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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

咀嚼障害を含む併合9級後遺障害の労働能力喪失率認定判例紹介3

○「咀嚼障害を含む併合9級後遺障害の労働能力喪失率認定判例紹介2」を続けます。
60歳代男子歩行者誘導員の原告は、平成19年4月21日午後2時40分頃、宮城県名取市内の歩道で業務に従事中、被告運転、被告会社所有の跳ね上げたホースによって歯牙脱臼等から咀嚼機能障害10級3号等併合9級の後遺障害が残存したとして2101万5301円を求めて訴えを提起しました。

○これに対し、平成24年11月30日仙台地裁判決(自保ジャーナル・第1900号)は、後遺障害逸失利益の算定につき、「歯牙の障害は別表第2の後遺障害等級14級に該当し、咀嚼障害は別表第2の後遺障害等級10級に該当することから、上位等級である別表第2の後遺障害等級10級相当の後遺障害が生じた」と認定して、事故前年の収入を基礎収入に、平均余命の2分の1の10年間27%の労働能力喪失により認定しました。以下、判決の内咀嚼障害関連部分を紹介します。

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主  文
1 被告は、原告に対し、1061万5293円及びうち1031万3897円に対する平成19年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、2101万5301円及びうち2071万3905円に対する平成19年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、交通誘導警備員として従事していた原告が、被告に対し、被告の従業員が車両を運転中、道路上に設置されていたホースを引っかけた際、そのホースが原告にあたって怪我をしたと主張して、不法行為による損害賠償請求権(使用者責任。民法715条、自動車損害賠償保障法3条)に基づき、その損害の賠償と不法行為の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める事案である。

1 前提事実(認定根拠を示すほかは、当事者間に争いがないか、又は、明らかに争いがない。)

         (中略)

第三 争点に対する判断
1 認定事実

 前記前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

         (中略)

(2)本件事故前、訴外丙川は、加害車両を走行中、本件事故現場の手前で道路上にホースが障害となっていることを確認したが、前方を走る乗用車が無事に通り過ぎたので大丈夫であろうと考え、時速40㎞から50㎞程度、若しくは、もう少し遅い速度に減速したが徐行することなく進行した。なお、本件事故現場の手前には、危険を示すような看板等の注意喚起はなく、ホースの上にゴムカバーや鉄板などは敷かれておらず、むき出しの状態であった。

 原告は、本件事故現場の道路に背を向けて歩行者誘導にあたっていたところ、加害車両がホースを設置していた場所を通過した際、突然背中に衝撃を受けて、外傷性歯牙脱臼、外傷性歯牙破、外傷性歯牙打撲、顔面外傷、頸椎捻挫、全身打撲等の傷害を負った。

         (中略)

2 判断
(1) 被告(ないし訴外丙川)及び原告の過失等


         (中略)

(2) 損害
ア 治療費(診療費及び薬剤費) 119万7730円
 証拠(略)により上記のとおり認められる。

イ 入院雑費 3万9000円
 証拠(略)により原告の入院期間は26日間であると認められ、1日あたり1500円が相当である。

ウ 入通院慰謝料 110万円
 入院期間26日間及び入院期間を除いた通院期間73日間を考慮した。

エ 後遺障害慰謝料 550万円
 原告の主張を勘案しても、歯牙の障害は別表第2の後遺障害等級14級に該当し、咀嚼障害は別表第2の後遺障害等級10級に該当することから、上位等級である別表第2の後遺障害等級10級相当の後遺障害が生じたとみることができ、上記の金額の慰謝料が相当である。

オ 休業損害 51万9552円
 以下の計算式に基づく休業損害が生じたとみるのが相当である。
 5248円×99日間
 休業損害日額:5248円(本件事故前年の平成18年度の年収191万5640円÷365日)
 入通院期間:99日間

カ 逸失利益 399万3839円
 以下の計算式に基づく逸失利益が生じたとみるのが相当である。
 191万5640円×27%×7.7217
 基礎収入 191万5640円(本件事故前年の平成18年度の年収。なお原告は、平成19年賃金センサス男性学歴計60歳から64歳の442万6800円を基礎収入とすべきと主張するが、その収入を得られる蓋然性等に鑑み、本件事故前年の年収を基礎収入とするのが相当である。)
 労働能力喪失率 27%(別表第2の後遺障害等級10級)
 平均余命の半分(10年)に対応するライプニッツ係数 7.7217