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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

母指関節可動域制限についての平成25年9月30日横浜地裁判決一部紹介

○交通事故による後遺障害として左母指IP関節可動域制限についての判例を探していますが、これを直接論じた判決が見つけられません。おそらく母指IP関節部分だけの関節可動域制限の事例は少ないものと思われます。僅かに「右拇指の橈側外転・掌側外転の可動域制限」の事例がありましたが、「患側の可動域(右75度)が健側の可動域(左150度)の2分の1以下に制限されている」との認定が不可思議です。母指の関節可動域は、IP関節(指節間関節)とMP関節(中手指節間関節)であり、いずれも参考可動域が150度なんて大きいものがないからです。

○以下、母指関節可動域制限を論じた平成25年9月30日横浜地裁判決(自保ジャーナル・第1910号)の該当部分のみ紹介します。母指関節可動域制限部分を第10級7号に認定しています。

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(6) 逸失利益
ア 基礎収入
 前記(5)アに認定した平均月額から年額を推計すると、454万6092円となる。

イ 労働能力喪失率
 原告には、本件事故による傷害の後遺障害が残り、その程度は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二(以下「自賠」という。)においては第11級に認定されるとともに、労働者災害補償保険法に基づく障害給付においては、障害等級(以下「労災」という。)9級と認定されたことは、当事者間に争いがない。
 証拠(略)によれば、自賠11級と労災9級の認定の違いは、次のとおり認定がされたからであることが認められる。
 後遺障害(以下「障害①等という。) 
①右手関節の痛み(右手関節中心の神経症状)
  自賠 労災
 12級13号 14級の9(系列13)
②右手関節の機能障害(右手関節の可動域制限) 自賠 労災
 非該当 12級の6(系列18)
③右前腕の運動障害(右前腕の回内・回外可動域制限) 
 自賠 労災
 非該当 準用12級(系列18)
④右手関節の変形障害 
 自賠 労災
 12級8号 対象とせず
⑤右拇指の橈側外転・掌側外転の可動域制限 
 自賠 労災
 対象とせず 10級の6(系列24)

⑥右腕の醜状障害 
 自賠 労災
 対象とせず 14級の3(系列20)

 障害⑤は、証拠(略)によれば、平成23年8月24日、C労働局地方労災医員が原告の拇指の橈側外転は右30度、左60度、掌側外転は右45度、左90度と測定し、患側の可動域(右75度)が健側の可動域(左150度)の2分の1以下に制限されていることから認定されたものであることが認められる。
 証拠(略)によれば、傷病名に「右長拇指伸筋断裂」があるが、自覚症状には拇指に関する障害の記載がなく、可動域の測定自体がされていないことが認められ、このため、自賠においては、右拇指に関する後遺障害が判断の対象とされなかったものと推認される。

 被告らは、右拇指の可動域制限がなかったから記載されなかったと主張するが、証拠(略)において、右拇指の可動域を測定した上で、可動域制限がないことを確認した形跡がない以上、実際の測定に基づく証拠(略)における認定の方が信用性がある。したがって、障害⑤は、自賠においても、第10級7号に該当するものと認められる。


 障害②について、証拠(略)には、後遺障害診断書上、患側の可動域が健側の可動域の4分の3以下に制限されていないとの記載がある。しかし、証拠(略)の後遺障害診断書は、証拠(略)の後遺障害診断書(両診断書とも平成23年4月26日付け診断)の可動域の測定結果を訂正したものであるところ、「自動」の欄の記載では、屈曲・伸展について、患側が屈曲45度、伸展50度で可動域95度、健側が屈曲65度、伸展75度で可動域140度であり、橈屈・尺屈について、患側が橈屈15度、尺屈40度で可動域55度であり、健側が橈屈25度、尺屈50度で可動域75度であり、患側の可動域が健側の可動域の4分の3以下に制限されているから、この点は参考とし得る。

 また、同年8月24日付けの証拠(略)によれば、屈曲・伸展について、患側が屈曲45度、伸展60度で可動域105度、健側が屈曲70度、伸展90度で可動域160度であり、橈屈・尺屈について、患側が橈屈10度、尺屈20度で可動域30度であり、健側が橈屈20度、尺屈45度で可動域65度であり、患側の可動域が健側の可動域の4分の3以下に制限されている。以上によれば、患側の可動域が健側の可動域の4分の3以下に制限されていることが認められるから、障害②は、自賠においても、第12級6号に該当するものと認められる。

 以上のとおり、自賠においては、障害①、②及び④が12級、障害⑤が10級であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の後遺障害は、自賠においても、併合9級に該当するものである。したがって、原告の労働能力喪失率は、9級相当の35%であると認められる。

ウ 以上によれば、原告の逸失利益は、67歳までの21年に相当するライプニッツ係数を乗じて、2040万224円と認められる。