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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺留分

代襲相続人への遺留分減殺請求と特別受益に関する福岡高裁判決紹介2

○「代襲相続人への遺留分減殺請求と特別受益に関する福岡高裁判決紹介1」の続きで裁判所の判断部分です。
判決では、結論として、
亡Aの遺産額は、合計約1200万円で、
特別受益と認められる不動産の評価額は合計約4570万円とし、
1200万円との合計約5770万円の4分の1相当額約1442万円が控訴人の遺留分額となり、
これから控訴人が相続した金額を控除して、最終的にBの遺留分侵害額は、約243万円と認めました。

○遺留分減殺の順序は、民法第1035条で「贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。」との規定により、最後の贈与である本件土地三から減殺するの、本件土地三の評価額約282万円について、Bは、遺留分減殺請求権の行使によって、本件土地三の持分約282万分の約243万の所有権を取得したこととなります。しかし、本件土地三を贈与されたY1は価額弁償抗弁を出し、Bも価額弁償金を請求しているので、Y1に対し、約243万円の支払が認められました。

○Bの遺留分侵害額は、本件土地三の贈与を減殺することによって全て回復されるますので、Y2に対する遺留分減殺請求は理由がなくなり、Y2に対する請求は棄却されました。

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第三 争点に対する判断
一 争点(1)(亡Aの遺産額)について

 証拠《略》によると、控訴人は、平成23年8月19日、亡Aについての後見人事務終了報告書添付の財産目録に、現金135万2996円を含む亡Aの財産を記載して福岡家庭裁判所田川支部に提出したこと、同裁判所から同年10月25日付けで亡Aの成年後見人及び保佐人報酬として合計135万円を控訴人に与える審判とともに、これを控除した財産目録の作成を依頼した同日付け事務連絡を受けて、上記報酬及び諸経費を控除した同年12月20日付け財産目録を作成したことが認められるから、同目録記載の1199万7217円を亡Aの遺産と認めるのが相当である。
 控訴人は、上記金額からさらに報酬及び諸経費を控除すべきであると主張するが、上記経緯等によれば、財産目録の金額は、既に上記報酬等を控除済みの金額であるから、控訴人の主張は採用することはできない。

二 争点(2)(亡B及び被控訴人Y1に対する贈与の有無)
(1)本件土地三について

 亡Aが被控訴人Y1に本件土地三を贈与したことは、被控訴人Y1が自認するところであり、亡A(保佐人控訴人)が、被控訴人Y1に対して、上記贈与が無効である旨主張して提起した土地所有権移転登記抹消登記手続等請求事件(福岡地方裁判所田川支部平成19年(ワ)第172号)の判決において、上記贈与の有効性が認められて、亡Aの請求は棄却され、同判決は確定している。

(2)本件土地一及び二について
ア 亡Aが所有していた本件土地一及び二の各土地のうち、本件土地一については、平成2年6月18日、平成元年12月7日贈与を原因とする亡Aから亡Bへの所有権移転登記手続が、本件土地二については、平成3年5月24日、同日贈与を原因とする亡Aから亡B及び被控訴人Y1への持分各2分の1の移転登記手続が、それぞれ行われている。
 亡Aは、平成23年7月××日に死亡するまで、上記各移転登記手続について、亡Bあるいは同人の死亡後にこれを承継した被控訴人Y1に対して贈与を否定して、移転登記の抹消を求めたことはなく、むしろ、上記(1)のとおり、Bの死後、被控訴人Y1に本件土地三を贈与している(なお、亡Aは、控訴人に付き添われて本件土地三についての登記手続の中止を求めたり、控訴人を保佐人として上記訴訟を提起するなどしたが、これが認められなかったことは上記(1)のとおりである。)。

イ 本件土地一及び二について亡Bや被控訴人Y1への移転登記手続が行われたころ,亡Aは長女である亡Bと同居して暮らしており、孫である被控訴人Y1は亡A方の隣に居住していて、お互いに親族として円満に暮らしていた。

ウ 上記の事実等に照らせば、亡Aが、本件土地一及び本件土地二(持分2分の1)を亡Bに、本件土地二(持分2分の1)を被控訴人Y1に贈与したと認めるのが相当である。

エ なお、控訴人本人は、原審での尋問(陳述書を含む。)において、本件土地一及び二についての移転登記手続は亡Bが勝手に行ったものだと亡Aが話していたと供述しているが、上記アのとおり、亡Aは、亡Bに対し本件土地一及び二の贈与を否定して移転登記の抹消を求めたことはないことに照らすと、上記供述はにわかに信用できない。

