1〕では、抗告人が養育費の減額に応じ、本人につき進学等特別な出費を要するときは、その都度当事者間でその負担割合につき協議することが合意され、前件調停〔2〕では、抗告人が申し立てた強制執行において養育費以外の取立てが終了次第、本人の養育費の額について再度協議することが合意されていた。

 そこで抗告人は、相手方からの慰謝料の支払が完了し、本人が通学する私立高校の学納金が高額であるなどとして調停を申し立てたが、この調停が審判に移行した前件審判は、公立高校の学校教育費を考慮するにとどまる標準算定方式によると、子Bが15歳に達した以降は、本人及び子Bの養育費を合計10万円と試算し、その上で、相手方において合計11万円の支払に応ずる意思が存在することを総合して、養育費を1人当たり月額5万5000円と定め、養育費支払の終期を延長しなかった。
 抗告人は、平成28年3月28日に本件を申し立てたものであり、本人は、平成28年4月に私立大学に進学し、現に通学している。

(2)そうすると、前件審判時には、高校生であった本人が大学生になり、現に通学し、成年に達した後も、学納金及び生活費等を要する状態にあるという事情の変更があったということができる。

(3)もっとも、大学進学のための費用のうち通常の養育費に含まれている教育費を超えて必要となる費用は、養育費の支払義務者が当然に負担しなければならないものではなく、大学進学了解の有無、支払義務者の地位、学歴、収入等を考慮して負担義務の存否を判断すべきである。


 本件においては、相手方は本人が私立高校に通学することに反対し、本人の私立大学進学も了解していなかったと認められること、通常の養育費に含まれる教育費を超えて必要となる費用は本人が大学進学後は奨学金等による援助を受けたり、アルバイトによる収入で補填したりすることが可能と考えられること、抗告人の収入はわずかであり相手方には扶養すべき子が多数いるという中で私立大学に進学した本人に対して奨学金やアルバイト収入で教育費の不足分を補うように求めることは不当ではないこと、前件審判時以降抗告人と相手方の収入はほとんど変化がないこと、前件審判においては、通常の養育費として公立高校の学校教育費を考慮した標準算定方式による試算結果を1か月当たり5000円超えた額の支払が命じられていることからすると、相手方に対し、通常の養育費に加えて、本人が通学する私立大学への学納金について、支払義務を負わせるのは相当でない。

(4)これに対し、前件審判において成人に達する日の属する月までとされた養育費の支払期間を大学卒業時である満22歳に達した後の最初の3月までに変更すべきかどうかは別異に考慮すべきである。
 すなわち,相手方は、親として、未成熟子に対して、自己と同一の水準の生活を確保する義務を負っているといえること、本人は成人後も大学生であって、現に大学卒業時までは自ら生活をするだけの収入を得ることはできず、なお未成年者と同視できる未成熟子であること、相手方は本人の私立大学進学を了解していなかったと認められるが、およそ大学進学に反対していたとは認められないこと、相手方は大学卒の学歴や高校教師としての地位を有し、年収900万円以上あること、相手方には本人の他に養育すべき子が3人いるとしても、そのうちの2人は未だ14歳未満であることに照らすと、相手方には、本人が大学に通学するのに通常必要とする期間、通常の養育費を負担する義務があると認めるべきである。そして、相手方は抗告人に対し、本人が大学に進学した後も成人に達する日の属する月まで毎月5万5000円ずつの支払義務を負っていたから、毎月同額を本人が満22歳に達した後の最初の3月までの支払を命じるのが相当である。

三 よって、前件審判の定めた主文二項は、本人についての相手方の毎月5万5000円ずつの養育費支払義務の終期につき、本人が成人に達する日の属する月までとあるのを本人が満22歳に達した後の最初の3月までと変更するのが相当であり、これと異なる原審判は相当でないから、原審判を変更することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 中西茂 裁判官 原道子 鈴木昭洋)