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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺留分

相続開始前遺留分放棄申立許可要件について-許可申立認容例紹介

○「相続開始前遺留分放棄の許可要件について-許可申立却下例紹介」を続けます。
相続開始前遺留分放棄申立の却下例として平成15年6月6日水戸家裁下妻支部審判( 家庭裁判月報56巻2号140頁)を紹介していましたが、その抗告審として、本件申立ては、抗告人の真意に出たものであると認められ、本件遺留分の放棄を許可することによって法定相続分制度の趣旨に反する不相当な結果をもたらす特段の事情は存在せず、かえって、抗告人と父とは、父子としての交流がないことから互いに他方の相続について遺留分を放棄することとしたものである上、抗告人の遺留分放棄が、両親間の株式等の帰属の問題について調停による迅速な解決を導く一因となったのであるから、実質的な利益の観点からみても、抗告人の遺留分放棄は不合理なものとはいえないとして、本件申立てを不許可とした原審判を取消し、遺留分放棄を許可した平成15年7月2日東京高裁決定(家庭裁判月報56巻2号136頁)全文を紹介します。


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主   文
原審判を取り消す。
抗告人が被相続人の相続財産に対する遺留分を放棄することを許可する。

理   由
1 抗告の趣旨及び理由

 本件申立ては,抗告人が主文第2項同旨の裁判,すなわち,その父である浅川智則を被相続人とする相続について遺留分を放棄することの許可を求めているものであり,原審は,抗告人が遺留分放棄を相当とする合理的代償を受けていないから,その放棄を許可することは相当でないとして,申立てを却下した。
 本件抗告は,「原審判を取り消し,本件を水戸家庭裁判所下妻支部に差し戻す。」旨の決定を求めるものであり,その理由は,別紙即時抗告の申立(写し)記載のとおりである。

2 当裁判所の判断
(1)記録によれば,次のとおり認められる。
ア 抗告人(昭和42年8月23日生)は,平成15年1月21日本件申立てをする件を代理人弁護士ら(本件抗告代理人弁護士ら)に委任し,同代理人らは,同年2月20日原裁判所に申立書を提出して,本件申立てをした。

イ 原審裁判所書記官は,申立人に対し,同年3月14日付けで照会書を発した。申立人本人は,上記照会書の照会事項「あなたは,水戸家庭裁判所下妻支部に,被相続人の相続について遺留分放棄許可の申立をしましたか」に対し「はい」の回答欄に,同「あなたは,誰かに,遺留分を放棄するように強制されたことがありますか」に対し「いいえ」の回答欄に,「遺留分放棄許可の申立はあなたの真意によるものですか」に対し「はい」の回答欄に,それぞれ印を付け,同「あなたが,遺留分放棄の許可を得たいと考えるようになったのは何故ですか」に対し「その他」の回答欄に印を付けた上「申立書に記載されている通り」と記入し,署名押印して,同月17日原裁判所に提出した。

ウ 原審参与員は,原審家事審判官に対し,同月27日本件申立てにつき,申立人は遺留分について理解しており,申立てが申立人の真意に基づくものである旨の調査の結果を報告するとともに,本件申立ては許可相当であるとの意見を述べた。

エ 抗告人は,婚姻していた智則(昭和10年2月16日生)と永井要子(昭和9年12月21日生)との間の子であるが,両名が昭和52年6月13日に調停離婚した後は,要子が親権者となって養育し,現在も,同人と共に生活している。一方,抗告人と智則との間には交流がない。

オ 要子は,智則を相手として,下館簡易裁判所に,両名間の子である永井正信(平成14年4月28日死亡)の名義の株式等が要子に帰属することの確認を求める旨の調停を申し立て(同裁判所平成14年(ノ)第64号),平成15年2月18日その旨の調停が成立した。その際,智則は,同人の所有する土地を同人の弟に遺贈する考えであるから,上記調停に応じる代わりに,抗告人には智則を被相続人とする相続につき遺留分を放棄してもらいたいとの希望を述べた。抗告人は,これに応じる意向であったので,双方でさらに協議した結果,智則と要子との離婚後抗告人と智則とは交流がなかったことから,互いの相続につき遺留分を主張せず,それぞれの遺留分放棄について許可を求めることになった。

 そこで,抗告人は,本件申立てをし,智則は,平成15年2月19日ころ水戸家庭裁判所土浦支部に対し,抗告人を被相続人とする相続につき遺留分放棄の許可を申し立てた。

(2)上記(1)の事実によれば,本件申立ては,抗告人の真意に出たものであると認められる。また,本件遺留分の放棄を許可することによって法定相続分制度の趣旨に反する不相当な結果をもたらす特段の事情も存在しない(かえって,抗告人と智則とは,父子としての交流がないことから互いに他方の相続について遺留分を放棄することとしたものである上,抗告人が智則に係る相続の遺留分を放棄することが,抗告人の母である要子と智則との間の上記の株式等の帰属の問題について調停による迅速な解決を導く一因となったのであるから,実質的な利益の観点からみても,抗告人の遺留分放棄は,不合理なものとはいえない。)。
 したがって,本件申立てを不許可とすべき理由はない。


(3)そうすると,原審判は不当であり,本件抗告は理由があるので,原審判を取り消し,上記説示によれば,本件申立ては許可すべきものであることが明らかであるから,家事審判規則19条2項により,当審においてこれを許可する旨の決定をすることとする。
(裁判長裁判官 赤塚信雄 裁判官 小林崇 長屋文裕)

(別紙)
即時抗告申立書

即時抗告の趣旨
 原審判を取消し,本件を水戸家庭裁判所下妻支部に差し戻すとの裁判を求める。

即時抗告の理由
1 原審は,遺留分は,相続人の生活保障等の見地から,被相続人の遺言内容等にもかかわらず,法が特に認める取得分であるから,その相続開始前の放棄に当たっては,遺留分放棄を相当とするに足りる程度の合理的代償利益の存在を必要とすると解されるという。

2 しかし,相続後の遺留分放棄であれば相続人の自由であるにもかかわらず,事前の遺留分放棄に際しては家庭裁判所の許可が必要とされたのは、被相続人が遺留分権利者を強制するなどして,遺留分権利者の利益を害することの無いようにして遺留分権利者を保護するためである。確かに,放棄の許可審判においては,当事者の意思確認だけではなく,放棄の合理性・妥当性について一切の事情を考慮したうえで判断されるのだとしても,意思確認こそが中核をなすこと自体は明らかであり,いかなる動機で事前放棄の許可を申し立てたのか等の抗告人の意思について一切審理することなく,合理的代償が一切ないことが明らかであるとの一事をもってこれを却下した原審の判断には,法令解釈の誤りないしは審理不尽の違法があるといわざるを得ない。

3 よって,即時抗告の趣旨記載の裁判を求める。