三 争点(3)(上記(2)の贈与が被控訴人らの特別受益として遺留分減殺の対象となるか。)について
(1)亡Bへの贈与について

ア 亡Bへの贈与が特別受益といえるか。
 亡Aは、亡Bに対して、平成元年12月7日(移転登記は平成2年6月18日)に本件土地一を、平成3年5月24日に本件土地二の持分2分の1についてそれぞれ贈与を原因として所有権移転登記手続をしているところ、証拠《略》によると、亡Aは農地を所有して、農業と生花販売業を営んでいたこと、上記贈与は70歳を過ぎた亡Aが所有していた農地のほとんど(本件土地一)と自宅敷地を分筆したもの(本件土地二)を同居していた長女亡Bに贈与したものであること、本件土地二にはその後亡Bの長男である被控訴人Y1が自宅を建築したことが認められる。これらの事実からすると、亡Aの亡Bへの上記贈与は、亡Bらの生計の資本のための贈与として、特別受益と認めるのが相当である。

イ 被代襲者の特別受益が代襲相続人の特別受益となるか。
 亡Aから特別受益を受けたのは被代襲者である亡Bであり、当時、被控訴人らは亡Aの推定相続人でもなく、その後の亡Bの死亡によって代襲相続人になったにすぎない。
 しかし、特別受益の持戻しは共同相続人間の不均衡の調整を図る趣旨の制度であり、代襲相続(民法887条2項)も相続人間の公平の観点から死亡した被代襲者の子らの順位を引き上げる制度であって、代襲相続人に、被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はないこと、被代襲者に特別受益がある場合にはその子等である代襲相続人もその利益を享受しているのが通常であること等を考慮すると、被代襲者についての特別受益は、その後に被代襲者が死亡したことによって代襲相続人となった者との関係でも特別受益に当たるというべきである。
 したがって、亡Bに対する上記贈与は、被控訴人らとの関係でも特別受益に当たると解するのが相当である。

ウ 上記特別受益が遺留分減殺の対象となるか。
(ア)民法903条一項に定める相続人に対する贈与は、その贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが上記相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となると解される(最高裁判所平成10年3月24日第三小法廷判決・民集52巻二号433頁参照)から、上記特別受益について上記特段の事情があるかを検討する。

(イ)本件では、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 亡Aは、夫Cを昭和19年に戦争で亡くし、自作農創設特別措置法による売渡し等で農地を取得して行う農業のほか、生花販売業を営んでいた。
 亡Aの長女である亡Bは、昭和53年6月に夫Dとの三度目の離婚をした後は、亡Aと同居して生花販売業を手伝うなどしており、昭和61年ころから亡Aから生花販売業を事実上引き継いだが、亡Bは、平成6年ころに交通事故に遭って軽トラックの運転ができなくなり、生花の仕入や配達等に支障が出るようになった。
b 亡Bは、平成元年、亡Aから本件土地一の贈与を受けたが、平成7年1月18日、そのうち原判決別紙不動産目録記載一の番号11、12を合計623万4525円で医療法人E会に、平成14年3月27日、同番号7-2、8-2、9-2、10を合計2599万9000円で国土交通省に、それぞれ売却した。
c 亡Bは、平成16年2月××日に死亡したが、その遺産は、上記売却済みの土地を除く本件土地一、平成3年に亡Aから贈与を受けた本件土地二の持分二分の1、5000万円以上の預金等であった。
 その後、亡Bの相続人である被控訴人らの間で遺産分割を巡って紛争が生じたが、平成18年から平成19年にかけての遺産分割調停及び訴訟上の和解により、被控訴人Y1が亡Bの全ての遺産を取得した上で、被控訴人Y2に代償金合計3970万円を支払うことで解決した。

(ウ)上記認定事実によれば、亡Bが亡Aから贈与を受けた本件土地一(ただし、亡Bが売却済みのものを除く。)及び本件土地二の持分2分の1については、いずれも被控訴人Y1が亡Bからの相続によって取得しており、亡Bが売却した上記土地代金についても、その売却時期及び金額、亡Bの収入や贈与を受けた土地以外の資産状況等に照らせば、そのほとんどが亡Bの遺産として残されており、被控訴人Y1と被控訴人Y2に承継されたとみることができる。
 そうすると、上記贈与は、いずれも相続開始よりも相当以前にされたものであるものの、これについて遺留分減殺請求を認めることが被控訴人らに酷であるなどの特段の事情は認められないから、被控訴人らの特別受益として遺留分減殺の対象となるというべきである。

(2)被控訴人Y1への贈与について
ア 本件土地二の持分2分の1の贈与について
(ア)亡Aは、平成3年5月24日、被控訴人Y1に本件土地二の持分2分の1を贈与しているが、当時、被控訴人Y1は亡Aの推定相続人ではなく、その後、平成16年2月××日に亡Bが死亡したことによって、亡Aの推定相続人(代襲相続人)となったものである。

