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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

その他交通事故

県立高校体育祭騎馬戦落馬重大後遺障害損害賠償約2億円認定判例紹介4

○「県立高校体育祭騎馬戦落馬重大後遺障害損害賠償約2億円認定判例紹介3」の続きです。損害の発生とその金額算定の一部と過失相殺・損益相殺、消滅時効の主張に対する判断と結論です。
争いのない既払金約5000万円を含めると総額で約2億5000万円となりますが、第7頸椎以下完全麻痺の後遺障害等級事案としては、それほど大きな認定金額ではありません。両親健在予測期間15年間の将来介護費用が1日8000円と認定されたからです。

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(13) 症状固定後,将来にわたる介護用品,装具,器具等購入費
ア 基本的な考え方
 将来にわたる必要性を認定できる費目につき,症状固定日である平成16年3月31日以降に実際に原告らが支出したと認定できる費用を踏まえて,同日以後将来にわたる損害額を算定する。

イ 紙おむつ 138万1838円
 前記(9)のとおり,原告X1は本件事故により日額200円,年額7万3000円相当の紙おむつを使用せざるを得なくなったが,症状固定日時点での原告X1の症状に照らせば,その必要性を生涯にわたり認めることができる。
 したがって,紙おむつの年額7万3000円に,症状固定日から原告X1が平均余命を迎える平成76年までの60年間のライプニッツ係数18.9293を乗じた,138万1838円を,将来の紙おむつ代の損害と認める。

ウ リハビリ器具 65万7671円
 甲14,19号証によれば,原告X1が平成18年3月2日に家庭用トレッドミル「ORK-3000」の特別仕様を42万円で,平成25年11月19日にトレッドミル「OMEGA3」を19万9500円で購入した事実が認められる。
 前記(5)のとおり,原告X1については症状固定後将来にわたるリハビリ継続の必要性を認定することができ,その期間は生涯にわたるものというべきである。しかし他方で,平成18年3月2日に購入したトレッドミルにつき,特別仕様の内容及びその必要性相当性に関する主張立証はない。
 そこで,リハビリ器具については,1台19万9500円のトレッドミルを,症状が固定した平成16年に初めて購入し,以後,耐用年数7年ごとに買い換える(最終回は症状固定後56年目)こととして,年5%の中間利息の控除にはライプニッツ係数現価表の小数点以下5桁目を四捨五入した数値を採用して,下記の計算式により,65万7671円を症状固定後将来にわたる購入費用相当額の損害と認める。
 計算式:19万9500円×(1+0.7107+0.5051+0.3589+0.2551+0.1813+0.1288+0.0916+0.0651)

エ 介護用ベッド 100万1960円
 甲20号証2,3頁及び原告X2の証言により,原告X1は,平成16年7月頃,介護用ベッド購入のため40万円を要したと認める。
 原告X1の後遺障害の程度に照らせば,介護用ベッドは症状固定後生涯にわたり必要であると認める。初回購入が平成16年,耐用年数10年ごとの買い換えを要する(最終回は症状固定後60年目)こととし,上記ウ同様の下記の計算式により,100万1960円を将来の介護ベッド費用相当額の損害と認める。
 計算式:40万円×(1+0.6139+0.3769+0.2314+0.1420+0.0872+0.0535)

オ 車いす 139万4064円
 甲13号証によれば,原告X1は,平成17年11月24日,車いす購入のため31万5000円を要したと認められる。
 原告X1の後遺障害の程度に照らし,車いすは症状固定後生涯にわたり必要であると認める。初回購入が平成16年,耐用年数5年ごとの買い換えを要する(最終回は症状固定後60年目)こととし,上記ウ同様の下記の計算式により,139万4064円を将来の車いす費用相当額の損害と認める。
 計算式:31万5000円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3769+0.2953+0.2314+0.1813+0.1420+0.1113+0.0872+0.0683+0.0535)

