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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

過失相殺・損益相殺・消滅時効

好意(無償)同乗のみの理由では減額されないのが原則-裁判例紹介1

○好意同乗を理由に損害賠償額が減額される事案であり、既払金で損害は全て填補されていることは確実なので、これ以上の支払は一切できませんと保険会社から通知されたとの、今時、珍しい事案の相談がありました。というのは、確かに昔は、好意で同乗していた被害者の賠償額を減額するという考え方が強い時代もありましたが、現在は、「単なる好意同乗(無償同乗)のみを理由としては、賠償額を減額しない」との考えが一般的だからです(青本25訂版206頁)。

○但し、青本25訂版206頁には、「危険な運転状態を容認又は危険な運転を助長、誘発した等の場合には、加害者の過失の程度等を考慮の上一定程度の減額を行うか、慰謝料を減ずる扱いをすることがある。」とも記載されています。典型例は運転者と共に飲酒し、運転者が飲酒状態で運転することを知っていながら同乗した場合です。

○免許停止処分中の加害者が運転する自動二輪車に同乗中信号機のある交差点で対抗右折車両と衝突して同乗の被害者が死亡した場合で、運転者は免許取得後1年以内で、二人乗りは禁止されており、被害者がその事実を認識していたとしても、過失相殺すべき過失はないとした平成18年11月2日大阪地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1707号)の好意同乗論部分についての記述を紹介します。

○先ず被告加害者側の主張です。
【被告らの主張】
 亡花子と被告丙川は、本件事故のあった平成14年の7月ころに知り合い、同年8月ころより交際していたもので、多いときには週に3回程度亡花子が北尾宅を訪れていたものである。
 本件事故の日も亡花子は被告丙川宅で食事をしており、午後11時過ぎに至り、被告丙川が、丙川車で、亡花子を自宅まで送り届けようとした際に本件事故が発生したものである。
 被告丙川が、亡花子を自宅まで送り届けるのに電車を利用すると、被告丙川が帰宅することが難しくなる時間であった。また、被告丙川と亡花子が交際する中で、被告丙川は、平成14年の6月ころに免許を取得したことを、亡花子に話しており、亡花子は被告丙川が免許取得後間もない初心者であることを知悉していた。被告丙川が自動二輪車を運転する場合に、それに同乗することは道路交通法(平成16年6月9日法律第90号による改正前のもの。以下「道交法」という。)71条の4第5項により禁止されている行為であり、亡花子は、自ら危険を寛容したものである。
 以上から、亡花子の損害について、好意同乗減額がなされるべき事案である。


○これに対する裁判所の判断は次の通りでした。
第三 争点に対する判断
1 責任原因及び過失相殺

(1) 前提事実及び証拠(略)によれば、本件事故は、信号機により交通整理のされた交差点(双方青信号)での、対向する直進自動二輪車(青信号で進入)と右折四輪車(青信号で進入し交差点内で右折待ちのため一旦停止後発進)との衝突事故であり、乙山車、丙川車を運転していた被告三郎及び被告丙川には、それぞれ対向車に対する注意を欠いた過失が認められる。

 したがって、被告三郎及び被告丙川については民法709条に基づく責任が認められるし、本件事故は、1つの衝突事故であるから民法719条1項前段の共同不法行為にも当たる。

(2) また、前記証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件事故現場付近は、最高制限速度が時速60㎞であったが、丙川車は時速約60㎞で進行して乙山車と衝突していること、本件事故当時被告丙川は、免許停止処分を受けており無免許運転であったこと及び道交法71条の4第5項により二人乗り運転が禁止されていたことが認められる。

 これに対し、亡花子については、被告丙川が免許を取得して1年未満であるのに二人乗り運転をしていたことを知っていたものと認められる。この点、原告は、被告丙川の供述を信用できないとするが、本件事故当時原告と被告は親しく交際していたものであり、亡花子は何度か丙川車に乗車する機会があったことは否定できないところ、被告丙川の免許や丙川車の入手などについて会話が交わされていることは自然な内容であり、前記限度では信用することができると考える(亡花子に、その法的な制限も認識していたとする刑事事件での証言(証拠略)もあるが、亡花子の年齢等に鑑みるとここまでは認めがたい。)。

 また、本件は同時1回的な共同不法行為事案であるから、亡花子の過失が事故や損害の発生・拡大に影響を及ぼしているのであれば、全加害者との関係で絶対的な過失相殺割合を考え、過失相殺することとなる(原告引用の判例は、本件と事案を異にする。)。
 しかし、前記事故態様及び被告丙川の無免許運転等の被告ら側の過失内容を総合し、亡花子が免許取得後1年内の二人乗りに当たる事実を認識しながら被告丙川の運転する丙川車に同乗していたことを比較すると、本件では、亡花子に過失相殺すべき過失があるとは言えないと考える。