本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺留分

遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得する時期

「遺留分減殺請求に対する価額弁償の抗弁のポイント1」で、「被相続人Aの相続人は長男Bと二男Cの2人だけでAは唯一の遺産である1億円相当の甲土地をBに相続させるとの公正証書遺言を残し、Bがこの遺言書に基づき甲土地をB名義に所有権移転登記をした場合」について、Cの遺留分請求に対するBの価額弁償抗弁のポイントを説明していました。

○このケースでBが価額弁償の抗弁を出す場合、現実に2500万円を支払うか少なくとも2500万円を支払うとの履行の提供が必要とされています(最判昭和54年7月10日民集33巻5号457頁)が、相続開始時が平成18年1月1日で、CがBに対し遺留分減殺請求を同年6月1日に行い、翌平成19年2月1日に訴えを提起し、裁判途中の、平成20年2月1日にBがCに価額弁償として2500万円の支払提供を行ったとします。

○Bから価額弁償抗弁が出たのでCは、平成20年6月1日に訴えを価額弁償請求権に基づく金2500万円の支払請求に変更して、Bに対し金2500万円及びこれに対する相続開始時である平成18年1月1日から民法所定の年5%の割合による損害金の支払を求めました。

○この価額弁償請求権に基づく金員支払請求の遅延損害金が何時から発生するかという問題は、換言すると価額弁償請求権を確定的に取得する時期はいつかと言う問題です。この問題については確定判例がなかったところ、平成20年1月24日最高裁判決で結論を見ました。

○価額弁償請求権を確定的に取得する時期が争われた事案で、第1審は遺留分減殺請求をした日の翌日から遅延損害金の発生を認めましたが、第2審では判決確定の日の翌日からとされました。第2審の理由は、価額弁償の抗弁が出された場合の判決は、「金2500万円の支払をしないときは、Cの持分4分の1について平成18年6月1日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ」となるので、裁判所が受遺者Bに対し金2500万円の支払を命じて初めてCが2500万円の支払請求権を確定的に取得するものだからであると説明されました。

○これに対し平成20年1月24日最高裁判決は、価額弁償請求権を確定的に取得する時期について、価額弁償の抗弁が出され、遺留分権利者が受遺者に対し価額弁償請求権に基づく弁償金支払を請求することによって、遺留分権利者はその時点で、遺留分減殺によって取得した目的物についての所有権(持分権)及びこれに基づく返還請求権を遡って失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得するとし、遅延損害金の発生時期は、弁償金支払請求をした日の翌日からになるとしました。

○先のケースでは弁償金支払請求をした平成20年6月1日の翌日の2日から遅延損害金が発生することになります。従って遺留分減殺請求される側としては、遅延損害金の支払を少なくするには訴訟になっても価額弁償の抗弁を出すのは出来るだけ先延ばしした方が良いようです。