(イ)相続人でない者が、被相続人から直接贈与を受け、その後、被代襲者の死亡によって代襲相続人の地位を取得したとしても、上記贈与が実質的に相続人に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、他の共同相続人は、被代襲者の死亡という偶然の事情がなければ、上記贈与が特別受益であると主張することはできなかったのであるから、上記贈与を代襲相続人の特別受益として、共同相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない。また、被相続人が、他の共同相続人の子らにも同様の贈与を行っていた場合には、代襲相続人と他の共同相続人との間で不均衡を生じることにもなりかねない。
 したがって、相続人でない者が、被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得したとしても、その贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、代襲相続人の特別受益には当たらないというべきである。

(ウ)これを本件についてみると、上記(1)アの事実に加えて、証拠《略》によれば、平成3年当時、本件土地二及び三は一体として、亡Aと亡Bが住む建物(亡A名義)、被控訴人Y1が住む建物(被控訴人Y1名義)等の敷地に利用されていたところ、亡Aは、平成3年5月24日、本件土地二の持分各2分の1ずつを亡Bと被控訴人Y1に贈与したものであるが、そのころ本件土地二の利用状況や建物の所有関係等に変更があったことはうかがわれず、被控訴人Y1に特に本件土地二の持分2分の1を贈与する必要があったこともうかがわれない。

 そうすると、被控訴人Y1への上記贈与は、亡Aの亡Bに対する遺産の前渡しの一環として、平成元年の本件土地一の贈与に引き続いて、自宅敷地の一部である本件土地二を亡Bに贈与するにあたり、その持分の2分の1を亡Bの将来の承継人である被控訴人Y1名義にしたものというべきであって、上記贈与が実質的には亡Bへの遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情があるから、上記贈与は被控訴人Y1の特別受益に当たるというべきである。

(エ)そして、上記(ア)ないし(ウ)のほか、(1)ウの事情等に照らせば、上記贈与はいずれも相続開始よりも相当以前にされたものであるものの、これについて遺留分減殺請求を認めることが被控訴人Y1に酷であるなどの特段の事情は認められないから、被控訴人Y1の特別受益として遺留分減殺の対象となるというべき
である。

イ 本件土地三の贈与について
 本件土地三の贈与が被控訴人Y1の特別受益に該当することは、原判決の「事実及び理由」の第三の二(2)イに記載のとおりであるから、これを引用する。

四 争点(4)(遺留分侵害額及び被控訴人らが支払うべき金額)
(1)遺留分侵害額について

ア 亡Aの遺産額
 前記一のとおり、1199万7217円である。

イ 特別受益額
 次のとおり、特別受益と認められる不動産の評価額は、別紙不動産評価一覧表《略》記載のとおり、合計4569万6640円と認められる。
(ア)亡B及び被控訴人Y1に対して贈与された土地については、亡Aの相続開始時(平成23年7月××日)を基準として評価すべきであるところ、被控訴人Y1が現在も所有している土地については、それに最も時期が近い固定資産評価証明書の金額によって評価すべきである。
(イ)また、相続開始時までに既に売却されていた土地については、上記のとおり相続開始時の評価額によることも考えられるが、本件では、上記不動産評価一覧表の「証拠」欄記載のとおり、売却された上記土地の大部分は相続開始時よりもかなり前の時期に売却されており、特に、亡Bが売却した土地は、その代金が預貯金や現金という形で被控訴人らに承継されているにすぎないから、当時の売却価格によるのが相当である。

ウ 控訴人の遺留分額及び遺留分侵害額
 上記ア及びイの合計5769万3857円の4分の1である1442万3464円が控訴人の遺留分額となり、これから控訴人が相続した上記アの金額を控除すると、控訴人の遺留分侵害額は、242万6247円となる。

(2)被控訴人らが支払うべき金額
 遺留分による贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対して行う(民法1035条)から、平成16年4月23日に贈与された本件土地三から減殺すべきところ、本件土地三の評価額は上記のとおり282万4109円であるから、控訴人は、遺留分減殺請求権の行使によって、本件土地三の持分282万4109分の242万6247の所有権を取得したこととなる。

 そして、前記のとおり、被控訴人Y1が価額弁償を申し出て、控訴人は価額弁償金を請求しており、価額弁償時の本件土地三の評価額も上記評価額と異ならないと認められるから、結局、被控訴人Y1が、控訴人に支払うべき価額弁償金額は、242万6247円となる。
 控訴人の遺留分侵害額は、本件土地三の贈与を減殺することによって全て回復されるから、被控訴人Y2に対する遺留分減殺請求は理由がない。

五 結論
 以上のとおり,控訴人の請求は、被控訴人Y1に対して、242万6247円及びこれに対する平成23年7月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるところ、被控訴人Y1に対する請求を棄却した原判決は相当ではないから、これを取消して、主文第二項のとおりとし、被控訴人Y2に対する請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、被控訴人Y2に対する控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸和田羊一 裁判官 岸本寛成 小田島靖人)

別紙 不動産評価一覧表《略》