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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

会社役員報酬減額なしでの休業損害・逸失利益についての参考判例紹介2

○「会社役員報酬減額なしでの休業損害・逸失利益についての参考判例紹介1」の続きです。

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2 この認定事実に対し、原告X1は、本人尋問において、本件交差点手前の一時停止線付近で停止したと供述するが、他方で、一時停止線で停止したか否か厳密な記憶はないとも供述しており、これと同趣旨の内容が記載された証拠(甲51)が存在することと対比して、右の供述はただちには採用できない。

 また、被告Y1は、本人尋問において、衝突態様及び部位については、認定事実のとおり供述しながら、被害車両と衝突した地点は、本件交差点の東側出入口付近であるものの、東西道路の南側車線(西方向へ向かう車線)内であると供述して図示する。ところで、被告Y1は、本件事故直後に行われた実況見分において、本件交差点中央の東西道路南側車線上で、南北道路を直進する被害車両に加害車両の前部が衝突したかのような指示説明をしている(甲三、なお、被告Y1本人は、原告X1が直進してきたと説明したことはこれまでに一度もないと供述するが、実況見分調書の内容と明らかに異なっており、採用できない。)。

 これによれば、衝突地点が東西道路南側車線上であることは一貫しているものの、衝突態様及び部位については、本件事故が一瞬の出来事で説明があいまいとなる可能性があることを考慮しても、なお、看過できない相異がある。被告Y1が供述するとおりの事故態様であるとすれば、何も、実況見分において、これと異なる事故態様を説明する必要はないのであって、事故直後に、あえて、これと異なる説明をしていることは、真実の事故態様が自己に不都合なものであったことをうかがわせるものといえる。
 そして、本件交差点を自転車に乗って左折しようとする者が、いかに幅員が広くない道路とはいえ、中央線があるのに、あからさまに反対車線に入り込むような形で左折進行することには疑問がある。これらの事情に加え、東西道路の幅員、加害車両の車幅、さらには、東西道路で西方向へ進行する車両が本件交差点を通過する際、中央線を超えて通行することは、それほど珍しいことではないことを総合すると、被告Y1の供述には疑問があり、直ちには採用できない。

 なお、原告X1が、本件事故直後、被告Y1に対し、「すみません。」とか、「道を一本間違えた。」と述べていることは、被害車両が、東西道路の中央線を超えて南側車線に進入したことをうかがわせるものといえなくはない。しかし、本件事故が出会頭の事故であり、原告X1が進行してきた南北道路側に一時停止線があること、被害車両が左折するに際して東西道路の中央線付近まで進行していることに照らすと、1で認定した事故態様であったとしても、原告X1が、被告Y1に対して咄嗟に謝罪や弁解をすることは不自然とまではいえず、このことをもって、直ちに、衝突地点が東西道路の南側車線内であったと認定することはできない。

3 1の認定事実によれば、被告Y1には、東西道路の幅員が大きくなく、かつ、対向車両がなかったとはいえ、本件交差点に進入するに際し、交差道路の通行を確認することも減速をすることもなく、漫然と制限速度かこれを若干超える速度で、中央線をはみ出して走行した過失がある。この過失によって、本件事故が発生したのであるから、被告Y1は、民法709条により、本件事故と相当因果関係のある損害を賠償する責任がある。また、被告平沼泰郁は、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、被告Y1と連帯して損害を賠償する責任がある。

 他方、原告X1も、減速したとはいえ、一時停止線で一時停止することなく、かつ、東西道路の東方向をまったく確認せず、自転車に乗車しながら道路の中央線に接近して左折した過失があるというべきである。
 この過失の内容、本件事故の態様を総合すると(特に、東西道路の幅員が広くないことや、場合によって追い越しをする車両があることを考慮すると、原告X1は、東方向から進行してくる車両の有無を確認する必要がないということはできず、この確認を怠り、かつ、自転車でありながら、道路の左端を通行しなかったことは軽視できない。また、被告Y1が加害車両を中央線からはみ出して走行させていたことも軽視できないが、道路の幅員が広くないことや対向車両が存在しなかったことを考えると、ことさら、このことのみを重視するのは相当でなく、むしろ、交差道路の様子をカーブミラーで確認することなく、かつ、減速もせずに本件交差点に進入しようとした過失を重視すべきである。)、被告Y1と原告X1の本件事故に寄与した過失の割合は、被告Y1が70パーセント、原告X1が30パーセントとするのが相当である。

