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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺留分

持戻免除意思表示贈与も当然遺留分算定基礎財産算入

○「持戻免除の意思表示が遺留分を侵害する場合とは」に関連した民法903条1項の定める相続人に対する贈与に持戻免除の意思表示がある場合とその贈与の価額の遺留分算定の基礎となる財産の価額への算入すべきか否かとの論点についての平成11年6月8日大阪高裁判決(判時1704号80頁、判タ1029号259頁)を紹介します。

事案は以下の通りです。
・被相続人A(農業)は、平成元年2月、全財産をYに贈与する旨の自筆証書遺言をして、平成4年8月、死亡した。
・Aの相続人は、長男Y(農業))、二男X1,三男X2、四男X3の4名(何れも農業以外の公務員、会社員)
・Xらは、Yに対し遺留分減殺の意思表示をした上で本訴で遺留分減殺を請求
・Aの遺産は、宅地建物、預貯金等合計約1億4200万円、更にAは、昭和63年5月、Yに対し、相続開始時評価額約1億1800万円の農地等生前贈与し、持戻免除の意思表示

(遺留分の算定と特別受益、持戻免除の意思表示の関係について)
・Yは、持戻免除の意思表示がある場合は、第三者に対する一般贈与と同様に、相続開始前1年間に行われたとき、及び当事者双方に遺留分侵害の意思があるときにのみ、右贈与を遺留分算定の基礎財産に算入すべきで、本件農地の贈与は、遺留分算定の基礎財産に算入すべきではない
・Xらは、民法903条3項は「遺留分に関する規定に反しない範囲内で」と規定しており、共同相続人間の公平を図ろうとする本条項の趣旨から、遺留分に関する規定に反する本件農地の贈与は、当然遺留分算定の基礎財産に算入すべき


○被相続人が、生前、共同相続人の一人に対してなした贈与(特別受益)について、持戻免除の意思表示をしている場合に、遺留分算定の基礎財産に算入すべきであるか否かについては、
限定付算入説は、第三者に対する一般贈与と同様に、相続、開始前1年間に行われたとき、及び当事者双方に遺留分侵害の意思があるときにのみ、右贈与を遺留分算定の基礎財産に算入すべきとし(中川編・注釈相続法(下)〔島津一郎〕223頁、224頁、高梨公之「遺留分の算定」法セ48号29頁等)
無限定算入説は、民法903条1項に従い、1030条の制限なしに当然遺留分算定の基礎財産に算入すべきとし(柚木馨・判例相続法論206頁、我妻栄=唄孝一・判例コンメンタール相続法218頁等)
として対立していました。

○これにたいし平成11年6月8日大阪高裁判決は、「民法903条1項の定める相続人に対する贈与の価額は、被相続人が持戻免除の意思表示をしている場合であっても、民法1030条の定める制限なしに遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入すべきである。」として、無限定算入説を明言して、Xら側に軍配を挙げました。

○本件の前提問題として、特別受益に当たる生前贈与が、民法1030条の要件を満たさなくとも遺留分減殺請求の対象となるかについても、従前から学説が対立していましたが、「相続開始1年以上前の相続人への贈与は当然算入」記載の通り、平成10年3月24日最高裁判決は、「民法903条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。」と判示して、対立にピリオドを打ちました。