カ 装具 231万9753円
 甲7,8号証の各1及び2によれば,原告は平成16年12月8日に下肢装具購入のため22万9690円を,平成20年1月30日には膝装具及び靴型装具購入のために29万4477円を要したと認められ,原告X1の本人尋問結果によれば,原告X1はこれらの下肢装具を用いてリハビリを行っていると認められる。
 原告X1の後遺障害の程度並びにリハビリの必要性に照らし,下肢装具の症状固定後生涯にわたる必要性を認め,これらの装具を平成16年に初回購入し,耐用年数5年ごとの買い換えを要する(最終回は症状固定後60年目)こととし,上記ウ同様の下記の計算式により,231万9753円を将来の装具費用相当額の損害と認める。
 計算式:52万4167円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3769+0.2953+0.2314+0.1813+0.1420+0.1113+0.0872+0.0683+0.0535)

キ 介護用マットレス及び車いす用グローブ 42万3900円
 甲15号証及び甲12号証によれば,原告X1はいずれも平成16年に車いす用グローブ代7600円,介護用マットレス代5万2920円を支出したと認められる。
 これらの生涯にわたる必要性を認め,平成16年に初回購入し,耐用年数3年ごとの買い換えを要する(最終回は症状固定後60年目)こととし,上記ウ同様の下記の計算式により,42万3900円を将来の費用相当額の損害と認める。
 計算式:6万0520円×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3101+0.2678+0.2314+0.1999+0.1727+0.1491+0.1288+0.1113+0.0961+0.0831+0.0717+0.0620+0.0535)

ク 介護用自動車 50万0980円
 甲4号証の1及び2,甲5,6号証及び原告X2の尋問結果によれば,平成16年4月に自動車(トヨタ プリウス)を220万円で購入し,同年6月に20万5905円で同車両に助手席回転シートを取り付けたこと,しかし原告X1の体格のため当該車両を介護用自動車として使うことができず,同年9月12日に改めて自動車(ニッサン セレナ)を240万円で購入したこと,平成21年9月24日にサイドリフトアップシート付きの介護用自動車(トヨタ エスティマハイブリッド)を404万円で購入したことが認められる。
 原告X1の後遺障害の程度に鑑み,生涯にわたり介護用自動車が必要であると認めるが,通常の自動車の買い換え費用は本件事故の有無に関わらず生じるため,因果関係のある損害は介護用自動車の購入費用から通常の自動車の購入費用を控除した金額である。本件においては,平成16年4月に購入したプリウスに助手席回転シートを取り付けた費用が20万9000円であったこと,同年9月に購入した介護用のセレナと当初のプリウスとの差額が20万円であったことから,20万円を当該差額相当額と認める。初回購入を平成16年,耐用年数10年ごとに買い換える(最終回は症状固定後60年目)こととし,上記ウ同様の下記の計算式により,50万0980円を将来の介護用自動車購入に係る損害と認める。
 算式:20万円×(1+0.6139+0.3769+0.2314+0.1420+0.0872+0.0535)

(14) 休業損害
 原告X1が,本件事故がなければ高校卒業と同時に稼働していたと仮定したとしても,稼働開始時期は平成16年4月1日であるところ,症状固定日は同年3月31日である。
 したがって,休業損害の問題は生じず,下記(15)の後遺障害逸失利益として検討する。

(15) 後遺障害逸失利益 9860万1534円
 原告X1は,18才の高校卒業後,67才に達するまでの49年間,その労働能力の100%を喪失したと認められる。原告X1の基礎収入は,賃金センサス平成16年産業計男性労働者学歴計全年齢平均の,年額542万7000円とするべきである。
 したがって,原告X1の後遺障害逸失利益は,下記の計算式により,9860万1534円と認める。
 計算式:542万7000円×18.1687(49年間のライプニッツ係数)

(16) 入通院慰謝料 312万円
 認定可能な原告X1の入院期間が324日である(これには前記認定のとおり症状固定後の入院日を含むものであるが,その治療内容に照らすと後記認定の後遺障害慰謝料とは別個にこれを慰謝料算定の要素として考慮することが相当である。)こと及びその他一切の事情を勘案し,312万円を相当と認める。

(17) 後遺障害慰謝料 2800万円
 本件事故により,原告X1に後遺障害等級1級相当の第7頚髄節以下完全麻痺の後遺障害が残存したこと及びその他一切の事情を勘案し,2800万円を相当と認める。