二 各損害額(争点2)
1 原告A株式会社が原告X1に支払った役員報酬(請求額1894万2222円) 1179万9862円

(一) 前提となる事実及び証拠(甲14、17の1・2、18の1・2、21~27、原告X1本人)によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 原告X1は、本件事故後、前提となる事実2のとおり、負傷して入通院し、三回(頭が一回、足が二回)にわたって手術を受け、久我山病院において、平成7年10月30日をもって、右肩関節の可動域制限と運動時痛が残存して症状が固定した旨の診断を受けた。原告X1は、この診断を前提に、自動車保険料率算定会新宿調査事務所において、後遺障害等級の事前認定を受けたが、結果は非該当であった。原告X1は、久我山病院で右の診断を受けた後も、同年10月31日から岡田クリニックに通院し、理学療法による治療を受けた。これにより、右肩関節の可動域は、若干改善されたが、平成8年9月末日において、以前、健側である左肩よりも可動域が若干制限された障害(自動運動について、屈曲は、左側が150度であるのに対し右側は130度、外転は、左側が120度であるのに対し右側は75度、外旋は、左側が75度であるのに対し右側は50度である。)が残存し、症状固定の診断を受けた。

(2) 原告会社は、資本金3億円で、B株式会社が100パーセント株式を所有する昭和60年に設立された会社であり、本件事故当時、役員は6名で原告X1は常勤の代表取締役であった。従業員は、約70名であり、パートタイマーを含めて約120名であった。原告X1は、原告会社設立当時から経営の中枢におり、資金調達や建物の建築など重要な事柄について決定することなどの仕事に従事していた。原告X1は、本件事故に遭った直後は、十分に働くことができなかったが、平成6年には年間1588万1084円が役員報酬として支払われ、平成7年には年間1610万6459円、平成8年には年間1751万5256円が役員報酬として支払われた。原告会社の営業状態は良好であり、平成6年度は、当期利益として約1億9100万円を、平成7年度は、当期利益として約1億6400万円を計上した。

(二) 一般に、会社役員の報酬中には、役員として実際に稼働する対価としての実質をもつ部分と、利益配当等の実質をもつ部分とがあり、後者は、役員の地位にある限り当然に支払われるものであるから、会社役員の逸失利益については、前者についてのみ判断すれば足りるというべきである。

 原告会社は、平成6年以降も利益を出している上、原告X1は、完全に稼働できない状態でありながら、平成6年以降年収が増加していることからすると、原告X1の年収のうち、ある程度の利益配当部分が存在することは否定できない。しかし、原告X1は、原告会社の設立当時から経営の中枢におり、本件事故当時においても、会社の重要な事柄について決定を行っていた。そして、原告X1の年収額、原告会社の規模に加え、平成6年度賃金センサス産業計・企業規模計・男子旧大卒・新大卒55歳から57歳の平均賃金が年間1008万5400円であること(当裁判所に顕著な事実である。なお、原告X1の最終学歴は本件全証拠によっても明らかではないが、本件事故当時の年齢は57歳である。)を併せて考えると、原告X1の収入における稼働の対価分の割合は比較的高いというべきであり、これらの事情を総合すると、原告X1においては、本件事故に遭う前年である平成5年分の収入が明らかでないので、少なくとも、平成6年分の収入である年間1588万1084円(本来は、本件事故に遭う前年である平成5年分の収入を参考にするのが適切であるが、本件全証拠によっても、それは明らかでないので、本件事故に遭った年以降で最も少ない収入を基礎とした。)の8割に相当する1270万4867円(1円未満切捨)は実際の稼働による対価とするのが相当である。

 ところで、原告X1は、平成7年10月30日にいったん症状固定の診断を受けているものの、その後も、治療により症状は若干改善したのであるから、平成8年9月30日の岡田クリニックでの治療終了までは、本件事故と相当因果関係のある治療ということができる。そして、原告X1の負傷の内容、症状の経過及び通院頻度に加え、平成7年10月30日にいったんは症状固定と診断されていることを併せて考えると、原告X1は、平成6年7月31日から同年9月15日までの入院47日間と、平成7年6月22日から同年6月28日までの入院7日間を合わせた54日間については100パーセントの、平成6年9月16日から平成7年10月30日までの410日間から、平成7年6月22日から同年6月28日までの入院7日間を差し引いた403日間については平均して50パーセントの限度で、同年10月31日から平成8年9月30日までの336日間については平均して25パーセントの限度で、労働能力を制限されたと判断するのが相当である。