4 争点(4)(過失相殺及び損益相殺)について
(1) 被告は,原告X1がテニスやスキーの経験者であって相当の危険回避能力を有していたにもかかわらず,本件事故時に相手の騎手から手を放して地面に手をつく等の危険回避行動をとっていないことを踏まえて一定の過失相殺をするべき旨を主張する。
 しかしながら,本件敗北条件の下で行われる騎馬戦は,そのルール上,騎手に対して,審判員に敗北と判定されるか規定の時間が経過しない限りは,相手の騎手と組み合い続けざるを得ないものである。また,原告X1が本件騎馬戦以前に騎馬戦を経験した機会は,a高校の1年生及び2年生の頃の体育祭に限られていて,しかもそのいずれにおいても馬を務めていたので騎手を務めたのは本件騎馬戦が初めてであった(原告X1本人13ないし15頁)。加えて,前記認定のとおり校長及び指導担当教諭らが,原告X1を含む生徒に対し,落馬時に危険回避行動を取る練習を特段行わせていなかったことを踏まえれば,原告X1が本件騎馬戦において落馬時に適切な回避行動を取らなかったとしても,それを原告X1の落ち度として過失相殺を行うことは失当というべきである。

(2) 次に,原告X1は本件事故後,a高校があいおい損害保険株式会社と締結していた傷害保険契約(レクレーション保険)に基づき入通院及び後遺障害保険金合計520万円を受領し,かつ,福岡県教育委員会から見舞金100万円を受領したことは当事者間に争いがない。
 被告は,これらにより原告X1の損害が填補されたものであり,原告X1の損害から控除するべき旨を主張する。
 しかし,これらのうち傷害保険契約に基づく保険金については,乙18号証によれば,当該契約は損害の填補を約したものではなく,被保険者の急激かつ偶然な外来の事故による傷害の治療のための入通院ないし後遺障害の残存といった事態が生じた場合に,損害の有無や金額の多寡を問わず,入通院日数や後遺障害の等級に応じた一定額の保険給付を行うことを保険者が約したものであると認められる。したがって,当該契約に基づき支払われた保険金は,既に払い込んだ保険料の対価たる性質を有するものであって,損害賠償額の算定に際し損益相殺として当然に控除されるべき利益には当たらない。そして,当該保険契約上,保険金の支払により保険会社への損害賠償請求権の代位が生じるといった事情は主張立証されていない。加えて,乙30号証によれば,a高校が当該保険契約を締結するに当たり払い込んだ保険料は,年度当初に原告X1を含む生徒らから徴収した金銭により賄われていたと認められるから,同人らが当該保険料を実質的には負担していたのであり,その対価たる保険金を原告X1の損害から控除しなければ均衡を失するともいい難い。
 したがって,保険金520万円については原告X1の損害から控除せず,福岡県教育委員会からの見舞金100万円のみ控除する。

5 争点(5)(消滅時効)について
 前記3(1)のとおり,原告らは,本件事故に起因する原告X1の症状が平成16年3月31日に固定した旨のF医師の診断を同年6月29日付けで得ており,遅くとも同日までに損害及び加害者を知ったといわざるを得ない。
 したがって,原告らの被告に対する国家賠償請求権は,平成19年6月29日の経過及び被告による消滅時効の援用により,時効消滅したものである。

6 小括
 以上のとおり,原告X1は被告の履行補助者である校長ないし指導担当教諭らの安全配慮義務違反により生じた本件事故に起因して,2億3422万4164円に相当する損害を被ったところ,原告X1が認める既払金5055万円及び福岡県教育委員会からの見舞金100万円を控除した残額は1億8267万4164円であるから,これを被告に請求するために要した弁護士費用としては1800万円を相当因果関係のある損害と認める。
 他方,既に判断したとおり,原告X2及び原告X3の被告に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については理由がなく,国家賠償請求権に基づく損害賠償請求権は時効により消滅しているので理由がない。

第4 結論
 以上の次第で,原告X1の被告に対する請求は,安全配慮義務違反に基づき2億0067万4164円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年8月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員を請求する限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却し,原告X2及び原告X3の請求はいずれも理由がないから棄却する。
 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 永井裕之 裁判官 住山真一郎 裁判官 太田慎吾)