 原告会社は、右の間、原告X1から、一定の割合の労務の提供を受けなかったにもかかわらず、役員報酬を支払ってきたものであるが、これは、原告X1及びその家族が、本件事故以前と同程度の生活を維持するために支払をしたものであると推認できるから、原告X1の労務の対価に相当する分の限度で本件事故と相当因果関係があるというべきである。したがって、原告会社が、平成6年分から平成8年分として原告X1に支払った役員報酬のうち、損害として本件事故と相当因果関係の認められるのは、1179万9862円(一円未満切捨)となる。
 12,704,867×(54+403×0.5+336×0.25)/365=11,799,862

2 原告X1の慰謝料(請求額400万円) 250万円
 すでに認定した原告X1の負傷内容、入通院の経過、症状固定後に残存した症状などの事情を総合すると、原告X1の慰謝料としては、250万円を相当と認める。
 なお、原告は、本件事故後の対応において、被告Y1に誠意が見られないなどと縷々主張し、これによって増幅された精神的損害としてさらに100万円は下らないと主張する。前提となる事実及び証拠(甲52、原告X1本人、被告Y1本人)によれば、被告Y1は、本件事故直後、所持していた携帯電話で救急車を呼んだこと、警察官が本件事故発生場所に到着するまで現場で待機し、実況見分の立会いをしたこと、本件事故後まもなく、入院した原告X1を一度見舞ったこと、その後、原告X1と被告Y1との間で、任意保険会社を交えて補償について話し合いがなされたが、事故態様について争いがあり、被告らが過失相殺を主張したことなどから、話し合いはまとまらず、本件訴訟に至ったことなどの事情が認められるが、これらの対応では、慰謝料が増幅されるとまではいえないというべきである。

3 原告X2の慰謝料(請求額120万円) 認められない
 証拠(原告X1本人)によれば、原告X2は、本件事故の発生を知らされて衝撃を受け、原告のX1の病状や将来に不安を持ったことが認められるが、すでに認定したとおり、原告X1は、入通院治療を経てしだいに回復し、現在は、右肩関節の可動域に多少の制限が残存しているものの、原告会社に勤務をしている。原告X1の負傷内容や、このような治療経過及び現在の状況に照らすと、原告X2は、原告X1が死亡した場合にも比肩するような精神的苦痛を受けたとはいえないから、原告X2固有の精神的損害としての慰謝料は認められないというべきである。

4 過失相殺
(一) 原告X1は、岡田クリニックを除く入通院治療費、入通院交通費、雑費などについて、被告らから保険会社を通じて支払を受けたことを自認しているが、これらの金額について、被告らは主張も立証もしないし、原告X1も、岡田クリニックの治療費や通院交通費を請求せず、本件全証拠によっても、この金額は明らかでない(なお、甲15によれば、原告X1が、少なくとも、久我山病院に治療費(文書料を含む)として3万1240円を支払ったことを認めることができるが、これについても、被告らが清算済みであるのか否か定かでない。)。

 したがって、これらを加えた損害総額は不明であるので、判明している金額を損害総額とし、原告X1の慰謝料250万円から、本件事故に寄与した原告X1の過失割合である30パーセントに相当する金額を減ずると、原告X1の過失相殺後の金額は、175万円となる。

(二) 原告会社の損害額1179万9862円から、本件事故に寄与した原告X1の過失割合である30パーセントに相当する金額を減ずると(原告会社の損害は、結局、原告X1の休業損害を前提にするものであるから、原告会社の損害についても、過失相殺がなされるべきである。)、原告会社の過失相殺後の金額は、825万9903円(一円未満切捨)となる。

5 弁護士費用(請求額 原告会社189万4000円、原告X140万円、原告X212万円)
 審理の経過、認容額などの事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告X1が20万円、原告会社が100万円を相当と認める。

第四 結論
 以上によれば、原告X1及び原告会社の請求は、不法行為に基づく損害金として原告X1が195万円、原告会社が925万9903円及びこれらに対する平成6年7月31日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告X2の請求は理由がない。
 (裁判官 山崎秀尚)